黒猫は闇に泣く

ギイル

文字の大きさ
36 / 36
第1章 黒猫の友人

合流

しおりを挟む
どうして。
そう問われると明確な答えは出てこない。
しかしただぼんやりと、壁に黒く描かれた絵は優の頭の中で重なる何かがあった。
「これは何を表しているんだ?」
黒い輪郭を燈は指でそっとなぞる。
脆く思えた壁の塗料が剥がれ落ちることはなかった。
「わからない。けど、目の赤い子供なんて見たことない。何かの比喩?」
木を囲むように無造作に並んだ子供達。
その中の一人、優の手元辺りにいた子供がこちらを見たような気がした。
言葉では表しようのない不安に襲われ、咄嗟に燈へと視線を移した。
「とりあえずここにこういうのがあったっていう事は僕と燈の秘密ね」
唐突な優に燈は首を傾げてみせた。
「大切なものは大事に取っておかなきゃ」
「お爺様の言葉か?」
「まあね」
意地悪く笑う優に釣られ燈も笑みを浮かべる。
二人して人差し指を口元に立て、微笑んだ。
不意に燈が天井を見上げた。
続いて何かが落ちた音がした。
正確には上から誰かが落ちてきた音だ。
罪の子が追ってきたのだろうか、弾かれたようにそちらを向いた。
音の正体はトゥクルと随分と身長差のある白い少女だった。
「トゥクル!?どうして・・・」
アカリちゃんが穴開けたでしょ。その音が豪快すぎて慌てて駆けつけたってわけ」
砂埃にまみれた二人を見てトゥクルは苦笑した。
今まで気にもしていなかったが、言われてみると黒を基調とした優の団服は綺麗と言えるものではなかった。
「本当に揃いも揃っておてんばな女の子だよね」
燈を一瞥した後横目にトゥクルは少女を見た。
白い袖の広がった服を着た、髪も肌も白い少女。
青みがかった瞳が優を射た。
「えっと、君は?」
「グラスです」
「えっと、聖教会の人?」
「十字軍です」
淡々と答えるグラスにたじろぐ優。
口籠った優に変わって燈はグラスに興味を示した。
「まるで人形だな」
「よく言われます」
「私は燈だ」
「お噂はかねがね」
「今度一緒にお茶でもどうだ?」
「いいですよ」
勝手に進んでいく会話。
淡々と流れる話題にトゥクルはすかさず待ったをかける。
「お茶会もいいけど先にここから出ない?」
四人は天井から少し顔を覗かせる光を仰いだ。
「登ろう」
ユーくん怪我してない?」
「私が抱える」
「いらない」
優の抵抗も虚しく燈は優の身体を持ち上げた。
「男は軟弱なのですね」
「優は箱入りだからな」
罪の子に出会う事なく地上まで出られるかは運に頼るしかない。
「そういえば」
グラスは不意に言葉を止める。
城内部の見えない死体の事はまだ心の中にしまっておこう、そう一つ首を振った。
「お茶会はいつにしましょうか」
仄かに香る鉄の匂いをかき消すように、楽しい話に花を咲かせた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

元恋人が届けた、断りたい縁談

待鳥園子
恋愛
シュトルム辺境伯の末娘ソフィに隣国の帝国第二皇子から届けられた『縁談』の使者は、なんと元恋人のジョサイアだった。 手紙ひとつで別れることになったソフィは、素直になれずジョサイアから逃げ回る。 「私に届けなければ、彼は帝国に帰ることが出来ない」 そう思いようやく書状を受け取ろうと決意したソフィに、ジョサイアは何かを言い掛けて!?

予言姫は最後に微笑む

あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。 二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...