異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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121.邪魔されたよ

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「この俺様を虚仮にしやがったんだ……ぶっ殺してやるから、覚悟しやがれ!」

 このトサカドワーフは一回戦で敗北したことを逆恨みして、ウータを襲うために来たようである。
 わざわざ、ご苦労な話である。
 せっかく足湯を楽しんでいたところに水を差されて、ウータは困ったように眉尻を下げた。

「あのさ……見てわからないかな? 僕、今すっごく楽しんでたんだけど?」

「はう……」

 ウータはとりあえず、持っていたタオルをステラの顔に被せた。
 余計なお世話かもしれないが……この緩み切った顔は、他人に見せない方が良い気がしたのである。

「僕が失礼なことをしたのなら謝るからさ。今日のところは帰ってくれない?」

「帰れるわけねえだろ! テメエのせいで、俺は笑い者だ!」

 トサカドワーフがダンダンッと地団太を踏んだ。

「負けた相手が同じドワーフ族の戦士だったら良い……敗北したとしても、勇敢な同胞と戦って敗れたことを誇りに思うことができる! だが、人間族の小僧にやられただなんて屈辱に耐えられるものか!」

「そういう差別的な理由なんだ? あんまり、これからの時代は流行らないと思うけどな」

 どうやら、トサカドワーフが怒っているのはウータが人間だからのようだ。
 ウータは興味を持っていないが……この世界にも人種差別や民族紛争は当然のようにあるようで、ドワーフは軟弱な人間を嫌っているらしい。

「困るなあ……まあ、逃げちゃおうかな」

 目の前のドワーフ達を塵にするのは簡単である。
 せっかくリラックスしていたというのに、つまらないことで人を殺したくはなかった。

「それじゃあ、ステラを連れて転移でポンッ……」

「言っておくが……逃げるんじゃねえぞ! そっちの女の顔は覚えたからな!」

「うん?」

 ウータが転移を止めた。
 女というのはステラのことだろう。顔はタオルで隠れているのだが……どこで顔を知ったのか。

「テメエが試合の時に手を振っていた女だろう? 人間族は図体がでかくてブサイクだから、すぐに覚えられたぜ!」

「…………」

「もしもテメエが逃げやがったら、そっちの女を拉致ってやる! テメエが次の試合をしているときに連れて行って、五体をバラシて魔物の餌にしてやるよ!」

「…………」

「それが嫌だったら、もう一度俺と……」

「転移」

 ウータが転移をした。
 ステラを連れて宿に移動……したのではない。
 ステラを連れて行ってはいない。転移先もトサカドワーフの背後である。

「せっかくいい気分だったのに……もう台無しだよ」

「なっ……」

「塵になーれ」

 トサカドワーフの頭を掴んで、塵化を発動させた。
 目の前の不快な男が一瞬で塵となり、残骸が床に散らばった。

「ウワアアアアアアアアアアアアアッ!」

「デュ、デューラさん!?」

 手下らしき男達が驚きの声を上げる。
 いかに敗北したとはいえ、彼らがリーダーとして仰ぐ『嵐切』のデューラが瞬きほどの間にやられるとは思わなかったのだろう。

「い、いったいどうやって……デューラさん! デューラさ……」

「うん、うるさいね」

 手下その一も塵にする。
 別に殺す必要はなかった気もするが……まあ、うるさかったからというのが理由である。

「ヒ、ヒエ、ヒエエ……」

 もう一人の手下が尻もちをついた。
 仲間であった二人の同胞の残骸の上に尻と手をついて、ガクガクと震えながら恐怖の眼差しをウータに向ける。

「た、たすけ……助けて……」

「塵になー……いや、ちょっと待った」

 最後の一人も塵にしようとするが……ふと、ウータは手を止めた。

「君さ、お掃除とか得意だったりしない?」

「は……そ、そうじ……?」

「掃除、できるの? できないの?」

「で、できまひゅっ! 掃除でもなんでもできますっ!」

「ああ、良かった」

 ウータが床を指差した。
 そこには大量の塵が散らばっている。

「このまま帰ったらお店の人に迷惑がかかっちゃうからさ。僕の代わりに掃除をしてくれない? 引き受けてくれるのなら、助けてあげる」

「へ、え……あ……?」

「掃除するの? 嫌だったら、しょうがないから君も……」

「しますっ! 掃除しますっ!」

 最後のドワーフが叫んだ。

「掃除します……綺麗にします! だから、命だけは……!」

「うんうん。それじゃあ、よろしくねー」

 ウータが笑顔で手を振って、果てたままのステラへと歩み寄る。

「それじゃあ、またね」

「あう……」

 ステラの身体を掴んで、そのまま転移をした。
 塵が散らばった足湯の店には、呆然とするドワーフの男だけが残される。

「は……あ……?」

 まるで幻のように消え去ったウータに、生き残ったドワーフは悪夢でも見たようなかおでしばらく震えていたのであった。
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