異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D

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第一章 日下部さん家の四姉妹

プロローグ

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 どうも。皆さん、はじめまして。
 僕の名前は八雲勇治。17歳の男子高校生だ。

 平凡な容姿。平凡な成績。
 趣味は読書……というかマンガの購読。特に少年誌系のマンガがお気に入り。
 部活には入っていない。目立った特技や才能らしきものもない。
 自他共に認めるモブキャラの僕だったが……つい最近、ちょっとした事件に巻き込まれることになったので報告させてもらいたい。

 自分に起こった出来事を簡単に説明させてもらうと――『異世界に召喚されて勇者になった件』という感じだろうか?

 ……
 …………
 うんうん、言いたいことはわかる。
 テンプレだよな。ありふれた話だよな。
 マンガやラノベ、アニメなどで使い古された設定で新鮮味に欠けているよね。

 僕もそう思う。
 我ながらありきたりな展開に巻き込まれてしまったものだと、呆れたくなる状況だと思っている。
 だけど……どうか勘違いをしないでもらいたい。
 僕がみんなに聞いて欲しいのは――異世界に召喚された僕が大冒険の末、仲間と絆を深めて魔王を打ち倒す冒険譚ではない。

 これから語るのは、勇者の冒険の後日譚。
 魔王を倒した僕が日本に帰還して、隣に住んでいる四姉妹と絆を深めるだけの物語。
 血のつながりはない、けれど実の家族以上に大切な彼女らとの交流を描いただけのお話なのだ。

 退屈だと思うが、どうか最後まで聞いて欲しい。
 優しくて、可愛くて、美人で、愉快な……日下部さん家の四姉妹の話を。


     △          △          △


「そろそろ死んどけええええええええええッ!!」

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 まばゆいばかりの光を放ちながら、聖剣が魔王の胸を貫いた。
 邪悪なる存在を打ち砕く力を持った剣に心臓を刺され、漆黒の服をまとった魔王が膝をつく。

「馬鹿な、まさか余が人間ごときに破れるなど……! 何故だ、あと少しで人類を滅ぼせたというのに……どうしてこんなことに……!」

 口からゴポリと血を吐きながら、魔王が怨嗟の声を上げる。

 勇者である僕が魔王と一騎打ちをはじめて、すでに1時間が経過していた。
 長い長い死闘にもとうとう終わりの時がやってきたようである。

「ハア、ハア……悪いね。僕は別に君に恨みとかはないんだけど、個人的な事情で倒させてもらうよ」

「個人的、だと……」

「ああ、そうさ。僕は君を倒して家に帰るんだ……ただ、それだけのために君を倒す。正義とか信念とかじゃない。君が僕に倒されたのはそれだけの理由なんだよ」

「ーーーー」

 魔王は口を開いて何事かを口にしようとする。
 怨嗟の恨み言か、それともみっともない命乞いか。
 はっきりと声にならなかった言葉は僕の耳に届くことなく、魔王の身体は地面に叩きつけられた陶器人形のように粉々に砕け散った。

「……終わった。とうとう終わった」

 激しい疲労から仰向けに倒れる。

 僕の完全勝利だ。
 魔王の城。玉座の間の天井を見上げ、僕は安堵の溜息をついた。

 魔王が倒されれば、この世界を覆っていた魔族の脅威も消えることになる。
 僕を魔王のもとに送り出すために遠くで戦っている仲間達も、僕を召喚した王国の人々も、みんなが救われることになるだろう。
 この世界に召喚されてもう5年になるが……僕はとうとうやり遂げたのだ。

「ん……?」

 四肢を投げ出して倒れた僕の身体を柔らかな光が包み込む。
 慌てて身体を起こすと……気がつけば魔王城が消え失せており、周囲360度を雲のような白いモヤで覆われていた。
 驚きはしない。この場所にやってくるのはこれが2度目なのだから。

「ここに来たってことは、もしかして……」

「はい、よくぞやり遂げてくれました。八雲勇治さん」

 目の前に金色の髪をなびかせた女性が現れる。
 ミロのヴィーナスのように完成された美貌。薄手の衣に包まれた豊満なスタイルはひどく目を惹きつけるものでありながら、邪な欲望を抱くことすらためらう清浄さをまとっている。

「この世界に呼ばれたとき以来ですか、女神様?」

 この完璧な美女こそが、僕を異世界に召喚した女神である。
 女神はゆっくりと頷いて、慈愛に満ちた微笑みをこちらに向けてきた。

「貴方のおかげでこの世界は救われました。偉大なる勇者に最大の感謝を捧げます」

「それはどうも。それで……女神様が来てくれたということは、僕は元の世界に帰れるんですよね?」

 単刀直入。
 余計なことは何も言わずに、1番大事なことを尋ねた。

 僕はこの世界にやって来て勇者になったわけだが……それは決して、自分で納得したことではない。
 多くのライトノベルの主人公がそうであるように、自分の意思とは無関係にこの世界に召喚されて断ることも許されずに勇者になったのだ。
 目の前の女神様とは、無事に魔王を倒せたら元の世界に帰してもらえるように約束している。
 魔王は倒した。今度はあっちが約束を果たす番だ。

