最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

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大陸放浪編

水面の都〜前兆〜

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その夜は大使館の客室に泊まり、久しぶりに揺れない、柔らかい、布団の敷かれたベッドで眠ることができた。私は翌朝までぐっすりと眠り、起きると身体から随分疲労が抜けていた。



(何しろ強行軍の旅だもんね)

眠り病が進行している今、あまりゆっくりしている暇はない。私は洗濯してもらった服をトランクに仕舞い、ローブを着て出発の用意を整えた。応接室に行くと既にルークが待っていた。しかし、窓の外を見て何やら思い悩んでいる様子である。



「おはようございます、ルークさん。何かありましたか?」

「ん?ああ、あんたか」

「出発の用意が出来ました。行かないんですか?」

「……どうしたもんかなと思って」



いつも出発をせっつくルークが妙に消極的な姿勢を見せている。私は熱でもあるのかと、ルークの額に手を当ててみた。



「あ?!何するんだよ?」



ルークの額は妙にひんやりとしており、ルークは素っ頓狂な声を上げた。

「いえ、ご病気かなと思って」

「ちげぇよ。今は外に出るべきじゃねぇし、かといってここでただ何もせずいるのもどうかと思ってな……」



その言葉の意味を計りかねた私は首をかしげることしか出来なかった。そこにリアンがやってきた。



「おはよう、マヤ君。そしてごきげんよう、ルーク殿」



おはようございますと私が挨拶を返し、ルークはどーもと軽く返事をした。



「今日出発だったね。なんだか天候が悪そうだけれど、行くのかい?」

「そうですね。なんだかすごい風……」



その時遠くで雷鳴がした。



「やっぱりな……」

「失礼します、リアン参事官」



ルークが呟くと同時に従僕が部屋に入って来た。



「どうした?」

「観測士から各行政に伝令が!大型の嵐が急速に接近中。ペネロペ都市国家の中心部に直撃するとの予測です」

「そんな。この前の大雨で地盤が緩んでいる上に、いつもより増水している。今のペネロペ都市国家に直撃したら大災害は免れない……!」

「全くだ。昨日のうちに出発しておけばよかったぜ」

「ルークさん!なんてこと言うんですか」



他人事のように言うルークを私は諫めた。



「私は大使に報告を。それから観測士からの伝令を聞き逃すな。手の空いている者は邦人の安否確認と順次避難の準備を急げ」



リアンが指示を出すと、部屋を足早に飛び出していった。



「さて、おれたちも避難するか」

「ルークさんはそうしてください。私は救助が必要になった場合に備えてここに残ります」

「はぁ?一体何を言ってるんだ?ここは海抜ゼロ地域だぞ。運河が氾濫したら、まず間違いなく沈む。死にたいのか?」



ルークが驚きと焦りを混ぜて呆れたように私に声をかけた。



「私には召喚能力があります。魔獣を召喚すれば避難に遅れた人を救うことができます」

「召喚能力があるって言ったって、身体は一つしかないんだからたかだか数人だろ?」



私はきっとルークの真っ青な海色の瞳を睨みつけた。



「それでも、人が救えるなら私はやります!目の前のたかだか数人を救えなくて、どうして西大陸の人々が救えますか?貴方にとっては無意味で無価値で愚かな行動に見えても、私は自分のできることを精一杯やります」



私は強い語気でそう言い切ると紙を取り出して、魔法陣に書き込み始めた。それを見たルークは深い溜息をついた。



「……わぁったよ。あんた、あの海賊の船に乗り込む時に乗って来た魔獣呼び出せるか?」

「ルネスタのことですか?ええ、今から呼び出そうと思っていたところですが」

「そいつをおれに貸せ。嵐の中心まで行ければ、ここに直撃する前になんとかできるだろう」



私はルークの言葉に驚いて返事ができなかった。ルークが協力してくれること、そしてこの未曾有の大災害を一人で防ぐという二重の意味で信じられなかった。



「ん? 嫌なら別にやめたっていいんだぜ」

「いえ! けれどルネスタを制御できるのは私だけです。私も連れて行ってください」



それを聞いてルークはめんどくさそうな顔をした。



「えー。せめてあんたには安全なところにいてもらいたいんだが。まぁ、無理か。どんな無茶するか分からんし、それならいっそ連れて行った方がましか」



ルークは髪をくしゃくしゃとかきむしると、大きなため息をついて顔を上げた。その顔は強い意志を持つ勇者の顔だった。



「それじゃあ、軽く一国救ってやるか」

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