9 / 10
共通話2
東雲家はごみ屋敷!?
しおりを挟む
チュンチュンと鳴く雀の声が耳元で大きく聞こえる。
まだ重たい瞼を擦り、大きな欠伸をしながら起きると雀がツンツンと頬をつついていた。
「う~ん。起きるよ~そんなに突っつかないで」
体を起こして伸びをすれば、雀やらメジロやらひばりやら小鳥達が私の頭や肩に飛び乗ってきた。
「――ふあ~眠い。…まだそんなに明るくないじゃないの~もう少し寝かせてくれてもいいのに」
どうやら鳥達の朝のリズムで起こされたようだ。
外はまだ完全には日が昇らず、ようやく遠くの空が明るくなり始めた頃といった感じた。
「はあ~、何処に行ってもこれは変わらないか…」
ここは自宅ではない。
見ず知らずの土地で見ず知らずの鳥達に群がられる。
自宅ならともかく何処に行ってもこれは少しだけ鬱陶しい。
(いつものことだけど、家の子達は気心知れてるからこんな早朝に起こしたりしないんだよね)
いつまでも布団でぼお~としていると小鳥達が急かすように突っついてくる。
「分かった。起きる!起きるからつつかないで!」
仕方なしに布団から出ると、冷たい空気が肌寒かった。
見渡せば昨日、目が覚めた時と同じように着物が近くに掛けてあり、私はその着物に袖を通した。
(帯、は~もう適当でいいや。くくっとこ~)
帯を方結びするという暴挙、絶対に怒られるであろう着方で着付けが完了した。
縁側に出れば大小様々な鳥達が木の実や葉っぱを持っていた。
「くれるの?」
手を出せば順番に鳥達が手のひらに持っていた物を置いて飛び立っていく。
「ありがたいけど…困ったなぁ」
手のひらには食べられる物からちょっと…といった物まで様々。
鳥達が食べるのには問題なさそうな物ばかり。
(後で庭にでも植えようかな?…どんぐりとか)
食べられない事はないが、灰汁が強いから料理するには色々と面倒だ。
貰った物を人が食べられる物と、食べられるけどちょっと…という物と無理!!食べられません!に分けてみた。
当然食べれる物は殆どなかった。
そんな中に栗が数個と柿が一個あった。
(柿は良いんだけど。栗かあ…)
「数がびみょ~。う~ん、栗ご飯とか?」
割れば見た目的には何とかそれらしく見えるかもしれない。
「みんなありがとねぇ~!」
庭に向けて声をかけると鳥達がパタパタと空へと飛び立っていく。
「さて、お台所にでも行ってみますか」
栗と柿が手元にあるとはいっても他に何があるのか分からない。
(緑の物体の材料はあると思うんだけど…)
「食べれる物…だよねきっと」
昨日は適当に歩いて迷い混んだ台所。
いざ、もう一度目の前にして気が遠くなった。
「き、汚い!!」
辛うじて竈だけが使われているのか、大量の灰の中に炭が残っており、最近火を使った痕跡があった。
(あ~使える鍋もお椀もない…)
長く放置された洗い物達、カビやら良く分からない物がこびりついている。
中には怪しげな茸まで…
(まさかこの茸栽培してないよね?昨日の食事に入ってないよね?)
血の気が引いていく気がした。
とにかくまずはここを使えるようにしなければ始まらない。
私は意を決して袖を捲った。
紐をたすき掛けで着物の裾をくくり上げ、出来るなら触りたくもない食器達に立ち向かっていった。
「ひっ!いやあ~なんかぬるっとしたぁ~!!」
動かせば動かすほど異臭が鼻につく。
必死で勝手口から外の井戸に全部を出す頃には私の心は折れかけていた。
「――疲れた。そしてお腹すいた…」
目の前にはまだモザイク必須な洗い物が山のようにある。
(早朝に起こしてもらえてよかった…)
これを普段通り起きていたなら片付かなかっただろう。
よって、緑の物体再び!!
