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147.エルフの国へ
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「さーて、お次はエルフの国かなー?」
荷物をまとめて、ウータはドワーフの国……ミスリルバレーを後にした。
三人目の標的である『土』の女神アースは捕食した。次なる獲物はエルフガルドにいるという『風』の女神エアである。
ウータは荷物を背負い、同行者であるステラと一緒に街道を歩いていく。
「何というか、すっごく順調に進んでいるよねー。力がみなぎってみなぎって、お腹がポンポンだよー」
「ハア……私としては、知らないうちに色々と終わっていて、呆気にとられるばかりなんですけどね」
ウータの横でステラが溜息を吐いた。
ステラからしてみれば、武闘大会の後で急にウータの姿が消えて、帰ってきたかと思うと「女神を食べてきたよー」と帰り道で間食をしてきたことを報告するような口調で言ってのけた。
世界の支配者である女神の死を告げられて、ステラは思わず「えっと……それじゃあ、夕飯はいらないんですか?」と見当違いな言葉を返してしまった。
ともあれ……ドワーフの国にやってきた目的は成就された。
六人いる女神のうち三人を討ち果たして、これで折り返しである。
女神を捕食するたびにウータの能力は向上している。三人も食べれば、もう単独の戦闘で他の女神に敗北することはあるまい。
「怖いのは、残った三人が協力して襲ってくることだよねー。それ以外じゃ負ける気がしないね」
「ウータさんにしては強い言葉ですね……何というか、おかしな旗が立ったような気がしますけど」
自信満々のウータに対して、ステラが謎の不安感に襲われる。
何となく……本当に言いがかりのような直感ではあるのだが、ウータの目的がこのまま順調には進まないだろうという感覚があった。
「ステラは心配性だねー。大丈夫だよ、ほら、僕だし?」
「ウータさんだから心配なんですけど……いや、私が口出しするようなことではありませんね」
たとえ行く先に何が待ち構えていようと……ステラはウータについていくことを決めたのだ。
ウータはステラの世界を変えた人間。
ステラを支配していた女神フレアを殺し、絶望が惰性のように続いていくかと思われていた人生を変えてくれた人だ。
仮にそれがイバラの道であったとしても……ステラは着いていく。どこまでも。
「そういえば……ウータさんのご友人は今頃、何をしているのでしょう」
ふと、思い出してステラが訊ねた。
ステラに面識はないが、ウータが異世界から幼馴染の友人と一緒にこの世界にやってきたということは聞いていた。
時折、彼らのことをウータが語ってくれるのだが……言葉の端々から、ウータが幼馴染を大切にしていることが伝わってきていた。
「ああ、みんなだったら……どうだろう、何しているんだろうね?」
ウータが首を傾げる。
彼らと分かれて数ヵ月になるが、連絡は取り合っていないため無事かどうかは知らなかった。
「向こうの世界に帰る目途も立ったことだし……一度、向こうに戻ってみんなの様子でも見に行こうかな?」
「……そうですね」
ステラが少しだけ、寂しそうな表情になる。
ウータが大切に思っている誰か、そのうち三人は女性であることを思うと、胸が締めつけられたように痛くなる。
「いいと思います。きっと、ご友人も喜びますよ」
「ステラのことも紹介するねー。きっと、良いお友達になれるよー」
「え……私も連れていってくれるんですか?」
ステラがパチクリと瞬きをした。
ウータは当然だとばかりに、胸を張って大きく頷く。
「もちろん! ステラも僕の友達だし、友達の友達はフレンドじゃないか」
「その理屈はよくわかりませんけど……そうですね」
ステラは胸の痛みが軽くなったような気がして、相貌を緩める。
「楽しみです。皆さんのこと、紹介してくださいね」
「もちろん! というか……思い立ったら吉日だし、もう行っちゃおっか?」
