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第1章 黒猫の友人
燈
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燈は人間だ。
それは日常的に思い知らされる事実だった。
刻は勿論の事だが、毛色が違えど優だって歴とした能力者。
そんな二人の中、人間のそして女の燈が同じ舞台に立つというのはあまりにも困難な事なのだ。
だからこそ事故で両親を亡くして以来、引き取り手であり後の師匠は燈を徹底的に育て上げた。
能力者に負けないように、女でも一人で生きていけるように。
その甲斐あってか今では人間の中では三本の指に入る強さを誇り、黒猫団の副団長としての活躍ぶりは議会の中でも評価されている。
しかし今この状況下において燈は再度自身が人間である無力感にかられていた。
「お姉さんは人間だから。ここで死ぬのも無理ないよ」
罪の子が少なくとも十人。
全員子供といえど燈一人では処理できる人数ではなかった。
時間を稼ぐしかない。
普段使うことのない頭で考え、はじき出した答えがこれだった。
「私が死ぬ?そんなのあり得ないな」
人様から馬鹿だ馬鹿だと言われていた自覚はあった。
だが、自分でも口から出る言葉の安直さに頭を抱えるしかない。
「お姉さん馬鹿なの?」
「馬鹿ではない!素直と言え!」
「嘘とか苦手そうだね」
子供に呆れた顔をされると、燈も開き直るしかないのだ。
「さっきのは時間稼ぎだ!」
堂々たる態度を取る燈。
子供たちは首を傾げ、逆に何か裏があるのではと疑い始めた者までいる。
ただ、結論としては燈はこの間、そしてこの先何も考えていなかった。
「僕らより馬鹿なんじゃない?」
燈自身そうだろうと心の中で頷いた。
口の回る刻や団長として人前で喋る機会の多い優にいつも対話は任せきりである。
今までまともに懐の探り合いというものをしたことがなかった。
優がここで目を覚ましてくれさえすれば。
その考えが燈の思考を埋めていく。
「優!起きてくれ!私じゃどうにもならん!」
全力で叫ぶように気絶した仲間に助けを求める。
優に視線を移した。
すると優が微かにだが動きを見せた。
先程まで微動だにしなかった優だが、何とか生きてはいるようだ。
「なんだ、起きていたのか」
「お姉さん気づいてなかったの?」
乱れた髪に覆い隠されその表情は見えない。
苦しそうな短い呻き声の中に混じって、「遅い」そう聞こえたのは幻聴ではないだろう。
「どうすればいい?」
敵を前に聞いてしまうのが燈らしいと言える。
優はその言葉に小さく肩を震わせた。
「燈も刻も・・・僕がいなきゃ駄目なんだから」
笑っていた。
呆れたように、そして半ば嬉しそうに。
優の指が指し示すのは固く冷たい床だった。
これには燈も子供たちも首を傾げる。
「燈が出来ることといえば?」
苦しそうな吐息交じりの声に燈は不意に顔を輝かせた。
「壊すことだ!!!」
思い立ったが吉日とはよく言ったものだ。
燈は腰に帯刀していた刀を鞘ごと振りかざす。
目を丸くする子供たちを尻目に地面目掛けて振り下ろした。
元々脆かった床は燈を中心に大きく崩れ、優と燈の身体は開いた穴に吸い込まれていく。
ここで燈は刻の言っていた地図の上では存在しない空間を思い出した。
頭上にぽっかり口を開けた穴から無数の顔が覗き込んでいた。
「またな!罪の子たち!今度会ったら戦おう!」
徐々に漏れだす赤い光は遠くなり燈と優は闇の中に飲まれていった。
それは日常的に思い知らされる事実だった。
刻は勿論の事だが、毛色が違えど優だって歴とした能力者。
そんな二人の中、人間のそして女の燈が同じ舞台に立つというのはあまりにも困難な事なのだ。
だからこそ事故で両親を亡くして以来、引き取り手であり後の師匠は燈を徹底的に育て上げた。
能力者に負けないように、女でも一人で生きていけるように。
その甲斐あってか今では人間の中では三本の指に入る強さを誇り、黒猫団の副団長としての活躍ぶりは議会の中でも評価されている。
しかし今この状況下において燈は再度自身が人間である無力感にかられていた。
「お姉さんは人間だから。ここで死ぬのも無理ないよ」
罪の子が少なくとも十人。
全員子供といえど燈一人では処理できる人数ではなかった。
時間を稼ぐしかない。
普段使うことのない頭で考え、はじき出した答えがこれだった。
「私が死ぬ?そんなのあり得ないな」
人様から馬鹿だ馬鹿だと言われていた自覚はあった。
だが、自分でも口から出る言葉の安直さに頭を抱えるしかない。
「お姉さん馬鹿なの?」
「馬鹿ではない!素直と言え!」
「嘘とか苦手そうだね」
子供に呆れた顔をされると、燈も開き直るしかないのだ。
「さっきのは時間稼ぎだ!」
堂々たる態度を取る燈。
子供たちは首を傾げ、逆に何か裏があるのではと疑い始めた者までいる。
ただ、結論としては燈はこの間、そしてこの先何も考えていなかった。
「僕らより馬鹿なんじゃない?」
燈自身そうだろうと心の中で頷いた。
口の回る刻や団長として人前で喋る機会の多い優にいつも対話は任せきりである。
今までまともに懐の探り合いというものをしたことがなかった。
優がここで目を覚ましてくれさえすれば。
その考えが燈の思考を埋めていく。
「優!起きてくれ!私じゃどうにもならん!」
全力で叫ぶように気絶した仲間に助けを求める。
優に視線を移した。
すると優が微かにだが動きを見せた。
先程まで微動だにしなかった優だが、何とか生きてはいるようだ。
「なんだ、起きていたのか」
「お姉さん気づいてなかったの?」
乱れた髪に覆い隠されその表情は見えない。
苦しそうな短い呻き声の中に混じって、「遅い」そう聞こえたのは幻聴ではないだろう。
「どうすればいい?」
敵を前に聞いてしまうのが燈らしいと言える。
優はその言葉に小さく肩を震わせた。
「燈も刻も・・・僕がいなきゃ駄目なんだから」
笑っていた。
呆れたように、そして半ば嬉しそうに。
優の指が指し示すのは固く冷たい床だった。
これには燈も子供たちも首を傾げる。
「燈が出来ることといえば?」
苦しそうな吐息交じりの声に燈は不意に顔を輝かせた。
「壊すことだ!!!」
思い立ったが吉日とはよく言ったものだ。
燈は腰に帯刀していた刀を鞘ごと振りかざす。
目を丸くする子供たちを尻目に地面目掛けて振り下ろした。
元々脆かった床は燈を中心に大きく崩れ、優と燈の身体は開いた穴に吸い込まれていく。
ここで燈は刻の言っていた地図の上では存在しない空間を思い出した。
頭上にぽっかり口を開けた穴から無数の顔が覗き込んでいた。
「またな!罪の子たち!今度会ったら戦おう!」
徐々に漏れだす赤い光は遠くなり燈と優は闇の中に飲まれていった。
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