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第1章 黒猫の友人
同盟2
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「そんなに睨まないで。ちゃんと教えてあげるから」
その上からの態度が気に入らないのだ。
引き攣った笑いはまだトゥクルに気づかれてはいないようだった。
「まず、こっちで変死体があがった。議会の連中と同じ死に方で」
「偶然じゃないの?」
「同じ時期に同じ死因で。何かあると思うのが普通じゃない」
馴れ馴れしく距離を詰めるトゥクルに刻は一歩、また一歩と後ろへ下がる。
乾いた土の音と斜面に沿って落下していく石の音が逃げ道が存在しないことを示していた。
「もしかして君、人嫌い?」
「男はあんまり好きじゃないかな。女の子は好き」
即答する刻の言葉にトゥクルは大きく吹き出した。
「レトロから聞いたけど本当に女遊び激しいんだね」
呆れたようにも笑うトゥクルに刻は内心むっとする。
確かに様々な女子と遊んでいるが指折り数えられる数には止めているつもりだ。
「別に年相応だと思うけど」
探るような目に耐え切れず刻はトゥクルの肩を押し戻した。
「で?優のことを聞きたいんだけど」
苛立ちを隠すようにして笑みを浮かべる。
トゥクルは少し考える素振りを見せた後、土の上に腰を下ろした。
刻もそれに習って一定の距離を置いて座り込む。
「話は長くなるんだけど、まず能力は切っておいて。フェアじゃないから」
「もう切ってる」
「いい子。まず、被害者は聖教会修道院の修道士二名。どちらも死因は自殺」
食い違ってる。
刻の持っている情報では、議会の人間は全て心臓麻痺で死亡していた。
「議会の被害者は全員外傷無しの心臓麻痺。やっぱり偶然なんじゃない?」
トゥクルの反応は鈍かった。
どうやら他にもあるらしい。
「何?」
「これを見た方が早いと思う」
手渡されたのは数枚の写真。
現場を記録したと思われる
「これが写真?うちの国王様はこんな物まで欲しがったの」
「隣の隣の国。記録技術に長けた国だったから仲良くして文化交換だってさ」
侵略の好きな国王が近辺国と文化交流を選ぶとは。
唖然として言葉が出ない刻を他所にトゥクルは更に話を進める。
「まあ、見て。おかしなところない?」
「ないって言ったら頭おかしいんじゃない?」
写真に写るのは無残な姿と化した遺体。
首には紐状の赤い跡が這い、苦しみ悶えた表情のまま硬直していた。
その背後、おそらく彼らの自室だろう。
黒い染みのような物が壁一面に広がっていた。
「模様・・・?」
「そう思うでしょ。けど実はこれは絵」
手を地に着き前屈みに刻に近くと、トゥクルは写真の一点を指差した。
黒く塗り潰された壁の中に一箇所、白く写る部分があった。
おそらく壁紙がそこだけ見えているのだろう。
「目みたい」
「そう。ここが胴で、ここが手」
「まるで化け物だね」
これが原因だと言いたいのか。
そう口を開きかけた時トゥクルと目が合った。
「どこまで知ってるかは知らないけど、死んだ二人には共通点がある」
その言葉に一つだけ心あたりがあった。
「変な夢を見た?」
トゥクルは頷くとまた木に身体を預ける。
遠い目で刻の手の中の写真を見つめていた。
「変な夢を見た。それは議会の人も言ってた。その他には?」
実質的に議会内でのギルマス同士の交流はまず無いと言える。
ギルド間に同盟でも無ければ会議以外では言葉も交わさないだろう。
そんな議会の人間に他のギルドの人間の事を知る由も無いのだ。
黙り込む刻にトゥクルは溜め息を吐いた。
「ないのか。重要なのは変な夢の内容」
トゥクルの目線は依然写真に落ちている。
「変な夢には黒い化け物が出てくるんだ。不気味な顔をした化け物が」
もう一度写真に視線を戻す。
黒く歪な模様がこちらを向いている気がして、刻は写真をトゥクルに突き返した。
