幕末の与平が異世界に行く

12．ギガントイーグルを従魔にする

巨大鳥がほぼ真上に来ると、旋回を始めた。
動きは遅くない。鷲や鷹と変わりがないように見える。
太陽を遮る大きな影に覆われた時、その巨大さを実感した。
上空全体が雲に覆い隠されたように感じる。

旋回から、一瞬静止すると、急降下に移った。襲うつもりだ。


何とかしたい。何とかしなければ。
覚えたての鋼鉄の風槍を放ってみることにした。放たれた風槍を加速させる。
距離があるが、首の当たりを狙う。
巨鳥の羽根1枚1枚まで見える。
誘導する。誘導する？　
誘導できるのか。知らなかった。


最初に放った風槍を何かが跳ね返した。だが、2本目の風槍が命中すると、パリーンと音がした。
結界なのか。何かが割れた。
慌てたように急降下から上昇に移り、より上空で、再び旋回を始めた。


巨鳥がこちらに照準を当ててきたのがわかった。
暫く、旋回していたが、突然、急降下に移った。
逃げながら、風刃を連発する。
すると、相手も何かを放った。
危険を感じて、丘の方向に転移した。

元いたところに土煙が立っている。危機一髪だった。


質問してみる。

「巨大な鳥の魔獣に襲われている。どうしたらいい。」
―　スキル、使役があります。しかし、動いている相手を使役するには、相手の体のどこかに触れている必要があります。転移して、相手に触れたらどうでしょう。その前に、結界で囲み、魔力を吸収すれば、魔力を増やせます－

「スキルとは何だ。」

－　特殊技能のことです。万能スキルを持っているので、使役も出来ます。使役は自らに従属させることです。使役された魔獣は従魔と呼ばれます－

巨鳥は再び上空を旋回しながら、与平に狙いをつけている。
狙いが決まったのか、急降下して来る。
今度は足の鉤爪攻撃だ。

避けようと姿勢を低くしても、掴まれそうになり、刀を抜き、薙ぎ払った。
足に傷をつけることが出来た。

巨鳥は羽を広げて激しく上下させ、空中に留まっている。
足に針が刺さった程度以上の痛さはあったようで、険しい目だ。
突風のような風が来た。飛ばされた。
羽ばたきで起こした風ではない。風魔法なのかもしれない。


飛ばされながら、風槍を2発放つと、再びパリーンと音がした。
その瞬間、背中に転移した。

羽軸を握って必死にしがみついた。
直ぐ、魔力を吸い込む。
羽根は硬く鋭く、羽軸は棒のように太い。
羽根が手と腕に食い込み、血が噴き出る。

なるほど、先ほどの攻撃はこの羽を槍のように飛ばしていたのだ。
振り落とされないよう、歯を食いしばりながら、魔力を吸い続ける。
巨鳥の抵抗が少し弱まった気がする。
魔力を吸って魔力が増えたと感じてから、使役のイメージをして、魔力を発動した。


巨鳥は一瞬、ぶるっと震えて、上昇し、旋回しながら、ゆっくりと丘の上に降りた。
普通に飛び降りることなど出来ない。
天守閣の3階の屋根から飛び降りるようなものだ。
地上に転移した。


鑑定する。

ギガントイーグル
隷属魔獣（与平の従魔）
250歳
全魔力量　５0,000
残魔力量　10,000
属性　風　30
スキル　防御（大）、羽槍（大）


ギガントイーグルの魔力量が、魔力吸収の影響なのか、かなり減っている。
今更ながら、思い切って転移したものだ。
結界を張らずに直接魔力を吸収出来たのは幸運だった。

手と腕の傷が深い。
『質問』に聞く。

「傷を治す術はないか。」
―　自己修復機能があります。体に魔力を流してください―

魔力で体を覆うと、血が止まり、傷口が修復されてゆく。何と便利な。医者いらずだ。病気も治療できるのか。

―　出血は元に戻せませんので、ご注意下さい。貧血を起こすことがあります。病気も直せます。というより病気に罹りません。また、光の精霊が作りだした水は他の生物のいかなる怪我も病気も治癒出来ます－

「何と言う反則だ。でも助かった。貧血は大丈夫だろう。」


使役魔術の事も聞いてみた。
―　魔術で使役された魔獣は、主従関係になります。呼び出したい時に、何処にいても転移させることが出来ます。名前を決めて下さい－

名前？　名前か。
どうしよう。鷹の仲間のようだな。そうだ。
「お前の名前は鷹の王者で、タカオウだ。」
「ギャオ」
「そうか気に入ったか。」


当分、島を出るつもりはないので、住処に戻るよう指示しようとした時、タカオウが砂浜のある海岸線の方向を向き、緊張を見せているのに気づいた。
ちらちらとこちらを見て、行ってもいいかと返事を待っているようだ。

与平が頷くのを見ると、飛び立った。