忘れっぽいウータのこと。
この機会を逃したら、また何カ月か彼らのことを忘れてしまうかもしれない。
大切に思っている割に薄情なウータであった。
「それじゃあ、さっそく転移して…………ありゃ?」
ステラと手を繋いで、幼馴染がいるファーブニル王国に転移しようとするウータであったが……大きく目を見開いて、動きを止める。
「ウータさん、どうかしました……へ?」
ステラも異変に気がついた。
二人の眼前、一メートルほど前方の空間が蜃気楼のように揺らいでいったのだ。
徐々に大きくなった揺らぎ……その中から、何かが飛び出してくる。
「キャアッ!」
「あれ? 君は……?」
揺らぎの中から飛び出してきた誰か……それはウータにとって、馴染みのある人物だった。
『ウータさん!』
カラスの濡れ羽のような長い黒髪。日本人形のように端整な顔。
突如として現れ、抱き着いてきたのはウータの幼馴染の一人……西宮和葉だったのだ。
『ウータさん……ああ、良かった。会えて……!』
「和葉? えっと……どうして、裸なのかな?」
和葉は何故だか一糸纏わぬ全裸だった。
年相応に発育した肉体を惜しげもなくウータに押しつけ、全力で抱擁してくる。
美貌の少女に裸で抱き着かれるというラッキースケベな展開であったが、ウータは和葉の方が小刻みに震えていることに気がついた。
「和葉、本当にどうしたの?」
『ウータさん、助けて……』
「え?」
困惑するウータに、和葉はクシャリと顔を歪めて涙ながらに訴えてくる。
『私達……捕まってしまったんです。王女様に裏切られて、エルフの国に連れていかれて……お願いします、どうか私達を助けてください……!』
「…………!」
予想外の言葉を受けて、ウータは眉間にシワを寄せて険しい表情になった。
ウータが滅多に浮かべることのない表情……怒りの顔である。
「裏切られた、捕まった……君達を傷つけた人がいるのかな?」
「…………」
それを横で見ていたステラは、怒りを向けられたのが自分でないことをわかっていながら、ブルリと恐怖に震えてしまったのだった。
荷物をまとめて、ウータはドワーフの国……ミスリルバレーを後にした。
三人目の標的である『土』の女神アースは捕食した。次なる獲物はエルフガルドにいるという『風』の女神エアである。
ウータは荷物を背負い、同行者であるステラと一緒に街道を歩いていく。
「何というか、すっごく順調に進んでいるよねー。力がみなぎってみなぎって、お腹がポンポンだよー」
「ハア……私としては、知らないうちに色々と終わっていて、呆気にとられるばかりなんですけどね」
ウータの横でステラが溜息を吐いた。
ステラからしてみれば、武闘大会の後で急にウータの姿が消えて、帰ってきたかと思うと「女神を食べてきたよー」と帰り道で間食をしてきたことを報告するような口調で言ってのけた。
世界の支配者である女神の死を告げられて、ステラは思わず「えっと……それじゃあ、夕飯はいらないんですか?」と見当違いな言葉を返してしまった。
ともあれ……ドワーフの国にやってきた目的は成就された。
六人いる女神のうち三人を討ち果たして、これで折り返しである。
女神を捕食するたびにウータの能力は向上している。三人も食べれば、もう単独の戦闘で他の女神に敗北することはあるまい。
「怖いのは、残った三人が協力して襲ってくることだよねー。それ以外じゃ負ける気がしないね」
「ウータさんにしては強い言葉ですね……何というか、おかしな旗が立ったような気がしますけど」
自信満々のウータに対して、ステラが謎の不安感に襲われる。
何となく……本当に言いがかりのような直感ではあるのだが、ウータの目的がこのまま順調には進まないだろうという感覚があった。
「ステラは心配性だねー。大丈夫だよ、ほら、僕だし?」
「ウータさんだから心配なんですけど……いや、私が口出しするようなことではありませんね」
たとえ行く先に何が待ち構えていようと……ステラはウータについていくことを決めたのだ。