「それが死ぬ前の予兆ってことね」
「そう」
「で?解決策はあるの?」
膝の上に肘を置き、頬杖をつく刻を前にトゥクルは首を横に振る。
「そっか。・・・で、優のことは?」
「優君のことは、議会の人間が片っ端から死んでいってるなら危険なんじゃないかと思って」
やはり同盟を結ぶ為の餌だったのか。
どうやらトゥクルの口車にまんまと乗せられたらしい。
「それくらい分かってる。・・・それだけの事だったら同盟結ばなきゃ良かったな」
今度は刻が溜め息を吐く番だった。
「でもこの情報は良かったでしょ?」
「別に。良くも悪くもない」
蓋を開ければ何てことのない情報。
拍子抜けした後に何を話せばいいというのか。
「俺からはトゥクルが話した以上のことは出てこないよ」
また溜め息を吐いて立ち上がる。
その直後、近辺で爆発音が木霊した。
トゥクルの視線の先、振り返るとそこには城がある。
「燈ちゃんがどんぱちやってるみたいだね」
その言葉に音源は城の地下だと刻の脳は弾き出す。
「行かなきゃ、とか思ってるでしょ」
背後から声を掛けられる。
振り返るとトゥクルがすぐ側まで近づいていた。
「行かないほうがいいよ。自分が一番分かってるでしょ」
その言葉に城の方を向いていた刻の足が止まった。
涙哨石がある限り能力者である刻とトゥクルは用無しなのだ。
「俺はさ、黒猫としての君の情報が欲しいんじゃない」
「つまり?」
「思考系能力はさ、お茶会をするんでしょ?」
リヒト、グラス、刻、この三人が行う茶会のことだろう。
どこで聞きつけたのかは知らないが、そこで話し合われている情報を手に入れたいのだとトゥクルは言っているように思えた。
「その情報は流せないよ。クロウに怒られちゃう」
「クロウ?」
クロウ・リヒト、彼の本名を知る者は数少ない。
言ってしまうのには気がひけるが、クロウとだけではリヒトに結びつかないだろう。
「俺達の口煩いリーダーだよ」
そう告げると刻は口を噤んだ。
これ以上問いかけても今は何も出てはこないだろう。
トゥクルは静かに口を閉ざした。
その上からの態度が気に入らないのだ。
引き攣った笑いはまだトゥクルに気づかれてはいないようだった。
「まず、こっちで変死体があがった。議会の連中と同じ死に方で」
「偶然じゃないの?」
「同じ時期に同じ死因で。何かあると思うのが普通じゃない」
馴れ馴れしく距離を詰めるトゥクルに刻は一歩、また一歩と後ろへ下がる。
乾いた土の音と斜面に沿って落下していく石の音が逃げ道が存在しないことを示していた。
「もしかして君、人嫌い?」
「男はあんまり好きじゃないかな。女の子は好き」
即答する刻の言葉にトゥクルは大きく吹き出した。
「レトロから聞いたけど本当に女遊び激しいんだね」
呆れたようにも笑うトゥクルに刻は内心むっとする。
確かに様々な女子と遊んでいるが指折り数えられる数には止めているつもりだ。
「別に年相応だと思うけど」
探るような目に耐え切れず刻はトゥクルの肩を押し戻した。
「で?優のことを聞きたいんだけど」
苛立ちを隠すようにして笑みを浮かべる。
トゥクルは少し考える素振りを見せた後、土の上に腰を下ろした。
刻もそれに習って一定の距離を置いて座り込む。
「話は長くなるんだけど、まず能力は切っておいて。フェアじゃないから」
「もう切ってる」
「いい子。まず、被害者は聖教会修道院の修道士二名。どちらも死因は自殺」
食い違ってる。
刻の持っている情報では、議会の人間は全て心臓麻痺で死亡していた。
「議会の被害者は全員外傷無しの心臓麻痺。やっぱり偶然なんじゃない?」
トゥクルの反応は鈍かった。
どうやら他にもあるらしい。
「何?」
「これを見た方が早いと思う」
手渡されたのは数枚の写真。
現場を記録したと思われる
「これが写真?うちの国王様はこんな物まで欲しがったの」
「隣の隣の国。記録技術に長けた国だったから仲良くして文化交換だってさ」
