黒猫は闇に泣く

ギイル

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第1章 黒猫の友人

地下通路

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「で、今これどういう状況?」
身体の節々が痛む。
また闇の中にいるが先ほどと変わって側にいるのは燈だった。
「記憶無いんだけど・・・」
「優が壊せって言ったんだぞ」
天井を仰ぐが、光さえも落ちてはこない。
城の地下から更に深いどうやら地下通路に出たようだ。
「この城はどこまで掘ったら気がすむんだろ」
湿った地面を軽く叩くがどうやらもう下に空間は無さそうだった。
「もう出たい・・・。地下はもういい。帰りたい」
身体を壁に預け座り込んだまま、優は愚痴を零すばかりだ。
燈は右へ左へ走り回っては通路の行く先を確認しているようだった。
自身の走る音とその反響音を利用して距離を測る。
何回か優の目の前を燈が往復した後、優の前でひたと足音が止まった。
「行き止まりだ」
「通路なのに?」
「壁にぶち当たったぞ」
人工的に掘られたはずの通路に出口がない。
そんなことがある訳がないと優は頭をひねる。
「壁じゃなくて扉じゃないの?」
その言葉に燈は足早に左へ向かう。
数回壁を蹴る音がし、続いて燈の声が響いた。
「開かない。めちゃくちゃ硬いぞ、この壁」
「燈ちゃんと靴履いてる?」
「履いてるぞ。ヒールも折れてない」
燈の靴は特注品だ。
剣術の次に主に燈は体術を使う。
レトロによって鍛え上げられた身体からは凡そ人間とは思えない攻撃力が生まれるのだ。
靴底は特殊な金属で、その燈の蹴りの重圧に耐えられる仕様になっている。
更に重さと硬さに比例して燈の蹴りに威力が加算される仕組みになっているのだ。
燈の足に限界が来ない限り、戦闘では無敵の強さを誇っている。
「じゃあ扉の周りにスイッチとかない?」
「無いな」
「詰んだね」
優は重たい腰を持ち上げて、壁に手をつき足を引きずりながら燈の元へと移動した。
羅針盤コンパスが必要なのかも・・・」
瞬間的に場所を移動する能力。
出入り口がない場所でもそれなら自由に出入りすることができる。
「じゃあ私達には無理だな」
優と燈にそのような能力は持ち合わせていない。
事実上のゲームオーバーだ。
「助けを待つ?遅かれ早かれ刻が気づくだろうし」
主人の帰りが無い。
その場合は助けを寄越すという黒猫団の決まりだ。
「登った方が早くないか?」
不意に燈が呟いた。
勘弁してくれと心の中で呟いた。
罪の子に襲われてただでさえ満身創痍の上で、気絶しているまま落下した。
着地直前に目が覚めたおかげで転落死になる事はなかったが、足を捻りそのまま身体を地面に打ち付けた。
「無理。僕怪我してるもん」
「私が抱えればいい」
その言葉と同時に優の腰に手が回る。
女にしてはしっかりと筋肉が付いた腕が優の身体を引き寄せた。
「嘘!?嘘!?嘘!?待って!」
「なんだ?」
「下手に持ち上げると痛いから!怪我してるから!」
必死に言葉を並べても燈の力は緩まない。
「怪我してるなら尚更だ。歩くのは痛いだろ?」
ぐうの音も出なくなった優を燈は担ぎ上げた。
腹の部分が燈の肩に圧迫される。
更に顔が下を向く体制となった。
胃の中に物があったら吐いていただろう。
「気持ち悪い・・・」
「少し我慢しろ」
有無を言わせぬ口調に優は言葉を飲み込んだ。
「登るしかないが・・・上にはあいつらがいるよな」
優を担ぎ上げたまま考え込んだ燈に優は大きく溜め息を吐いた。
「そういえば右行って無いよね」
「右は扉は無かったぞ」
「扉は?」
その一言に燈は足を右へ向ける。
歩くリズムに合わせて揺れる優は吐かないように耐える事で必死だった。
「扉はないがブレーカーはある」
「それ先に言ってよ」
「扉を探せって言ったのは優だぞ」
「そんな事絶対言ってない」
燈の腕の動きに合わせうまい具合に身体を捻り地に足を着ける。
手を這わせるといくつもの凹凸があった。
その中でも一番大きなレバーを握り下に下ろした。
「付かないぞ」
後ろで文句を言っている燈を他所に、小さな乱立した取っ手を下げる。
瞬間、視界が眩んだ。
振り返ると天井からぶら下がっていた照明が二人を照らし出していた。
「どう?」
得意げに問いかける。
少し意地悪な優の笑顔に燈は子供の様に頬を膨らませた。
「とりあえず出口を探そう」
不機嫌だった顔は一転、燈は愛らしく首を縦に振る。
少し行ったところに壁がある、それは暗闇の中でも把握できた。
灯りがついた今、その道なりに多くの壁画が描かれているのが目に入った。
「壁に手付いたけど大丈夫かな?」
自身がいたであろう瓦礫が疎らに散らばった場所。
その付近の壁に手が擦れたような跡がある。
「ここだけ色が落ちてるな」
「仕方ないよね」
燈の肩を借りて端から端まで見渡す。
小さな子供達と大きな木。
どれも黒い絵の具で描かれていた。
そしてもう一色、載せられた赤い絵の具。
子供達の目、そして木になる木の実。
「これ、見た事ある」
優がぽつりと呟いた言葉に燈はひたと動きを止めた。
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