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第1章 黒猫の友人
国王の実験室4
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「下で何か音が聞こえた」
「音?外からは何も変わりないけど」
別れを告げてから僅か数分。
燈の耳が音を捉えた。
「複数の足音も聞こえる」
静まり返った城内には燈の呼吸音。
そして穴の空いた壁から廊下を吹き抜ける風の音がただ寂しく響いていた。
「それにしても良く耳聞こえるよね」
「師匠のお墨付きだ」
自慢気に言い放たれた言葉は長い廊下に吸い込まれて消えた。
燈の五感は動物並みだと言われている。
聴力だけでなく視力や嗅覚は人の倍は働き、身体能力は能力に頼りきった能力者を遥かに勝る。
それ故、燈は議会にそしてギルドの上層部として居座ることができるのだ。
「で、燈はどうしたい?」
刻は問う。
本人の意志を尊重する為に答えを急かさず、試行錯誤する時間を刻は与えた。
「このまま下へ降りる!」
「階段までの道順を教えるよ」
「いらん!」
無線越しに燈が叫んだ。
「城はもう壊れているんだ。なら、壊したって何の問題もないだろう?」
刻は一瞬口を噤んだ。
思考を繋いでいる今、燈がしたい事が刻にはわかる。
だが、そう易々とは頷けないものだった。
「地下まで床を壊す!」
止められないだろう、刻の予想は確信に変わった。
有無を言わさぬ口ぶりに、好きにしろという言葉しか出てこない。
「そのまま行くと何人か瓦礫の下敷きだと思うけど・・・」
「何か言ったか?」
「なんでもありませーん」
喉まで出かけた声を笑みと共に飲み込んだ。
燈は首を傾げるも、刀に手を伸ばす。
毛の長い絨毯を見下げて大きく息を吸い込んだ。
血生臭い空気が肺を満たし、燈の脳を刺激した。
不意に刻の視界が揺らいだ。
燈の強制的な思考の排除により、一時的に能力に乱れが生じたようだった。
真っ白な心が床や照明をもろともせず、一直線上に下へ落ちていく。
常々燈の身体能力には目を見張るものがある。
もう地下まではすぐだった。
「順調ですね」
声が届いた。
頭の中に意識を向けていたことで、刻は背後の気配に全く気がつかなかった。
「あなた守ってもらわないと能力発動中に襲われるんじゃないですか」
「うるさい」
目だけでグラスを一瞥すると、刻は無線の電源を切った。
「最近会うことが多いね。何か裏があるんじゃない?」
笑みを浮かべつつ探るような物言いにグラスが顔色を変える事はない。
「なんでここにいるの?」
「仕事です」
議会からか、はたまたグラス特有の別のルートか。
思考を探ってやりたいところだが、他との負担を抱えている今、刻が返り討ちにあう事は目に見えていた。
思考系能力者の競り合いは、思考を乗っ取るどころか刻の持っている情報全てが引き出される可能性もある。
「ですが、あの人からのとは言っておきましょう」
その一言にまた刻は問うことをやめた。
「あっそ・・・。また後処理なんてご苦労様」
「随分と皮肉ったらしいですね。今回は結構話せる事が多いですよ」
刻は横目にグラスを見た。
意味深げな言葉が心の何処かに引っかかる。
「仕事の内容は?」
「あなたが言った通り後処理です」
「詳しく」
グラスの目線が泳いだ後、言葉を選ぶ様子を見せつつ答えていく。
「国落としは新たな文明を求める国王へソラスからの手土産のようなものでした。しかし、どうやらソラスには意図があったようですね」
燈の薄らいだ心を追いつつも、刻はグラスの声に耳を傾けた。
言葉が途切れる度急かす目を向ける刻にグラスはまた口を開いた。
「この国の王は秘密裏に地下で実験を繰り返していたと言われていました。おそらくソラスの目的はそれでしょう」
「あの時城にいた子供。それと関係ある?」
「あの子の友人が沢山いるらしいですよ。聖教会の人間が言ってました」
口から出た短い相槌はグラスに届くことはない。
何を考えているのか、何を思っているのか、グラスは口を閉ざしたままだった。
奇妙な間を埋めるように、燈の声が刻を呼んだ。
そんな気がした。
