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しおりを挟む「他の女性と浮気をして婚約を破棄するなんて、とてもじゃないけど許されることではないわよ。ましてや、婚約を申し込んできたのは伯爵家のほうからなんてね。まさか、その意味が分かっていないわけじゃないでしょう?」
「う……」
ハッキリと常識を問うと、クレインが言葉を詰まらせて目を泳がせた。
どうやら、恋に狂って後先考えられなくなったわけではないらしい。
わかった上でやっているのだとすれば、それはそれで問題なのだが……。
「どうしてそんなに酷いことを言うんですか! カトリーナさんには人間の心がないんですか!?」
「はあ?」
「クレイン様を愛しているのなら、大人しく身を引いてくれればいいじゃないですか! 愛し合っている2人を引き裂こうとするなんて、まるで物語に登場する悪役令嬢じゃないですか!」
「…………」
コイツは何を言っているのだろう?
婚約関係のある2人を引き裂いているのはこの令嬢――キャシー・ブラウンだし、浮気が悪いことであるという意識がないのだろうか。
そもそも、男爵令嬢でしかないキャシーが侯爵令嬢である私と対等に口をきいているのもあり得ないことだ。
学園の生徒には上下関係がないと校則で定められているが、それはあくまでも上位の人間が下位の人間に横暴を働くのを防ぐための制度。下位の貴族が上位者に無礼を働くことを許しているわけではない。
「あなたは何を言っているのかしら? 私は当たり前のことしか言ってないのだけど……婚約破棄によって発生する問題を理解できていないの?」
私はさらに胃痛が強くなるのを感じながら、それでも平静を装ってキャシーに訊ねた。
すると、キャシーはまるで自分が被害者であるように傷ついた表情を浮かべ、手の平で口元を覆う。
「そうやって私を馬鹿にして……。どうしてカトリーナさんはそんなキツイ言い方しかできないんですか! そんなことだからクレイン様に捨てられてしまうんですよ!」
「…………」
「愛があればどんな障害だって乗り越えられます! 私達は魂の絆で結ばれているのだから!」
うん、わかった。
この女、問題をまったく理解していない。
この婚約は伯爵家から申し込まれたもの。伯爵家が、上の爵位である侯爵家に対して婚約を打診したのだ。
それを後から他に好きな人ができたからと一方的に破棄するなど、とてもじゃないが許されることではない。
当然ながら慰謝料は発生する。
婚約を前提とした両家の契約や貿易も破綻してしまうため、各種方面への賠償金も生じるだろう。
パーシー伯爵家は社交界での信用を失うことになり、クレインは責任をとって廃嫡されるに違いない。
その責任はもちろん、キャシーの実家であるブラウン男爵家にもおよぶことになる。
この甘ったれた男と、脳みそが砂糖菓子でできているような女が、平民落ちしてまともにやっていけるはずがない。
自分達の破滅に気がつかず目の前でイチャイチャと身体を寄せ合う2人の男女に、私はお腹を撫でながら溜息をついた。
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