最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

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大陸放浪編

英雄の回想~船旅~

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 イスラ共和国を出たおれは上機嫌だった。

買ったヨットの性能はなかなかだった。

その上天候も良く、風を呼び、水の流れを操り、全速力で走らせるにはもってこいである。

マヤはデッキをちょろちょろ歩いて怪我でもされたら困るので隣に座らせている。

大きな目をきらきらさせて、ヨットの旅を楽しんでいる。

無邪気なもんだなとおれは思う。

こんな世間知らずのお嬢ちゃんが王国の危機を何度も救ったり、海賊や野盗をばったばったとなぎ倒しているとは思えない。



「気持ちいい……私、初めてルークさんの美点を見つけられました」



その発言はおれのプライドをいたく傷つけた。



「おれは美点の塊だろうが。この短時間でも人格、美貌、戦闘力、魔力、操舵技術、その他諸々が伝わらないのか!?」

「自分で言ってる時点で人格から問題があるかと思います」

こいつ、こんな性格だったか?

王国を出発した時はもう少し控えめだった気がしたが、どうやら本性を現したらしい。

色気が無くて酒に強くて口が悪いなんて、女としていかがなものだろうか。

マヤに籠絡された男たちの気が知れない。

でも、まぁ、マヤの歯に衣着せぬ物言いは、奥歯に物が挟まるような言い方よりはずっとましだ。



 飯を食い終わると、身体にロープを巻いてデッキで寝る。

マヤが心配したが、おれは皮肉な気持ちになった。



「心配いらねぇよ。おれたちの旅はどんな困難に直面しようと最後まで辿り着けるように出来ている。『運命』とやらの導きでな」



そう、誰が決めたかわからない『運命』とやらのお陰で、おれたちの命は必ずこの旅の終焉まで守られている。

風の音を聞き、波に揺られる感覚は嫌いじゃない。

やっぱり、船は自分で操縦するのに限る。

おれはゆっくりと眠りに落ちていった。



 海上の夜明けは早い。

おれは親切にもキャビンの真上で足踏みをしてマヤを起こしてやった。

その直後豪快に天井に頭をぶつける音がした。

マヤは頭をさすりながらデッキに上がって来た。

おれが現在の座標を正確に言い当てるとマヤは驚いた顔をしていた。

こんなことさほど難しいことではない。

基本に忠実に、あとは経験則である。

マヤもやっとおれの能力を認め始めたらしい。

イスラの船では半信半疑だったのに、船長に啖呵を切って見せた時はちょっと驚いた。



「真剣な人は信じることにしてるんです。嘘をついている人は信用できません」

「はん、優等生の言葉だね。世の中知らなかった方が良いことばっかりだぜ」



おれは心の底から忠告してやった。

マヤはこの旅の真実を知っても同じことを言えるのだろうか。



「それを決めるのは私自身です」



その時朝日がマヤの背後で昇り始めた。

暁の空とそれを見るマヤをおれは眩しく思った。

幸せな奴だ。

その清らかさは血や泥で手を汚さず、生きてこられた人間の言葉だ。



 それからさらに数日の後、飯を食べているとイルカの群れに出会った。

イルカは海の使者だと言われている。

おれは昔からこの賢く人懐っこいこの生き物が好きだった。

服を脱ぎ捨て海に飛び込んだ。

海は澄み、少しひんやりとした水温が気持ちいい。

イルカの方も水の祝福を受けているおれを仲間だと思ったらしい。

一緒に泳ぎ始めると、船から大きな水音がした。

驚いたことに下着姿になったマヤが海の中にいた。



「年頃の女性としての嗜みとか慎みとか羞恥とかいろいろあるだろ!」

「どうせ色気のないゴリラの様な女ですから、放っておいて下さい」



注意するとマヤはあっさりと開き直った。

悠々と泳ぐマヤの濡れた髪は色を深め、白い下着が張り付き、優美な身体のラインが露わになっている。

おれは咄嗟に目のやり場に困った。

女を知らないガキじゃあるまいし、何をやっているんだ。

おれの動揺などこれっぽちも気にせず、マヤはイルカと戯れだした。

それを見ていたおれはなんだか馬鹿馬鹿しくなり、一緒に泳いでやることにした。

ひとしきり泳ぐとイルカたちは去っていった。



「あんたってやっぱり変な女だな」



おれがしみじみ言うとマヤはおれの顔に水をぶっかけた。



「この海の色、ルークさんの眼と同じ色ですね」



初めてマヤがおれに対して笑顔を向けた瞬間だった。

いつもの澄ました顔に浮かべる上品な微笑みではなく、白い歯を見せて顔いっぱいに喜色を湛えた子供の様な笑顔だった。

その顔を見て一瞬胸が詰まった。



おれはどうしたらいいのだろうか。
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