「そういえば地下は、涙哨石が置いてあるらしいですよ。燈さんと優さん無事だといいですね」
感情の無い労りの言葉。
グラスはそう言い残すと、街の中へ消えていった。
「音?外からは何も変わりないけど」
別れを告げてから僅か数分。
燈の耳が音を捉えた。
「複数の足音も聞こえる」
静まり返った城内には燈の呼吸音。
そして穴の空いた壁から廊下を吹き抜ける風の音がただ寂しく響いていた。
「それにしても良く耳聞こえるよね」
「師匠のお墨付きだ」
自慢気に言い放たれた言葉は長い廊下に吸い込まれて消えた。
燈の五感は動物並みだと言われている。
聴力だけでなく視力や嗅覚は人の倍は働き、身体能力は能力に頼りきった能力者を遥かに勝る。
それ故、燈は議会にそしてギルドの上層部として居座ることができるのだ。
「で、燈はどうしたい?」
刻は問う。
本人の意志を尊重する為に答えを急かさず、試行錯誤する時間を刻は与えた。
「このまま下へ降りる!」
「階段までの道順を教えるよ」
「いらん!」
無線越しに燈が叫んだ。
「城はもう壊れているんだ。なら、壊したって何の問題もないだろう?」
刻は一瞬口を噤んだ。
思考を繋いでいる今、燈がしたい事が刻にはわかる。
だが、そう易々とは頷けないものだった。
「地下まで床を壊す!」
止められないだろう、刻の予想は確信に変わった。
有無を言わさぬ口ぶりに、好きにしろという言葉しか出てこない。
「そのまま行くと何人か瓦礫の下敷きだと思うけど・・・」
「何か言ったか?」
「なんでもありませーん」
喉まで出かけた声を笑みと共に飲み込んだ。
燈は首を傾げるも、刀に手を伸ばす。
毛の長い絨毯を見下げて大きく息を吸い込んだ。
血生臭い空気が肺を満たし、燈の脳を刺激した。
不意に刻の視界が揺らいだ。
燈の強制的な思考の排除により、一時的に能力に乱れが生じたようだった。
真っ白な心が床や照明をもろともせず、一直線上に下へ落ちていく。
常々燈の身体能力には目を見張るものがある。
もう地下まではすぐだった。
「順調ですね」
声が届いた。
頭の中に意識を向けていたことで、刻は背後の気配に全く気がつかなかった。
「あなた守ってもらわないと能力発動中に襲われるんじゃないですか」
「うるさい」
目だけでグラスを一瞥すると、刻は無線の電源を切った。
「最近会うことが多いね。何か裏があるんじゃない?」
笑みを浮かべつつ探るような物言いにグラスが顔色を変える事はない。
「なんでここにいるの?」
「仕事です」
議会からか、はたまたグラス特有の別のルートか。
思考を探ってやりたいところだが、他との負担を抱えている今、刻が返り討ちにあう事は目に見えていた。
思考系能力者の競り合いは、思考を乗っ取るどころか刻の持っている情報全てが引き出される可能性もある。
「ですが、あの人からのとは言っておきましょう」
その一言にまた刻は問うことをやめた。
「あっそ・・・。また後処理なんてご苦労様」
「随分と皮肉ったらしいですね。今回は結構話せる事が多いですよ」
刻は横目にグラスを見た。
意味深げな言葉が心の何処かに引っかかる。
「仕事の内容は?」
「あなたが言った通り後処理です」
「詳しく」
グラスの目線が泳いだ後、言葉を選ぶ様子を見せつつ答えていく。
「国落としは新たな文明を求める国王へソラスからの手土産のようなものでした。しかし、どうやらソラスには意図があったようですね」
燈の薄らいだ心を追いつつも、刻はグラスの声に耳を傾けた。
言葉が途切れる度急かす目を向ける刻にグラスはまた口を開いた。
「この国の王は秘密裏に地下で実験を繰り返していたと言われていました。おそらくソラスの目的はそれでしょう」
「あの時城にいた子供。それと関係ある?」
「あの子の友人が沢山いるらしいですよ。聖教会の人間が言ってました」
口から出た短い相槌はグラスに届くことはない。
何を考えているのか、何を思っているのか、グラスは口を閉ざしたままだった。
奇妙な間を埋めるように、燈の声が刻を呼んだ。
そんな気がした。
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