賢者から怪盗に転職しました

レオナール D

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第1話 怪盗の流儀

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「怪盗シャドウだ! 誰か、侵入者だ! 出会え、出会え!」

「であえであえ、って時代劇じゃないんだからさ」

 シャドウが呆れたように言って、肩をすくめる。

「何をしている! どうして誰も来ない!?」

 侯爵が必死に叫んでいるが、警備の人間は誰一人として現れなかった。屋敷の中は静まり返っており、まるで自分達以外に誰もいないようだった。

「第4階梯魔法【音波遮断サイレントフィールド】。この部屋の外と中とで音の伝達を遮断した。要するに、いくら助けを呼んでも誰も来ないってことだ」

「ば、馬鹿な! 誰か、誰か助けてくれええええ!!」

 侯爵が這うようにして部屋の入り口まで行き、ドンドンと扉をたたく。しかし、魔法によって音声は消されているため扉をたたく音も外に漏れていない。
 ちなみに、事前にシャドウは鍵にも細工をしており、内側から扉を開けることもできないようになっている。

「やれやれ、そんなに騒ぐなよ。俺は殺し屋じゃないんだから、命を奪ったりはしない」

「ほ、本当か!?」

「本当、本当。用事が終わったらすぐに帰るよ」

 貴族の威厳もなく涙と鼻水をたれ流している男に引きながらも、シャドウははっきりと頷いた。

「予告状を出しただろう? 俺の狙いはこれだけだ」

「そ、それは!」

 いつの間にかシャドウの手に聖竜の瞳が握られていた。先ほどまでこの部屋の内部を映し出していた宝珠は、また元通りの青い石に戻っている。

「か、返せ! それは侯爵家の秘宝だぞ!?」

「違うだろう? これは勇者が魔王討伐を成し遂げたことで流出した魔国の秘宝。人間の手にはあまるオーバーアイテムだ」

 勇者が魔王を打ち倒し、世界から魔族の脅威は消え去った。
 しかし、魔王討伐の混乱に乗じて魔国から持ち出された『オーバーアイテム』と呼ばれるマジックアイテムが、世界中で混乱を引き起こしていた。

「これは俺がもらい受ける。それでは良い夜を、侯爵殿」

「ま、待て! 待ってくれ! 私にはそれがないと・・・」

 侯爵は『聖竜の瞳』を使って多くの人間の弱みを握り、権力をつけてきた。当然ながら侯爵を恨む人間は大勢いて、暗殺者を差し向けられるときもあった。
 そんな悪意から侯爵を守ってくれたのも『聖竜の瞳』である。自分に敵意を持つ者の場所や姿を映し出すことにより、何度も危機を脱してきた。
 今更そのマジックアイテムを奪われたら、自分のことを恨んでいる者達に抵抗できずに報復を受けることになってしまう。

 侯爵は必死に追いすがるが、シャドウは目もくれずに窓を開いてベランダに出てしまう。

「ん?」

 シャドウがベランダから外を見下ろすと、邸宅の外で警備をしているマティルダの姿があった。金髪の美しい騎士は、屋敷の異変に気がつくことなく警備を続けている。

「へえ、こいつは美しくて胸も大きいお嬢さんだ。仕事熱心な美女にご褒美を贈ってやらないとな」

 シャドウは新たな魔法を発動させる。
 第4階梯魔法【旋風嵐舞ウインドストーム
 部屋の中で嵐のような風が暴れ回り、家具を巻き上げ、侯爵邸の壁を破壊する。

「うおおおおおおおおおっ!?」

 侯爵は必死に柱に縋りつき、吹き飛ばされないように耐え続ける。万が一、手を放してしまえば、風に吹き飛ばされて壊れた壁から外へと放り出されてしまうだろう。
 努力の甲斐があって、侯爵は風が止むまで耐えることに成功した。

「ひ、ひどい目に遭った・・・」

 髪も服もボロボロになりながら、侯爵はなんとか身体を起こした。部屋を見回すが、すでにそこに銀仮面の怪盗の姿はない。

「く、くそっ! 怪盗シャドウめ、私にこんなことをしてタダで済むと思うなよ! 何とかして宝珠を取り返して・・・ん?」

 ふと、侯爵は部屋の奥を見た。隠し金庫が取り付けられた壁が崩れ落ちていて、金庫が床へと転がり落ちている。中に入っていた書類も風でどこかに飛ばされており、部屋のどこにも見あたらない。

「あ、あああああ・・・」

 消えた書類は、『聖竜の瞳』で手に入れた有力者の弱みの証拠である。侯爵にとっては生命線とも呼べるもの。
 それが今、全て消え失せていた。

「あああああああああああああああっ!」

 豚のように肥えた身体から絶叫がほとばしった。
 騒ぎに気づいて駆けつけた使用人達が見たのは、床に座り込んで廃人のようになったトラヤヌス侯爵の姿だった。
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