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141.勝者への報酬
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「いよいよ、この時がやってきたのね……」
とうとう、この日がやってきた。
ドワーフ族の女戦士……エンジェは待ちに待ったその時の到来に、背中に汗を流して緊張する。
武闘大会が終わった。優勝者はエンジェ。
表彰式が終わってから、エンジェはミスリルバレーの中央にある神殿へと連れてこられた。
(この神殿の地下に『土』の女神アースがいる……!)
エンジェが武闘大会に出場した目的は『土』の女神アースに会うため。
出不精な女神は普段から人前に出ることはなく、謁見を許されているのはごく少数の神官だけ。
唯一の例外は武闘大会の優勝者。
最強のドワーフとして認められた者だけが特別に女神に拝謁することができるのだ。
「こちらです。くれぐれも女神様に無礼がないように」
「もちろんです」
上級神官に連れられて神殿の地下……一般の信者が立ち入り禁止とされている区画に足を踏み入れる。
「こちらの腕輪を着けてください」
「これは……?」
「神殿の地下には侵入者を阻むための呪いがかけられています。この腕輪を嵌めていなければ入ることはできません」
見れば、上級神官も腕輪を嵌めている。
もしもエンジェが武闘大会への優勝という正式な方法をとることなくアースに会おうとしていれば、その身に悲惨な呪いが降りかかっていたことだろう。
腕輪を嵌めてさらに奥へと案内されて……階段を地下へ地下へと降りていくと、やがて両開きの大きな扉が現れた。
黄金で作られた扉には無数の宝石が散りばめられていた。
ルビー、サファイア、アメジスト、ガーネット、アクアマリン、ダイヤモンド……あるいは、エンジェが知らない珍しい宝石まで。
拳ほどの大粒の宝石、これだけで庶民の生涯収入に匹敵することだろう。
「これは……」
悪趣味な……という言葉を慌てて呑み込んだ。
豪華すぎて嫌味ったらしい扉であったが、すぐ傍に上級神官の姿がある。本音を漏らすわけにはいかなかった。
「女神様、武闘大会の優勝者をお連れいたしました」
「入りなさい」
上級神官が呼びかけると、扉の内側から声が響いてきた。
それほど大声というわけでもないのに……その声は身体の芯に響いてくるように重厚なものである。
やがて両開きの扉が独りでに開いた。部屋の内部があらわになる。
「…………!」
部屋の内部は地下だというのに真昼の屋外のように明るかった。
扉が開いた途端に、まるで万華鏡の中に放り込まれたような色とりどりの光が漏れだしてくる。
広いドーム型の部屋。そこは床、壁、柱、天井……ありとあらゆる場所に宝石が埋め込まれていた。その数は扉の比ではなく、何千、何万、数を数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほど大量である。
部屋には窓もなく照明もないが、宝石の一つ一つが光り輝くことによって内部を明るく照らしていた。
「よくぞ参った。苦しうない、近くに寄れ」
そして……部屋の最奥にある玉座に腰かけた少女の姿。
栗毛の髪、黄色の衣を身に纏った子供のように見える。
だが、見る者が見れば感じ取るできるだろう。その少女から放たれる圧倒的な存在感に。
外見だけならば人間の少女、あるいはドワーフの娘に見えるだろうが……エンジェは呑み込むようなオーラに息を呑み、その正体を確信と共に理解する。
「女神アース……!」
『土』を司る女神アース。
この世界を管理している六大神の一柱である女が、玉座の上で足を組んでエンジェのことを出迎えたのであった。
とうとう、この日がやってきた。
ドワーフ族の女戦士……エンジェは待ちに待ったその時の到来に、背中に汗を流して緊張する。
武闘大会が終わった。優勝者はエンジェ。
表彰式が終わってから、エンジェはミスリルバレーの中央にある神殿へと連れてこられた。
(この神殿の地下に『土』の女神アースがいる……!)
エンジェが武闘大会に出場した目的は『土』の女神アースに会うため。
出不精な女神は普段から人前に出ることはなく、謁見を許されているのはごく少数の神官だけ。
唯一の例外は武闘大会の優勝者。
最強のドワーフとして認められた者だけが特別に女神に拝謁することができるのだ。
「こちらです。くれぐれも女神様に無礼がないように」
「もちろんです」
上級神官に連れられて神殿の地下……一般の信者が立ち入り禁止とされている区画に足を踏み入れる。
「こちらの腕輪を着けてください」
「これは……?」
「神殿の地下には侵入者を阻むための呪いがかけられています。この腕輪を嵌めていなければ入ることはできません」
見れば、上級神官も腕輪を嵌めている。
もしもエンジェが武闘大会への優勝という正式な方法をとることなくアースに会おうとしていれば、その身に悲惨な呪いが降りかかっていたことだろう。
腕輪を嵌めてさらに奥へと案内されて……階段を地下へ地下へと降りていくと、やがて両開きの大きな扉が現れた。
黄金で作られた扉には無数の宝石が散りばめられていた。
ルビー、サファイア、アメジスト、ガーネット、アクアマリン、ダイヤモンド……あるいは、エンジェが知らない珍しい宝石まで。
拳ほどの大粒の宝石、これだけで庶民の生涯収入に匹敵することだろう。
「これは……」
悪趣味な……という言葉を慌てて呑み込んだ。
豪華すぎて嫌味ったらしい扉であったが、すぐ傍に上級神官の姿がある。本音を漏らすわけにはいかなかった。
「女神様、武闘大会の優勝者をお連れいたしました」
「入りなさい」
上級神官が呼びかけると、扉の内側から声が響いてきた。
それほど大声というわけでもないのに……その声は身体の芯に響いてくるように重厚なものである。
やがて両開きの扉が独りでに開いた。部屋の内部があらわになる。
「…………!」
部屋の内部は地下だというのに真昼の屋外のように明るかった。
扉が開いた途端に、まるで万華鏡の中に放り込まれたような色とりどりの光が漏れだしてくる。
広いドーム型の部屋。そこは床、壁、柱、天井……ありとあらゆる場所に宝石が埋め込まれていた。その数は扉の比ではなく、何千、何万、数を数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほど大量である。
部屋には窓もなく照明もないが、宝石の一つ一つが光り輝くことによって内部を明るく照らしていた。
「よくぞ参った。苦しうない、近くに寄れ」
そして……部屋の最奥にある玉座に腰かけた少女の姿。
栗毛の髪、黄色の衣を身に纏った子供のように見える。
だが、見る者が見れば感じ取るできるだろう。その少女から放たれる圧倒的な存在感に。
外見だけならば人間の少女、あるいはドワーフの娘に見えるだろうが……エンジェは呑み込むようなオーラに息を呑み、その正体を確信と共に理解する。
「女神アース……!」
『土』を司る女神アース。
この世界を管理している六大神の一柱である女が、玉座の上で足を組んでエンジェのことを出迎えたのであった。
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