黒猫は闇に泣く

ギイル

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第1章 黒猫の友人

少女

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「遅すぎる」
切り揃えられた植木を抜けて、大きな屋敷の入り口付近。
優は時間になってもまだ来ない刻を依然待ち続けていた。
基本計画通りに動く黒猫団では仲間と合流する際、三分待って来なかった場合特別な理由が無ければ先に行くというのが規則だった。
先ほどまで銃声や怒号の飛び交っていた屋敷内はいつの間にか静まりかえっていた。
燈が蹴散らしていった人間が沢山悶え苦しんでいるか気を飛ばしているかしているだろう。
「もう行こうか・・・」
これ以上、上で待っている燈を待たせてはいられない。
優は燈に蹴破られ見るも無残な姿になった扉だったものを潜った。
今回は優は一切戦う事は無く、燈の捉えたこの国の王と交渉する役を担っていた。
人の屍、ではないが転がった人間を避けて廊下を突っ切る。
「手加減しろっていったのに」
燈のじゃじゃ馬具合はどうにも昔から手を焼く。
大人達はみな高価な貴重品と思しき壺や絵を下に敷いて倒れていた。
壁に大胆に空けられた穴は、燈が廊下や部屋関係なく暴れたことを物語っていた。
「女・・・の子?」
何重もの壁を超えた先、視界の端に長い金髪が見えた気がした。
耳を澄ましてみると子供独特のペタペタという裸足が立てる足音が聞こえた。
「ねえ、君」
少女というにはまだ幼い子供は大袈裟に跳ねるように驚いた。
そして優の姿を探して挙動不審に陥っている。
「ここだよ、そう。もうちょっと右。こんばんは」
「誰・・・」
少女は怯えているのか口数は少ない。
「ここの国の人・・・?」
おずおずと聞く少女に優は偽ることなく答えた。
「違うよ、隣の国の人。この国を落としにきたんだ」
少女は赤い目を大きく見開いた。
そして安堵したように少女の強張っていた体から少しづつ力が抜けていく。
「私ここで捕まってたの。お兄ちゃんは私の敵じゃないんだよね?」
また不安気に表情を暗くした少女に優は屈んで微笑んだ。
「多分そうなるかも」
少女もつられて不器用に笑う。
優は少女に手を差し伸べた。
すると少女は小さく首を傾げる。
「危ないから手を繋ごう」
少女は恐る恐る手を優の手を握った。
「・・・!?」
動かなくなった少女を優は不思議気に見つめる。
口を開こうとした瞬間少女は優の手を振り払った。
「お兄ちゃん何・・・」
突如向けられる激しい殺気。
優は慌てて少女から距離を置く。
「なんで私の能力が効かないの!!!」
発狂にも近い喚くように少女は叫んだ。
優はただ戸惑うように顔を歪めていた。
「それは・・・これが僕の能力だから」
「お兄ちゃん嫌い!」
優は能力を珍しがられることは多々あったが、嫌われたのは初めてだった。
「私を捕まえに来たんでしょ!」
そう叫ぶと少女は大きく手を天井に向かって振り上げた。
「うそ・・・」
優は言葉を失った。
少女の周囲には燈が散らかした瓦礫など、床に散らばっていた物が浮いていた。
だが、そのような能力は珍しいことではない。
現に優は幾度も見てきている。
優が驚いたことはもっと別の場所にあった。
「なんでそんなに重い物が上がるの・・・」
通常能力には規定のようなものが不本意にも存在する。
本人がいくら望んでも努力しても超えられない壁のようなものだ。
物を浮かせる能力者には、その規定は浮かせる物の重量制限として表れる。
数は問われることはないが持ち上げる物一つ一つは自身の体重よりも軽い物でなければならない。
しかし少女の能力によって浮いているものは明らかに自身よりも重いものだった。
「罪の子。お兄ちゃんも知ってるんでしょ」
少女が言ったその一言。
優は小さく息を呑んだ。
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