「あれをもう一度食べるのは無理!!」
気を取り直して井戸から水を組むと、藁を編んだロープの塊みたいな物をスポンジがわりに洗っていく。
因みにコレ、藁を編んだ塊は台所に落ちていた代物だ。
「冷たいなぁ。お湯使えたらいいのに…」
(あ~でも、お湯沸かして煮沸消毒した方が良さそうだよね。洗剤なんてないし)
「誰か手伝って~」
ちょっと愚痴ったらまた鳥達がパタパタと側に寄ってきた。
「あ~気持ちだけ貰っとくよ…ありがとね!」
(猫の手も借りたいならぬ鳥の足もってか?)
ため息をつきながら大量の汚れ物を洗うのだった。
小一時間ほど洗い物と格闘して、洗ったものを篭にいったん積んで置くと、次は竈の掃除。
大量の灰を掻き出して、麻の袋に詰めていく。
「ゴホゴホッ!!」
(後で庭にでも埋めておこう)
一杯になった麻の袋を外に出し、新しい薪と燃えやすい枯れ草を入れて火をつけた。
「はあ、火打石なんて初めて使ったよ…」
(火がついて良かったよほんと…)
開け放たれた勝手口の先には先程洗った山のようなお皿やお碗達。
(あ~朝ごはんまでの道のりが遠い)
洗った大きなお鍋に井戸の水を入れ、竈でお湯を沸かす。
その間に調理台やらその周りを綺麗にしていく。
「あら、お米が出てきた。こっちは…よもぎ?」
(――まさか!!よもぎをドロドロになるまで煮えたぎらせたの!?)
しかもこの時期、当然新芽などではなく固くて青い成長しきった葉。
おまけに花が咲いているものまである。
それをグツグツとドロドロになるまで――あの青臭さにも納得がいく。
「本当に食べるのに困ってるのね…」
昨日、彼から聞いた話だけではどうしても信じられなかった。
それは自分が飢えたことのない世界で生きてきたからなのかもしれない。
グツグツと煮えたぎるお湯の音に、鍋の水が沸騰したことを告げる。
順番に煮沸消毒しながら、私がいる間だけでも美味しいご飯を皆に食べて貰いたいと思い始めていた。
(ここの台所でまともに料理できるかは置いておこう)
煮沸したものは冷ますために別の篭に並べていきながら、反対の竈でご飯を炊く準備をし始める。
と言っても大したことはない。
お米を研いで、煮沸しながらこっそり湯がいた栗の殻を剥き、四等分に切り分けてお釜に入れた。
味付けはシンプルに塩だけ。
(出汁になりそうな物があったらなぁ。まあ、塩があっただけ良かったよ。…四等分小さすぎたかな?――まあ、いいか)
「ん~腰が痛くなってきた…。え~と次は…なんかないかなぁ」
ごそごそと片付けながら他に何かないか物探し。
すると一つのかめ壺を見付けた。
中を見てみると良い香りがした。
「お味噌!やった!朝はお味噌汁よね!」
(具材は!?お味噌オンリー汁?……なんかやだ)
「くっ!探せ!探せば何か出てくるはずよ!!」
お味噌汁があればTHE朝ごはん!らしくなる。
私はさらに角から隅まで探した。
結果…シワシワの芋が出てきた。
「……しわしわぁ~。剥いてみよう、まだきっと茹でればいけるわ!」
こうして私はお味噌汁をゲット!した。
更によもぎを天ぷら…ではなく素揚げして、塩をふった。
「何とかそれらしくなったわね」
それから冷めた食器を片付けようと棚に手を伸ばして固まった。
(ここもかー!!)