侵略の好きな国王が近辺国と文化交流を選ぶとは。
唖然として言葉が出ない刻を他所にトゥクルは更に話を進める。
「まあ、見て。おかしなところない?」
「ないって言ったら頭おかしいんじゃない?」
写真に写るのは無残な姿と化した遺体。
首には紐状の赤い跡が這い、苦しみ悶えた表情のまま硬直していた。
その背後、おそらく彼らの自室だろう。
黒い染みのような物が壁一面に広がっていた。
「模様・・・?」
「そう思うでしょ。けど実はこれは絵」
手を地に着き前屈みに刻に近くと、トゥクルは写真の一点を指差した。
黒く塗り潰された壁の中に一箇所、白く写る部分があった。
おそらく壁紙がそこだけ見えているのだろう。
「目みたい」
「そう。ここが胴で、ここが手」
「まるで化け物だね」
これが原因だと言いたいのか。
そう口を開きかけた時トゥクルと目が合った。
「どこまで知ってるかは知らないけど、死んだ二人には共通点がある」
その言葉に一つだけ心あたりがあった。
「変な夢を見た?」
トゥクルは頷くとまた木に身体を預ける。
遠い目で刻の手の中の写真を見つめていた。
「変な夢を見た。それは議会の人も言ってた。その他には?」
実質的に議会内でのギルマス同士の交流はまず無いと言える。
ギルド間に同盟でも無ければ会議以外では言葉も交わさないだろう。
そんな議会の人間に他のギルドの人間の事を知る由も無いのだ。
黙り込む刻にトゥクルは溜め息を吐いた。
「ないのか。重要なのは変な夢の内容」
トゥクルの目線は依然写真に落ちている。
「変な夢には黒い化け物が出てくるんだ。不気味な顔をした化け物が」
もう一度写真に視線を戻す。
黒く歪な模様がこちらを向いている気がして、刻は写真をトゥクルに突き返した。
「それが死ぬ前の予兆ってことね」
「そう」
「で?解決策はあるの?」
膝の上に肘を置き、頬杖をつく刻を前にトゥクルは首を横に振る。
「そっか。・・・で、優のことは?」
「優君のことは、議会の人間が片っ端から死んでいってるなら危険なんじゃないかと思って」
やはり同盟を結ぶ為の餌だったのか。
どうやらトゥクルの口車にまんまと乗せられたらしい。
「それくらい分かってる。・・・それだけの事だったら同盟結ばなきゃ良かったな」
今度は刻が溜め息を吐く番だった。
「でもこの情報は良かったでしょ?」
「別に。良くも悪くもない」
蓋を開ければ何てことのない情報。
拍子抜けした後に何を話せばいいというのか。
「俺からはトゥクルが話した以上のことは出てこないよ」
また溜め息を吐いて立ち上がる。
その直後、近辺で爆発音が木霊した。
トゥクルの視線の先、振り返るとそこには城がある。
「燈ちゃんがどんぱちやってるみたいだね」
その言葉に音源は城の地下だと刻の脳は弾き出す。
「行かなきゃ、とか思ってるでしょ」
背後から声を掛けられる。
振り返るとトゥクルがすぐ側まで近づいていた。
「行かないほうがいいよ。自分が一番分かってるでしょ」
その言葉に城の方を向いていた刻の足が止まった。
涙哨石がある限り能力者である刻とトゥクルは用無しなのだ。
「俺はさ、黒猫としての君の情報が欲しいんじゃない」
「つまり?」
「思考系能力はさ、お茶会をするんでしょ?」
リヒト、グラス、刻、この三人が行う茶会のことだろう。
どこで聞きつけたのかは知らないが、そこで話し合われている情報を手に入れたいのだとトゥクルは言っているように思えた。
「その情報は流せないよ。クロウに怒られちゃう」
「クロウ?」
クロウ・リヒト、彼の本名を知る者は数少ない。
言ってしまうのには気がひけるが、クロウとだけではリヒトに結びつかないだろう。
「俺達の口煩いリーダーだよ」
そう告げると刻は口を噤んだ。
これ以上問いかけても今は何も出てはこないだろう。
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