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第1章 黒猫の友人
依頼人
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風が二人の髪を揺らした。
緊迫した空気を保ったまま刻々と時間だけが過ぎていく。
「受ける気はないんじゃなかったんですか」
「優に関係あるんだったら見過ごす訳ないでしょ」
銃口を向ける刻。
グラスはやはり人形のように目には何も写してはいない。
「話してもらうよ」
間合いを詰めるように刻はゆっくりとグラスに近いていく。
落ちた枝が折れる音が妙に大きく聞こえた。
思考系能力者は他の思考系能力者の声を拾えない。
普段心の声を盗み聞いて次の一手を打つ刻には、声が聞こえないということがさらなる緊張感を与えていた。
「話して」
「私からは無理です」
「話せ」
徐々に声が低くなり、威嚇にも似た殺意を放つ。
渋々とグラスは口を開いた。
「・・・依頼人は優さんのことが大嫌いなんですよ、もちろんその子供も。あなたも知っているはずです」
記憶をかき回して出てくるのは優を慕う者ばかり。
限られた知人の中で優をそこまで嫌う人間を刻は知らない。
それもそのはず、優のことを嫌う人間は刻にとっては敵だからだ。
「依頼人は・・・」
「依頼人のことは・・・言えば私もあなたもこの世界から消されるでしょうね。これだけ言えばわかりますか」
ひゅっと刻の喉が鳴った。
銃を握る手が力なく下された。
俯いた刻の表情はグラスからは確認できない。
「あー、面倒くさいことになってきた」
髪をかきあげるようにして顔を上げた刻の手からはいつの間にか銃は消えていた。
口角を上げた刻にこの時やっとグラスが顔を顰めるのが伺えた。
「何故笑っていられるんです」
「何でもないよ。ただ優を守れる機会が増えたなって思って」
妖美に光る刻の目はグラスでも森の木々でもない、どこか遠い場所を見ているようだった。
「そんなに優さんが大切なんですか?」
グラスがそう口にすると刻はまた笑う。
そして一言「僕のお気に入り」と呟いた。
「では、この依頼を受けるんですね」
そう切り出すと刻はまた動きを止めた。
細められた瞼の隙間から黄色い目がグラスへと移る。
「いーよ、やってあげる」
ニヤリと笑う刻。
「ここに子供を連れて来ればいいんでしょ?」
グラスは縦に小さく頷いてみせると、無造作に光沢のある物を投げた。
片手で受け止めるとそれは予想よりは重く、すぐに金属製の指輪であることがわかった。
「何これ」
「その子供は能力者です」
近頃頻繁に見られるようになった力を抑えるための金属器。
「気絶させた方が早いんじゃないの」
しれっと刻は言ったが、グラスは無理だと言うように首を横にふった。
「あ、そう。じゃあもう行くけどいいよね」
「はい」
優との合流時間からもう随分時間が経っているだろう。
行きは避けて通った崖を飛び降り、夜の森へ消えていった。
緊迫した空気を保ったまま刻々と時間だけが過ぎていく。
「受ける気はないんじゃなかったんですか」
「優に関係あるんだったら見過ごす訳ないでしょ」
銃口を向ける刻。
グラスはやはり人形のように目には何も写してはいない。
「話してもらうよ」
間合いを詰めるように刻はゆっくりとグラスに近いていく。
落ちた枝が折れる音が妙に大きく聞こえた。
思考系能力者は他の思考系能力者の声を拾えない。
普段心の声を盗み聞いて次の一手を打つ刻には、声が聞こえないということがさらなる緊張感を与えていた。
「話して」
「私からは無理です」
「話せ」
徐々に声が低くなり、威嚇にも似た殺意を放つ。
渋々とグラスは口を開いた。
「・・・依頼人は優さんのことが大嫌いなんですよ、もちろんその子供も。あなたも知っているはずです」
記憶をかき回して出てくるのは優を慕う者ばかり。
限られた知人の中で優をそこまで嫌う人間を刻は知らない。
それもそのはず、優のことを嫌う人間は刻にとっては敵だからだ。
「依頼人は・・・」
「依頼人のことは・・・言えば私もあなたもこの世界から消されるでしょうね。これだけ言えばわかりますか」
ひゅっと刻の喉が鳴った。
銃を握る手が力なく下された。
俯いた刻の表情はグラスからは確認できない。
「あー、面倒くさいことになってきた」
髪をかきあげるようにして顔を上げた刻の手からはいつの間にか銃は消えていた。
口角を上げた刻にこの時やっとグラスが顔を顰めるのが伺えた。
「何故笑っていられるんです」
「何でもないよ。ただ優を守れる機会が増えたなって思って」
妖美に光る刻の目はグラスでも森の木々でもない、どこか遠い場所を見ているようだった。
「そんなに優さんが大切なんですか?」
グラスがそう口にすると刻はまた笑う。
そして一言「僕のお気に入り」と呟いた。
「では、この依頼を受けるんですね」
そう切り出すと刻はまた動きを止めた。
細められた瞼の隙間から黄色い目がグラスへと移る。
「いーよ、やってあげる」
ニヤリと笑う刻。
「ここに子供を連れて来ればいいんでしょ?」
グラスは縦に小さく頷いてみせると、無造作に光沢のある物を投げた。
片手で受け止めるとそれは予想よりは重く、すぐに金属製の指輪であることがわかった。
「何これ」
「その子供は能力者です」
近頃頻繁に見られるようになった力を抑えるための金属器。
「気絶させた方が早いんじゃないの」
しれっと刻は言ったが、グラスは無理だと言うように首を横にふった。
「あ、そう。じゃあもう行くけどいいよね」
「はい」
優との合流時間からもう随分時間が経っているだろう。
行きは避けて通った崖を飛び降り、夜の森へ消えていった。
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