誇りまみれのギトギト…
このままでは折角洗ったお皿達がまた汚れてしまう。
「あ~もう!今さらよね」
ご飯が炊けるまで棚を綺麗にし、積み上げた食器を片付けていく。
もう、ついでとまでに居間の掃除までしだした。
いつもここで食事しているからか、他よりも…と言いたい所だけれど、良く見ればあちこち誇りが降り積もっている。
「あ~あ、畳の隅っこに蜘蛛の巣とか…ひぃ!蜘蛛の死骸!」
蜘蛛の死骸は見なかったことに…出来ないので外から塵取りを持ってきてプルプルしながら排除した。
結構な大きさでした…。
雑巾を水で濡らし、絞ってから畳を綺麗に拭いていく。
拭いていると不思議と爺様を思い出していた。
『雪野、畳は一目一目綺麗に磨くのじゃよ?』
『え~じじさま、絶対に無理!!一目ちっちゃいよ~』
『何を言うか!気合いじゃ気合い!』
幼い頃、毎日のように爺様に言われていた。
色んな事を教わった。
今思えば、爺様は自分がいなくなった後の事を考えて、私が一人で生きていけるように教えてくれていたのだと思う。
どうでもいいような事から、大切なことまで…
(唯一教わってないのは料理よね)
爺様に教わっていたら、今頃私も緑の物体しか作れなかったのかもしれない。
(それは正直恐ろしい…おばちゃん達ありがとう!)
「ふう、だいぶ綺麗になった!」
立ち上がるとご飯の炊ける良い香りが漂ってくる。
「もうそろそろ良いかな~ぐうぅぅ!…あ~お腹すいたぁ」
早朝からあれだけ動けばお腹は正直なもので、ご飯の香りでお腹はぐうぅぐうぅ鳴っていた。
「よし!部屋も綺麗になったし、食べる用意しよ~」
台所に戻って、お膳にお味噌汁とよもぎの素揚げを盛り付けていく。
最後にお釜のふたを取ると、真っ白なご飯に黄色く色付いた栗が宝石みたいに輝いていた。
「よだれ出そ~」
ご飯をよそい、並べていけば質素ながらもちゃんとした朝ごはんになった。
「ん~なんか忘れて…あ!柿!」
慌てて柿を剥いて小皿に乗せていく。
(渋柿だったらどうしよう…)
種がある辺りを少しだけかじると優しい甘さが口の中に広がった。
「この柿、美味しい!」
(種取っといて、後で庭に…)
何気に肥料になりそうな灰は大量にあるし、こっそり植えておけば、育つかもしれない。
予想以上の朝ごはんの出来に、ルンルン気分で料理の乗ったお膳を居間へと運んだ。
「よいしょっと」
一つ目のお膳を置いたと同時に廊下に面する襖が開いて、驚いた顔の二千花ちゃんの姿があった。
「あ!二千花ちゃんおはよう!早いね」
「は、はい。おはようございます。あ、あの。このお膳は…」
「朝ごはんだよ?大丈夫!ちゃんと皆の分もあるから!そうだ、運ぶの手伝ってくれる?」
「はっはい!」
二千花ちゃんが手伝ってくれたおかげであっという間に準備が終わった。
並べられたお膳を見ているとまだ何かが足りない気がする。
「ん~まだなんか忘れてるような」
「お茶…じゃないでしょうか?」
私はポンッと手を叩いた。
「それだ!」
私がお湯沸かしている間に、二千花ちゃんがお茶っ葉を持ってきてくれた。
「う~ん緑茶の良い香り!」
もちろん急須は私が洗った物。
「このご膳、雪野さんが?」
「うん。私が作ったのよ?あ…毒は入ってないわよ!」
いったい何の心配をしているのか…ここの人達が私の事を信頼していないのは確かで、いやむしろ邪魔者だと思うからこそ私は何とか取り繕うと必死だった。
そんな私の気持ちとは反対に二千花ちゃんの瞳はきらきらと輝いていた。
「――美味しそう」
ポツリと溢した二千花ちゃんは目に焼き付けるかのようにご膳に釘付けである。
(ホッ…良かった)
お茶を湯呑み茶碗に注いでいると妙な視線を感じる。
顔を上げると、襖に手を掛けたまま貴理也くんがこちらを睨んでいた。
(え、え~と…)
「おはよう、貴理也くん」
挨拶するとフン!と顔を背けられた。
(こいつが俺の嫁?)