ウータはステラの世界を変えた人間。
ステラを支配していた女神フレアを殺し、絶望が惰性のように続いていくかと思われていた人生を変えてくれた人だ。
仮にそれがイバラの道であったとしても……ステラは着いていく。どこまでも。
「そういえば……ウータさんのご友人は今頃、何をしているのでしょう」
ふと、思い出してステラが訊ねた。
ステラに面識はないが、ウータが異世界から幼馴染の友人と一緒にこの世界にやってきたということは聞いていた。
時折、彼らのことをウータが語ってくれるのだが……言葉の端々から、ウータが幼馴染を大切にしていることが伝わってきていた。
「ああ、みんなだったら……どうだろう、何しているんだろうね?」
ウータが首を傾げる。
彼らと分かれて数ヵ月になるが、連絡は取り合っていないため無事かどうかは知らなかった。
「向こうの世界に帰る目途も立ったことだし……一度、向こうに戻ってみんなの様子でも見に行こうかな?」
「……そうですね」
ステラが少しだけ、寂しそうな表情になる。
ウータが大切に思っている誰か、そのうち三人は女性であることを思うと、胸が締めつけられたように痛くなる。
「いいと思います。きっと、ご友人も喜びますよ」
「ステラのことも紹介するねー。きっと、良いお友達になれるよー」
「え……私も連れていってくれるんですか?」
ステラがパチクリと瞬きをした。
ウータは当然だとばかりに、胸を張って大きく頷く。
「もちろん! ステラも僕の友達だし、友達の友達はフレンドじゃないか」
「その理屈はよくわかりませんけど……そうですね」
ステラは胸の痛みが軽くなったような気がして、相貌を緩める。
「楽しみです。皆さんのこと、紹介してくださいね」
「もちろん! というか……思い立ったら吉日だし、もう行っちゃおっか?」
忘れっぽいウータのこと。
この機会を逃したら、また何カ月か彼らのことを忘れてしまうかもしれない。
大切に思っている割に薄情なウータであった。
「それじゃあ、さっそく転移して…………ありゃ?」
ステラと手を繋いで、幼馴染がいるファーブニル王国に転移しようとするウータであったが……大きく目を見開いて、動きを止める。
「ウータさん、どうかしました……へ?」
ステラも異変に気がついた。
二人の眼前、一メートルほど前方の空間が蜃気楼のように揺らいでいったのだ。
徐々に大きくなった揺らぎ……その中から、何かが飛び出してくる。
「キャアッ!」
「あれ? 君は……?」
揺らぎの中から飛び出してきた誰か……それはウータにとって、馴染みのある人物だった。
『ウータさん!』
カラスの濡れ羽のような長い黒髪。日本人形のように端整な顔。
突如として現れ、抱き着いてきたのはウータの幼馴染の一人……西宮和葉だったのだ。
『ウータさん……ああ、良かった。会えて……!』
「和葉? えっと……どうして、裸なのかな?」
和葉は何故だか一糸纏わぬ全裸だった。
年相応に発育した肉体を惜しげもなくウータに押しつけ、全力で抱擁してくる。
美貌の少女に裸で抱き着かれるというラッキースケベな展開であったが、ウータは和葉の方が小刻みに震えていることに気がついた。
「和葉、本当にどうしたの?」
『ウータさん、助けて……』
「え?」
困惑するウータに、和葉はクシャリと顔を歪めて涙ながらに訴えてくる。
『私達……捕まってしまったんです。王女様に裏切られて、エルフの国に連れていかれて……お願いします、どうか私達を助けてください……!』
「…………!」
予想外の言葉を受けて、ウータは眉間にシワを寄せて険しい表情になった。
ウータが滅多に浮かべることのない表情……怒りの顔である。
「裏切られた、捕まった……君達を傷つけた人がいるのかな?」
「…………」
それを横で見ていたステラは、怒りを向けられたのが自分でないことをわかっていながら、ブルリと恐怖に震えてしまったのだった。
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