「もちろんです。神として約束を違えることはいたしません。ですが……」

 女神は眉尻を下げて、どこか悲しそうな顔になる。

「本当に元の世界に帰ってもよろしいのですか? 貴方は魔王を倒した英雄です。多くの人々が貴方の功績をたたえることでしょう。あらゆる富を得て、望む地位に就くことができるチャンスがあるのです。その機会をふいにして、元の世界に帰っても良いのですか?」

「ああ、もちろんだ。仲間との別れは戦いの前に済ませてあるし、この世界に未練なんてないよ」

 僕は間髪入れずに断言した。
 別にこの世界に嫌な思い出があるわけではない。無理やり召喚されたことには思うところがあるが、この世界の人間が魔族に追い詰められていたことを考えると仕方がないことだと思っている。
 異世界召喚もので流行の展開として、召喚された勇者が現地民に迫害されたり差別されたりするパターンもあるが……僕の場合はそんなことはなかった。この世界の人々は、勇者として召喚された僕に相応の敬意をもって接してくれた。

 しかし……それが元の世界への帰還をためらう理由にはならない。
 無理やりに召喚されて、魔王を倒さなくては元の世界に帰れないと突きつけられたからやむなく勇者になっただけど、『帰りたい』という意思は最初から変わっていなかった。

「けれど、貴方は元の世界に血縁者がいないはずです。家族もいない世界に帰る理由があるのでしょうか?」

「む……」

 なおも女神が食い下がってきて、僕はわずかに表情をしかめた。
 僕が勇者に選ばれた最大の理由は、目の前にいる女神の『加護』と相性が良かったこと。
 だが……別の理由として、僕が元の世界で天涯孤独の身の上で、肉親が誰もいないことがあった。

 僕は小学校の頃に両親を亡くしている。
 親戚もおらず、年の離れた兄と2人きりで暮らしてきたのだが……そんな兄も僕が召喚される1年前に事故で命を落としていた。

 僕が死んでも悲しむ家族はいない。
 非常に腹立たしい理由であるが……それが勇者に選ばれた理由だったりする。

「……いいや、帰るよ。断固として帰還を希望する」

 内心でちょっとだけイラっとしつつ、僕は譲ることなく胸を張る。

 この世界が嫌いというわけではないが……別に好きでもない。
 食べ物は確実に日本のほうが美味しい。マンガやアニメといった娯楽については比べるまでもない。
 この世界に骨を埋める気はない。絶対に日本に帰ってやる。

「それに……家族だったらちゃんといるよ。血のつながりはないけど、心から大切だと断言できる人達がいる」

「…………」

彼女達・・・を放っておくことなんて出来ない。これまでお世話になった恩は返さなくちゃいけないし、これから先も見守ってあげたいとも思っている。だから……僕は帰るんだ。元の世界に」

「……そうですか。そういうことでしたら仕方がありませんね」

 女神様は肩を落として、残念そうに首を振った。

「出来ることならこの世界で結婚してもらい、勇者の子孫を作って欲しかったのですが……そこまで意志が固いとなれば是非もありません。これから貴方を元の世界に送らせていただきます」

「ああ、よろしく頼むよ。確認だけど……ちゃんと召喚された時間に帰れるんだよね? あっちの世界でも5年が経ってるとかは勘弁して欲しいんだけど?」

「もちろんですよ。そういう約束ですから……間違いなく、召喚された場所と時間に送らせてもらいます。ちゃんと肉体も若返らせますので、ご心配なく」

「うん、それを聞いて安心したよ」

「それと……貴方が所有しているスキルや加護もそのままにしておきます。アイテムボックスに入っているお金や武器なども報酬として持ち帰っていただいて構いません。成功報酬として王国から渡されるはずだった金貨も、そちらの通貨として受け取れるようにしておきます。後で確認してください」

「おおっ、それは嬉しいな! 助かるよ!」

 どうやら、この世界で過ごした日々。過酷な戦いは無駄ではなかったらしい。
 魔王討伐の報酬として、僕は王国から一生遊んで暮らせる額を受け取る約束になっていた。
 両親や兄の遺産があり、あちらの世界でも経済的に困っているわけではなかったが……お金はいくらあっても邪魔にならない。生活に余裕ができたのは素直にありがたいことである。

「至れり尽くせりだな。ありがとうよ」

「御礼を言うのはこちらです。貴方の意思を無視して召喚してしまったことに謝罪を。そして、もう1度心からの感謝を捧げます」

 足元に魔法陣のような図形が現れた。
 どうやら、帰還の時がやってきたらしい。目の前の女神の姿が薄れていく。
 意思を無視して召喚されたことには恨みもあったが……少なくとも、この女神は僕に対して嘘はつかなかった。
 世界を救うためにやむを得ないことだったことも理解している。ゆえに、僕はぺこりと頭を下げる。

「さようなら、どうかこの世界に永遠の平和があらんことを」

「貴方にも祝福を。どうかこれからの人生が幸多いものでありますように」

 魔法陣がいっそう輝き出した。
 虹彩に焼きつくような光を最後に、女神の姿が消え失せる。

「っ……!」

 まぶしさのあまり目を閉じた。
 次に瞳を開いた僕が目にしたものは……
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