(あはは…嫌われてるなぁ)
「兄様!ご挨拶はきちんとなさってくださいませ!」
「おはよう、二千花」
「おはようございます…って兄様!」
「まあ、まあ、二千花ちゃん。はい、貴理也くんお茶。熱いから気をつけてね?」
「子供扱いするな!」
貴理也くんは私を睨みながら湯呑みを受け取って自分の席に座った。
そして、順番にお茶を入れている私をマジマジと見た後、眉間にシワを寄せた。
「おいお前!」
「ん?何?」
「なんだその帯の結び方は!」
「あはは、バレちゃったか!苦手なのよ見逃して?」
ちょっと可愛く『てへ!』なんてやってみたら刺されそうな目をされてしまった。
「兄上達の前でそんな無様な姿を見せるつもりか!」
「そんなに変かなぁ?」
「変とかいう問題ではない!こちらに来い!」
「へ?ああ、うん」
「まったく、こんな事も一人で出来ないのか!幼子でもこれくらいは出来るぞ!」
文句言いつつも、側に寄った私の帯をほどいて綺麗に巻き直してくれる。
それがなんだか嬉しかった。
「ふふ」
「何が可笑しい!」
「可也斗も似たようなこと言いながらしてくれたなぁと思って」
なんだかんだと文句言いつつも世話を焼いてくれる兄弟。
「可也斗兄上にもこんな事をさせたのか!?」
「そういうとこ似てるよね~」
貴理也くんは呆れた顔で私の帯を締め付けた。
「ぐえ~苦し!可也斗はもう少し優しかったよ?」
「うるさい!兄上にまで手を煩わせるなど!」
ベシっと背中を叩かれて振り返ると貴理也くんはドカッと座り込んでいた。
見ると帯は綺麗に巻かれてあり、可愛く蝶々になっている。
「貴理也くん、ありがとうね」
「ふん!」
(あ、照れてる)
私の代わりにお茶を配り終えた二千花ちゃんがクスクスと笑っている。
「笑うな二千花」
「はい、兄様」
そう言う二千花ちゃんの顔はやっぱり笑っていた。
まだ重たい瞼を擦り、大きな欠伸をしながら起きると雀がツンツンと頬をつついていた。
「う~ん。起きるよ~そんなに突っつかないで」
体を起こして伸びをすれば、雀やらメジロやらひばりやら小鳥達が私の頭や肩に飛び乗ってきた。
「――ふあ~眠い。…まだそんなに明るくないじゃないの~もう少し寝かせてくれてもいいのに」
どうやら鳥達の朝のリズムで起こされたようだ。
外はまだ完全には日が昇らず、ようやく遠くの空が明るくなり始めた頃といった感じた。
「はあ~、何処に行ってもこれは変わらないか…」
ここは自宅ではない。
見ず知らずの土地で見ず知らずの鳥達に群がられる。
自宅ならともかく何処に行ってもこれは少しだけ鬱陶しい。
(いつものことだけど、家の子達は気心知れてるからこんな早朝に起こしたりしないんだよね)
いつまでも布団でぼお~としていると小鳥達が急かすように突っついてくる。
「分かった。起きる!起きるからつつかないで!」
仕方なしに布団から出ると、冷たい空気が肌寒かった。
見渡せば昨日、目が覚めた時と同じように着物が近くに掛けてあり、私はその着物に袖を通した。
(帯、は~もう適当でいいや。くくっとこ~)
帯を方結びするという暴挙、絶対に怒られるであろう着方で着付けが完了した。
縁側に出れば大小様々な鳥達が木の実や葉っぱを持っていた。
「くれるの?」
手を出せば順番に鳥達が手のひらに持っていた物を置いて飛び立っていく。
「ありがたいけど…困ったなぁ」
手のひらには食べられる物からちょっと…といった物まで様々。
鳥達が食べるのには問題なさそうな物ばかり。
(後で庭にでも植えようかな?…どんぐりとか)
食べられない事はないが、灰汁が強いから料理するには色々と面倒だ。
貰った物を人が食べられる物と、食べられるけどちょっと…という物と無理!!食べられません!に分けてみた。
当然食べれる物は殆どなかった。
そんな中に栗が数個と柿が一個あった。
(柿は良いんだけど。栗かあ…)
「数がびみょ~。う~ん、栗ご飯とか?」
割れば見た目的には何とかそれらしく見えるかもしれない。
「みんなありがとねぇ~!」
庭に向けて声をかけると鳥達がパタパタと空へと飛び立っていく。
「さて、お台所にでも行ってみますか」
栗と柿が手元にあるとはいっても他に何があるのか分からない。
(緑の物体の材料はあると思うんだけど…)
「食べれる物…だよねきっと」
昨日は適当に歩いて迷い混んだ台所。
いざ、もう一度目の前にして気が遠くなった。
「き、汚い!!」
辛うじて竈だけが使われているのか、大量の灰の中に炭が残っており、最近火を使った痕跡があった。
(あ~使える鍋もお椀もない…)
長く放置された洗い物達、カビやら良く分からない物がこびりついている。
中には怪しげな茸まで…
(まさかこの茸栽培してないよね?昨日の食事に入ってないよね?)
