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魔女(1)
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「あ・・・う・・・生きてる?」
暗い崖下に横たわりながら、マリアンヌは重い瞼をゆっくりと開いた。
ずいぶんと長い間、気を失っていたような気がする。いつの間にか日は暮れていて、辺りは夕闇に覆われていた。
「ここは・・・そうです。私は騎士に襲われて崖に落ちて・・・」
ギシギシと痛む身体を起こして周りを確認する。
崖下には森が広がっていて、どうやらマリアンヌは丈の低い木が生い茂っている部分に落ちたようだ。
木がクッションとなったおかげで、辛くも転落死を免れることができた。
「レイフェルトさま・・・」
先ほどの騎士との会話を思い出すだけで、マリアンヌの目に悔し涙が浮かぶ。
自分はこれまで、聖女として、次期王妃として、国とレイフェルトのために尽くしてきた。
にもかかわらず、王国はあっさりとマリアンヌを捨てて新しい聖女を選び、レイフェルトは自分のことを殺害しようとした。
生来、大人しい気質のマリアンヌであったが、この仕打ちはとてもではないが許せるものではない。
ふつふつと怒りが湧いてきて、知らず知らずのうちに地面の草を握り締めていた。
「許せない・・・このまま死ぬなんて、絶対に認めない・・・!」
全てを奪われたまま、崖下でひっそりと死んでいく。
そして、自分をこんな苦境に追いやった人間は、マリアンヌの気持ちなど知らずに笑って生きていくのだろう。
そんな現実を受け入れられるわけがなかった。
「私は、死にません。絶対に生き残る・・・!」
痛みと疲労に侵された身体を無理やりに起こして、マリアンヌは一歩、二歩と歩き始めた。
マリアンヌの命を狙った近衛騎士は、はたして崖下まで彼女の死を確認に来るだろうか?
来るかもしれない、来ないかもしれない。
楽観することなどできない。すぐにでも、この場所を離れなければ。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
マリアンヌは荒い息をつきながら、夕闇の森を進んでいく。
今はうっすらと木の輪郭が見えているが、あと半時もしないうちに森は完全な暗闇に支配されるだろう。
それまで、せめて寝床にできる場所を見つけなければ。
「痛い・・・足が・・・」
崖から落ちたときにケガをしてしまったらしい。足だけでなく全身がズキズキと痛んでいた。
侯爵令嬢として、聖女として、多くの人に守られて生きてきたマリアンヌにとって、こんなふうにケガをすることも、森の中を独りで歩くことも初めてのことだった。
騎士に襲われたときとは別種の恐怖が押し寄せてきて、胸がつぶれそうな心境だった。
「だけど・・・諦めてなんて、あげませんから・・・!」
マリアンヌを動かしているのは自分を捨てた者達への憎悪であった。
かつて聖女と呼ばれた少女は、親しい者達への憎しみを糧として生にしがみついていた。
もしも、人間の意志に現実を変える力があるのであれば、マリアンヌの灼熱の憎悪は確実にレイフェルト達を焼き尽くすだろう。
「あ・・・」
しかし、現実は意志だけでは変わらない。
必死に足を動かすマリアンヌの前に、巨大な影が立ちふさがった。
「そんな・・・嘘でしょう?」
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!」
頭から黒い角を生やした巨大な熊が、マリアンヌを見下ろして高々と雄たけびを上げた。
暗い崖下に横たわりながら、マリアンヌは重い瞼をゆっくりと開いた。
ずいぶんと長い間、気を失っていたような気がする。いつの間にか日は暮れていて、辺りは夕闇に覆われていた。
「ここは・・・そうです。私は騎士に襲われて崖に落ちて・・・」
ギシギシと痛む身体を起こして周りを確認する。
崖下には森が広がっていて、どうやらマリアンヌは丈の低い木が生い茂っている部分に落ちたようだ。
木がクッションとなったおかげで、辛くも転落死を免れることができた。
「レイフェルトさま・・・」
先ほどの騎士との会話を思い出すだけで、マリアンヌの目に悔し涙が浮かぶ。
自分はこれまで、聖女として、次期王妃として、国とレイフェルトのために尽くしてきた。
にもかかわらず、王国はあっさりとマリアンヌを捨てて新しい聖女を選び、レイフェルトは自分のことを殺害しようとした。
生来、大人しい気質のマリアンヌであったが、この仕打ちはとてもではないが許せるものではない。
ふつふつと怒りが湧いてきて、知らず知らずのうちに地面の草を握り締めていた。
「許せない・・・このまま死ぬなんて、絶対に認めない・・・!」
全てを奪われたまま、崖下でひっそりと死んでいく。
そして、自分をこんな苦境に追いやった人間は、マリアンヌの気持ちなど知らずに笑って生きていくのだろう。
そんな現実を受け入れられるわけがなかった。
「私は、死にません。絶対に生き残る・・・!」
痛みと疲労に侵された身体を無理やりに起こして、マリアンヌは一歩、二歩と歩き始めた。
マリアンヌの命を狙った近衛騎士は、はたして崖下まで彼女の死を確認に来るだろうか?
来るかもしれない、来ないかもしれない。
楽観することなどできない。すぐにでも、この場所を離れなければ。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
マリアンヌは荒い息をつきながら、夕闇の森を進んでいく。
今はうっすらと木の輪郭が見えているが、あと半時もしないうちに森は完全な暗闇に支配されるだろう。
それまで、せめて寝床にできる場所を見つけなければ。
「痛い・・・足が・・・」
崖から落ちたときにケガをしてしまったらしい。足だけでなく全身がズキズキと痛んでいた。
侯爵令嬢として、聖女として、多くの人に守られて生きてきたマリアンヌにとって、こんなふうにケガをすることも、森の中を独りで歩くことも初めてのことだった。
騎士に襲われたときとは別種の恐怖が押し寄せてきて、胸がつぶれそうな心境だった。
「だけど・・・諦めてなんて、あげませんから・・・!」
マリアンヌを動かしているのは自分を捨てた者達への憎悪であった。
かつて聖女と呼ばれた少女は、親しい者達への憎しみを糧として生にしがみついていた。
もしも、人間の意志に現実を変える力があるのであれば、マリアンヌの灼熱の憎悪は確実にレイフェルト達を焼き尽くすだろう。
「あ・・・」
しかし、現実は意志だけでは変わらない。
必死に足を動かすマリアンヌの前に、巨大な影が立ちふさがった。
「そんな・・・嘘でしょう?」
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!」
頭から黒い角を生やした巨大な熊が、マリアンヌを見下ろして高々と雄たけびを上げた。
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