九十九神の世界線

時雨悟はち

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世界線の始まり

不吉の象徴

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信じたくなかった。僕は、その非現実的な光景をまだ受け入れてはなかった。

「夢…だよね?」

夢。それは夢にしてはあまりにも現実的な感覚過ぎた。

「ん?やっと私の修行を手伝う気になった?何年も何年も使ってるんだから、そろそろかな~とは思ってたけど…」

華奢な体に同年代とさっぱり区別がつかない顔立ち。むしろ、同年代の中では多分トップクラスに、可愛い。

「あたしはトウカ。刀に華ってかいて刀華。あ、難しい方の華ね。これからよろしくね♪」

と、言った。

「あ、ぼ、僕は、九十九礼人…です」
「礼人…ちゃんね、男の子っぽい名前ね、まぁ、最近は俺っ子ってやつが増えてるらしいし。まあ、よろしく♪」

まあ、知ってたけど

「えっと、僕、男の子です。女の子みたいだけど」

さて、ここでいつもの驚きタイムが入る。きっと皆すぐには受け入れられないんでしょう。

「…え?男の、娘ってやつ?」

僕はコクリと頷く。

「えぇ~~~~~~~!!!!!!!」

と、普通の人には聞こえない大声を上げたのだった…。



次の日

「は~びっくりした~」

すっかり現状を把握した刀華さんは今は九十九饅頭とお茶で一服している。意外と呑気な神様なんだなぁ~。

「にしても、ずっと女の子だと思ってたからね~。びっくりしちゃった」
「まあ、みんなそんなもんですよ。ひと目見ただけじゃ僕のことなんて何も分からないんです」

と、そんな話をしてていると

「お~い礼人!早くしないと遅刻するぞ~!」

と父さんの声。時計を見るとすでに7:40を回ってた。おっと、危うく遅刻だった…

「行ってきまーす」

と、勢いよく神社から飛び出した。

「あんたってさ…」

と、刀華さん。
「何?」

「本当に男の娘ってやつなんだね…仕草も話し方も女の子以上に女の子だもん」

これはよく言われることだった。事実、未だにクラスの中では僕は女の子なんじゃないかという説が生きてて、実際に確認しようとする人もいた。

「そう…かな?よく言われるからよく分かんないんだ」

すると

「シィ…静かに」
「え?」

見るとあの脳天気な刀華さんは耳の神経を研ぎ澄ましていた。

「…いる」

無言からの第一声がこれでした。

「“いる”?一体何が…」
「説明はあとあと、ちょっとついてきて」

何だろう…なんか、人とはかけ離れた物に出会う気がする…


「グルルルルル…」

真っ黒な“それ”は確かにいた。どことなく、雰囲気が刀華さんに似ていた。
「と、とと、刀華さん?あれは一体…」
「あれは“裏神”私たちは“式神”って言われてるんだけど、それの逆。人に危害を加える極めて危険な神様」

人に危害を…まさか、襲われてるのって!
見ると、そこには20歳程の男性がいた。僕の頭には一言しか浮かばなかった。

助けなきゃ

僕は、ほとんど丸腰で突っ込もうとした。

「え?ちょ、ちょっと!待ちなさい!」

と、すんでのところで刀華さんに止められた。

「待つ?一体何を」
「私が倒すから。あんたの体貸しなさい!」
「…え?」

これは当然の反応だと思った。

「いや、貸すって言ってもどうやって」
「あんたちゃんと模擬刀持ってきたわよね」
「いや持ってきたけどどうすれば…」
「それをあんたの体に“刺しなさい”」
と言ってきた。

え?刺す?冗談だよね?

「えっと…それは緊張かなんかをほぐすための冗談なのでしょうか…?」
「違うわよ」

デスヨネー。

「え?ちょっと、本気?本気で言ってるの?死んじゃうよ?下手したら死んじゃうよ!?」
「あぁ、心配しないで。あんたが死ぬことはないからさ」

え?

「それってどういう…」
「今あんたが持ってる模擬刀はいわば私の体。つまりそれをあんたと一心同体にすればあんたの体を使えるってわけ。はい!説明終わり!早く刺して!」
「いやいや、今の説明で納得するわけないでしょ!」
「あぁ、もう!根性無し!」

といい、刀華さんはその模擬刀を僕から取り上げ、迷わずに僕の体に刺した。ああ、これが死ってやつなのか…

「…あれ?痛くない?」

それどころかどんどん模擬刀が自分の体の中へと入っていく。それと同時に刀華さんの体も僕の体の中へと入っていく。

「え?え?ちょっと、刀華さん!何をして…それに、これは一体…」

答える間もなく刀華さんはあっという間に僕の体へとその模擬刀と一緒に消えていった。

…え?

本当に、僕はどうすればいいのだろうか…?
すると、

「グルルルルル…」

と、血に飢えた狼のように、その裏神とやらは喉をならし、

「グヮア!」

と、飛びついてきた。

「う、うわー!」

僕は反射的に手に持ってた模擬刀を振った。そう、確かに模擬刀だった。しかし、いざ振って見ると、それはいつの間にか日本刀へと姿を変えていた。というかそもそも模擬刀はいつの間にか僕の手元にあった。

「一体何が…それに、こんなに重い日本刀を軽く振れるなんて…」

あれ?なんか体が軽いぞ。それに、世界が遅く見える。もしかしたら…

「ば、化け物!こ、この僕が相手だ!」
「グルルルルル…グヮア!」

まず四肢を斬る。う、うわぁ…生まれて初めて実態を斬ったよ…で…。

「グワァ!」

よ、よし。効いてる…。

「ちょ、あんた!何やってるの!?ていうか、私が入ってもなんで意識を平常に保ってるの!」

え?

「と、刀華さん…?それは一体…」
「一応、あんたに迷惑をかけることは知ってる。けど、裏神に何の知識もなく戦ったら勝ち目はほぼ無しよ!じり貧になって、結局力尽きて終わりよ!」

え?ほんとに?それだけは嫌だ…

「で、でもそれだったら僕は一体何をすれば…」
「…ちょっと強引だけど、体、貸してもらうよ」

え?それって…。
考える間もなく、僕の意識は遠ざかっていった。意識が薄れていく中、少しだけ、刀華さんの笑顔が見えた気がした。
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