血の気が引いていく気がした。
とにかくまずはここを使えるようにしなければ始まらない。
私は意を決して袖を捲った。
紐をたすき掛けで着物の裾をくくり上げ、出来るなら触りたくもない食器達に立ち向かっていった。
「ひっ!いやあ~なんかぬるっとしたぁ~!!」
動かせば動かすほど異臭が鼻につく。
必死で勝手口から外の井戸に全部を出す頃には私の心は折れかけていた。
「――疲れた。そしてお腹すいた…」
目の前にはまだモザイク必須な洗い物が山のようにある。
(早朝に起こしてもらえてよかった…)
これを普段通り起きていたなら片付かなかっただろう。
よって、緑の物体再び!!
「あれをもう一度食べるのは無理!!」
気を取り直して井戸から水を組むと、藁を編んだロープの塊みたいな物をスポンジがわりに洗っていく。
因みにコレ、藁を編んだ塊は台所に落ちていた代物だ。
「冷たいなぁ。お湯使えたらいいのに…」
(あ~でも、お湯沸かして煮沸消毒した方が良さそうだよね。洗剤なんてないし)
「誰か手伝って~」
ちょっと愚痴ったらまた鳥達がパタパタと側に寄ってきた。
「あ~気持ちだけ貰っとくよ…ありがとね!」
(猫の手も借りたいならぬ鳥の足もってか?)
ため息をつきながら大量の汚れ物を洗うのだった。
小一時間ほど洗い物と格闘して、洗ったものを篭にいったん積んで置くと、次は竈の掃除。
大量の灰を掻き出して、麻の袋に詰めていく。
「ゴホゴホッ!!」
(後で庭にでも埋めておこう)
一杯になった麻の袋を外に出し、新しい薪と燃えやすい枯れ草を入れて火をつけた。
「はあ、火打石なんて初めて使ったよ…」
(火がついて良かったよほんと…)
開け放たれた勝手口の先には先程洗った山のようなお皿やお碗達。
(あ~朝ごはんまでの道のりが遠い)
洗った大きなお鍋に井戸の水を入れ、竈でお湯を沸かす。
その間に調理台やらその周りを綺麗にしていく。
「あら、お米が出てきた。こっちは…よもぎ?」
(――まさか!!よもぎをドロドロになるまで煮えたぎらせたの!?)
しかもこの時期、当然新芽などではなく固くて青い成長しきった葉。
おまけに花が咲いているものまである。
それをグツグツとドロドロになるまで――あの青臭さにも納得がいく。
「本当に食べるのに困ってるのね…」
昨日、彼から聞いた話だけではどうしても信じられなかった。
それは自分が飢えたことのない世界で生きてきたからなのかもしれない。
グツグツと煮えたぎるお湯の音に、鍋の水が沸騰したことを告げる。
順番に煮沸消毒しながら、私がいる間だけでも美味しいご飯を皆に食べて貰いたいと思い始めていた。
(ここの台所でまともに料理できるかは置いておこう)
煮沸したものは冷ますために別の篭に並べていきながら、反対の竈でご飯を炊く準備をし始める。
と言っても大したことはない。
お米を研いで、煮沸しながらこっそり湯がいた栗の殻を剥き、四等分に切り分けてお釜に入れた。
味付けはシンプルに塩だけ。
(出汁になりそうな物があったらなぁ。まあ、塩があっただけ良かったよ。…四等分小さすぎたかな?――まあ、いいか)
「ん~腰が痛くなってきた…。え~と次は…なんかないかなぁ」
ごそごそと片付けながら他に何かないか物探し。
すると一つのかめ壺を見付けた。
中を見てみると良い香りがした。
「お味噌!やった!朝はお味噌汁よね!」
(具材は!?お味噌オンリー汁?……なんかやだ)
「くっ!探せ!探せば何か出てくるはずよ!!」
お味噌汁があればTHE朝ごはん!らしくなる。
私はさらに角から隅まで探した。
結果…シワシワの芋が出てきた。
「……しわしわぁ~。剥いてみよう、まだきっと茹でればいけるわ!」
こうして私はお味噌汁をゲット!した。
更によもぎを天ぷら…ではなく素揚げして、塩をふった。
「何とかそれらしくなったわね」
それから冷めた食器を片付けようと棚に手を伸ばして固まった。
(ここもかー!!)
誇りまみれのギトギト…
このままでは折角洗ったお皿達がまた汚れてしまう。
「あ~もう!今さらよね」
ご飯が炊けるまで棚を綺麗にし、積み上げた食器を片付けていく。
もう、ついでとまでに居間の掃除までしだした。
いつもここで食事しているからか、他よりも…と言いたい所だけれど、良く見ればあちこち誇りが降り積もっている。
「あ~あ、畳の隅っこに蜘蛛の巣とか…ひぃ!蜘蛛の死骸!」
蜘蛛の死骸は見なかったことに…出来ないので外から塵取りを持ってきてプルプルしながら排除した。
結構な大きさでした…。
雑巾を水で濡らし、絞ってから畳を綺麗に拭いていく。
拭いていると不思議と爺様を思い出していた。
『雪野、畳は一目一目綺麗に磨くのじゃよ?』
『え~じじさま、絶対に無理!!一目ちっちゃいよ~』
『何を言うか!気合いじゃ気合い!』
幼い頃、毎日のように爺様に言われていた。
色んな事を教わった。
今思えば、爺様は自分がいなくなった後の事を考えて、私が一人で生きていけるように教えてくれていたのだと思う。
どうでもいいような事から、大切なことまで…
(唯一教わってないのは料理よね)
爺様に教わっていたら、今頃私も緑の物体しか作れなかったのかもしれない。
(それは正直恐ろしい…おばちゃん達ありがとう!)
「ふう、だいぶ綺麗になった!」
立ち上がるとご飯の炊ける良い香りが漂ってくる。
「もうそろそろ良いかな~ぐうぅぅ!…あ~お腹すいたぁ」
早朝からあれだけ動けばお腹は正直なもので、ご飯の香りでお腹はぐうぅぐうぅ鳴っていた。
「よし!部屋も綺麗になったし、食べる用意しよ~」
台所に戻って、お膳にお味噌汁とよもぎの素揚げを盛り付けていく。
最後にお釜のふたを取ると、真っ白なご飯に黄色く色付いた栗が宝石みたいに輝いていた。
「よだれ出そ~」
ご飯をよそい、並べていけば質素ながらもちゃんとした朝ごはんになった。
「ん~なんか忘れて…あ!柿!」
慌てて柿を剥いて小皿に乗せていく。
(渋柿だったらどうしよう…)
種がある辺りを少しだけかじると優しい甘さが口の中に広がった。
「この柿、美味しい!」
(種取っといて、後で庭に…)
何気に肥料になりそうな灰は大量にあるし、こっそり植えておけば、育つかもしれない。
予想以上の朝ごはんの出来に、ルンルン気分で料理の乗ったお膳を居間へと運んだ。
「よいしょっと」
一つ目のお膳を置いたと同時に廊下に面する襖が開いて、驚いた顔の二千花ちゃんの姿があった。
「あ!二千花ちゃんおはよう!早いね」
「は、はい。おはようございます。あ、あの。このお膳は…」
「朝ごはんだよ?大丈夫!ちゃんと皆の分もあるから!そうだ、運ぶの手伝ってくれる?」
「はっはい!」
二千花ちゃんが手伝ってくれたおかげであっという間に準備が終わった。
並べられたお膳を見ているとまだ何かが足りない気がする。
「ん~まだなんか忘れてるような」
「お茶…じゃないでしょうか?」
私はポンッと手を叩いた。
「それだ!」
私がお湯沸かしている間に、二千花ちゃんがお茶っ葉を持ってきてくれた。
「う~ん緑茶の良い香り!」
もちろん急須は私が洗った物。
「このご膳、雪野さんが?」
「うん。私が作ったのよ?あ…毒は入ってないわよ!」
いったい何の心配をしているのか…ここの人達が私の事を信頼していないのは確かで、いやむしろ邪魔者だと思うからこそ私は何とか取り繕うと必死だった。
そんな私の気持ちとは反対に二千花ちゃんの瞳はきらきらと輝いていた。
「――美味しそう」
ポツリと溢した二千花ちゃんは目に焼き付けるかのようにご膳に釘付けである。
(ホッ…良かった)
お茶を湯呑み茶碗に注いでいると妙な視線を感じる。
顔を上げると、襖に手を掛けたまま貴理也くんがこちらを睨んでいた。
(え、え~と…)
「おはよう、貴理也くん」
挨拶するとフン!と顔を背けられた。
(こいつが俺の嫁?)
(あはは…嫌われてるなぁ)
「兄様!ご挨拶はきちんとなさってくださいませ!」
「おはよう、二千花」
「おはようございます…って兄様!」
「まあ、まあ、二千花ちゃん。はい、貴理也くんお茶。熱いから気をつけてね?」
「子供扱いするな!」
貴理也くんは私を睨みながら湯呑みを受け取って自分の席に座った。
そして、順番にお茶を入れている私をマジマジと見た後、眉間にシワを寄せた。
「おいお前!」
「ん?何?」
「なんだその帯の結び方は!」
「あはは、バレちゃったか!苦手なのよ見逃して?」
ちょっと可愛く『てへ!』なんてやってみたら刺されそうな目をされてしまった。
「兄上達の前でそんな無様な姿を見せるつもりか!」
「そんなに変かなぁ?」
「変とかいう問題ではない!こちらに来い!」
「へ?ああ、うん」
「まったく、こんな事も一人で出来ないのか!幼子でもこれくらいは出来るぞ!」
文句言いつつも、側に寄った私の帯をほどいて綺麗に巻き直してくれる。
それがなんだか嬉しかった。
「ふふ」
「何が可笑しい!」
「可也斗も似たようなこと言いながらしてくれたなぁと思って」
なんだかんだと文句言いつつも世話を焼いてくれる兄弟。
「可也斗兄上にもこんな事をさせたのか!?」
「そういうとこ似てるよね~」
貴理也くんは呆れた顔で私の帯を締め付けた。
「ぐえ~苦し!可也斗はもう少し優しかったよ?」
「うるさい!兄上にまで手を煩わせるなど!」
ベシっと背中を叩かれて振り返ると貴理也くんはドカッと座り込んでいた。
見ると帯は綺麗に巻かれてあり、可愛く蝶々になっている。
「貴理也くん、ありがとうね」
「ふん!」
(あ、照れてる)
私の代わりにお茶を配り終えた二千花ちゃんがクスクスと笑っている。
「笑うな二千花」
「はい、兄様」
そう言う二千花ちゃんの顔はやっぱり笑っていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
20
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる