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夢からめざめて
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目を開けると、雲ひとつない青空が広がっていた。
遠くには、空とは違う青の山々が幾重にも重なっていて、そこからは、こちらをまたいで遥か彼方へと虹が伸びている。
柔らかな日差しに萌える草木の暖かさに身を委ね、目を閉じて深呼吸をすると、気持ちがいい。
そして、再び目を開ける。いつもと何も変わりのない青い空。そして、七色の虹。
「もうそろそろ起きるか…」
彼女はそう呟くと、反動をつけて起き上がる。それからその場に立ち上がると眠気を覚ますために背伸びをした。
艶のある紺色の髪には一房の金色が流れていて、陽の光を反射している。
付いた草を手で払い、肩のあたりで切り揃えられた髪を整える。
「…あれ?」
彼女はいつものように近くの森のお気に入りの場所で昼寝をしていたはずだった。
「ここどこ?」
しかし、ここはお気に入りの場所ではなかった。
森の風景や遠くの青い山々は同じような気がするが、時折吹く風には潮の香り。微かに聞こえる波の音--
彼女の街に海はない。
「どうしよう…あたし、方向音痴なのに…」
落ち着かない様子で辺りをうろうろうろうろうろうろ…。
「あれ?」
ふと足元に視線を落とすと、小さな光の玉がふわふわといくつか漂っている。
「ダイヤモンドダスト?」
ーーダイヤモンドダストーー
それは、空に輝く虹のかけらで、言い伝えにある虹を司る精霊が通った跡。つまり、精霊の足あとであると伝えられている。
しかし、精霊の足あとだと言われるものの、各地でよく見られることから、実際のところ、その正体はわかっていない。
「よし!」
このままでは現在地の手がかりもないので、彼女はダイヤモンドダストを辿っていくことにした。
***
目を開けると、雲ひとつない青空が広がっている--と思う。
実際は目を閉じているが、柔らかな日差しに萌える草木の暖かさから、澄んだ青空だということが手に取るようにわかる。
私はなぜ眠っているのだろう。つい今しがたまで何かをしていたはずなのに。
大切な何かを、守っていたはずなのに--
ああ、暖かい。このままずっとこのまどろみの中にいることができたら、どんなに心地のよいことだろう。
どうか私を起こさないで。目が覚めたら、夢は夢になってしまうから。
それなのに、誰かが私を呼んでいる。
私を目覚めさせないで。大切なあなたを忘れてしまうから。
***
「…え?」
しばらく歩いた彼女は、不思議な光景に出会った。
地面につかんばかりに長くまっすぐで白銀に輝く髪。中性的な顔立ちにさらに磨きをかけるように輝く金色のティアラ。白を基調とした、どこか異国の高貴な雰囲気を醸し出す服と外套には、所々藍色と金色の装飾が眩しい。
人が、眠っている。
「眠っているの…?」
木にもたれかかって眠る身体の周りには無数のダイヤモンドダスト。よく見ると、小さな光の玉が集まって身体自体が光っているように見える。
その光景に見惚れてゆっくりと歩み寄ろうとすると
--ズキッ
「っつ!」
突然頭に痛みが走り、たまらずしゃがみこむ。こめかみ辺りを抑えて荒い息をたてる。
ふと、頭の中で知らない声が聞こえた。
--ソラ。
あたしの名前。誰かがあたしを呼んでいる。
--私を目覚めさせないで。
誰なの。どういうこと?
「誰…なの…」
気がつくと痛みは嘘のように消えていた。しかし、身体中に汗をかいているのが、夢ではない証拠。
ソラは汗を拭って顔を上げた。同時に、木にもたれた白銀の"彼"が目を覚ました。
***
目を開けると、雲ひとつない青空が広がっていた。そして七色に輝く虹。
眠りから覚めた瞳はまだはっきりしない。
ゆっくりと見渡すと、片隅に少女が見えた。翡翠色の瞳が美しい。
「…美しい」
「え?え!?」
ずざざっ!
少女は顔を赤くして後退りをした。
「な、何!?いきなり!!」
「…え、あ…」
大きい声に目が醒める。彼はポリポリと指で頬をかいてから
「あなたの瞳の色が美しい…。」
優しい藍色の瞳で彼女を見つめ、ゆっくり言う。
その声は、中性的なその顔立ちからは想像できないほど低くて、体の奥まで響く。
「…!いやいや、あの!突然そんなこと言われても!褒めたって何も出ないけど!」
ソラはさらに顔を真っ赤にしながら、早口でまくしたてる。
「…そういうわけでは…」
「ところでっ、そ、その光は?」
「え?」
そう言った瞬間。はらはらとダイヤモンドダストは光を失っていく。
「消えちゃった…」
「仕方ないですよ。これは、虹のかけらが見せた夢、とも言われていますから。」
ダイヤモンドダストは、たくさんの謎に包まれている。
彼はなぜか悲しげな瞳で
「夢と同じで儚いものです。」
独り言のように呟いた。
「ま、夢の話はよしとしましょう。」
うってかわって、ニコッと子どもをあやすような笑顔でソラに尋ねる。
「ここはどこです?私は誰?」
「台詞がベタすぎる!」
記憶喪失間違いなしの台詞だったので思わずつっこんでしまった。
「あ、いや。えっと…場所は不明。あなたは…」
----。
ソラの頭の中で再び声が聞こえた。
「あなたは、アーサー。え?」
知らない名前を口走っていた。
「…アーサー…?」
「いや、ごめんなさい!違うんです!口が勝手に!いつも変だと言われるけど、なんだか今日は、特に変!」
頭をぐしゃぐしゃに掻きながら慌てまくる。
「アーサー、か。いい名前ですね。それに、なんだか懐かしい気がします。あなたの名前は?」
「…え?あ、あたしはソラ。ソラ=ルスタン。」
彼女が答えると、アーサーは笑顔で言った。
「私はアーサー。素敵な名前をありがとう。ソラ。」
ソラは、再び顔を赤くしてうなずく。
何故かわからないけど、すっごく恥ずかしい…!
「無理を承知で言いますが、一つだけお願いを聞いていただけますか?」
彼はゆっくりと立ち上がりソラの前に片膝をつく。
翡翠色と藍色の瞳が並んだ。
「私の記憶を一緒に探してください。」
遠くには、空とは違う青の山々が幾重にも重なっていて、そこからは、こちらをまたいで遥か彼方へと虹が伸びている。
柔らかな日差しに萌える草木の暖かさに身を委ね、目を閉じて深呼吸をすると、気持ちがいい。
そして、再び目を開ける。いつもと何も変わりのない青い空。そして、七色の虹。
「もうそろそろ起きるか…」
彼女はそう呟くと、反動をつけて起き上がる。それからその場に立ち上がると眠気を覚ますために背伸びをした。
艶のある紺色の髪には一房の金色が流れていて、陽の光を反射している。
付いた草を手で払い、肩のあたりで切り揃えられた髪を整える。
「…あれ?」
彼女はいつものように近くの森のお気に入りの場所で昼寝をしていたはずだった。
「ここどこ?」
しかし、ここはお気に入りの場所ではなかった。
森の風景や遠くの青い山々は同じような気がするが、時折吹く風には潮の香り。微かに聞こえる波の音--
彼女の街に海はない。
「どうしよう…あたし、方向音痴なのに…」
落ち着かない様子で辺りをうろうろうろうろうろうろ…。
「あれ?」
ふと足元に視線を落とすと、小さな光の玉がふわふわといくつか漂っている。
「ダイヤモンドダスト?」
ーーダイヤモンドダストーー
それは、空に輝く虹のかけらで、言い伝えにある虹を司る精霊が通った跡。つまり、精霊の足あとであると伝えられている。
しかし、精霊の足あとだと言われるものの、各地でよく見られることから、実際のところ、その正体はわかっていない。
「よし!」
このままでは現在地の手がかりもないので、彼女はダイヤモンドダストを辿っていくことにした。
***
目を開けると、雲ひとつない青空が広がっている--と思う。
実際は目を閉じているが、柔らかな日差しに萌える草木の暖かさから、澄んだ青空だということが手に取るようにわかる。
私はなぜ眠っているのだろう。つい今しがたまで何かをしていたはずなのに。
大切な何かを、守っていたはずなのに--
ああ、暖かい。このままずっとこのまどろみの中にいることができたら、どんなに心地のよいことだろう。
どうか私を起こさないで。目が覚めたら、夢は夢になってしまうから。
それなのに、誰かが私を呼んでいる。
私を目覚めさせないで。大切なあなたを忘れてしまうから。
***
「…え?」
しばらく歩いた彼女は、不思議な光景に出会った。
地面につかんばかりに長くまっすぐで白銀に輝く髪。中性的な顔立ちにさらに磨きをかけるように輝く金色のティアラ。白を基調とした、どこか異国の高貴な雰囲気を醸し出す服と外套には、所々藍色と金色の装飾が眩しい。
人が、眠っている。
「眠っているの…?」
木にもたれかかって眠る身体の周りには無数のダイヤモンドダスト。よく見ると、小さな光の玉が集まって身体自体が光っているように見える。
その光景に見惚れてゆっくりと歩み寄ろうとすると
--ズキッ
「っつ!」
突然頭に痛みが走り、たまらずしゃがみこむ。こめかみ辺りを抑えて荒い息をたてる。
ふと、頭の中で知らない声が聞こえた。
--ソラ。
あたしの名前。誰かがあたしを呼んでいる。
--私を目覚めさせないで。
誰なの。どういうこと?
「誰…なの…」
気がつくと痛みは嘘のように消えていた。しかし、身体中に汗をかいているのが、夢ではない証拠。
ソラは汗を拭って顔を上げた。同時に、木にもたれた白銀の"彼"が目を覚ました。
***
目を開けると、雲ひとつない青空が広がっていた。そして七色に輝く虹。
眠りから覚めた瞳はまだはっきりしない。
ゆっくりと見渡すと、片隅に少女が見えた。翡翠色の瞳が美しい。
「…美しい」
「え?え!?」
ずざざっ!
少女は顔を赤くして後退りをした。
「な、何!?いきなり!!」
「…え、あ…」
大きい声に目が醒める。彼はポリポリと指で頬をかいてから
「あなたの瞳の色が美しい…。」
優しい藍色の瞳で彼女を見つめ、ゆっくり言う。
その声は、中性的なその顔立ちからは想像できないほど低くて、体の奥まで響く。
「…!いやいや、あの!突然そんなこと言われても!褒めたって何も出ないけど!」
ソラはさらに顔を真っ赤にしながら、早口でまくしたてる。
「…そういうわけでは…」
「ところでっ、そ、その光は?」
「え?」
そう言った瞬間。はらはらとダイヤモンドダストは光を失っていく。
「消えちゃった…」
「仕方ないですよ。これは、虹のかけらが見せた夢、とも言われていますから。」
ダイヤモンドダストは、たくさんの謎に包まれている。
彼はなぜか悲しげな瞳で
「夢と同じで儚いものです。」
独り言のように呟いた。
「ま、夢の話はよしとしましょう。」
うってかわって、ニコッと子どもをあやすような笑顔でソラに尋ねる。
「ここはどこです?私は誰?」
「台詞がベタすぎる!」
記憶喪失間違いなしの台詞だったので思わずつっこんでしまった。
「あ、いや。えっと…場所は不明。あなたは…」
----。
ソラの頭の中で再び声が聞こえた。
「あなたは、アーサー。え?」
知らない名前を口走っていた。
「…アーサー…?」
「いや、ごめんなさい!違うんです!口が勝手に!いつも変だと言われるけど、なんだか今日は、特に変!」
頭をぐしゃぐしゃに掻きながら慌てまくる。
「アーサー、か。いい名前ですね。それに、なんだか懐かしい気がします。あなたの名前は?」
「…え?あ、あたしはソラ。ソラ=ルスタン。」
彼女が答えると、アーサーは笑顔で言った。
「私はアーサー。素敵な名前をありがとう。ソラ。」
ソラは、再び顔を赤くしてうなずく。
何故かわからないけど、すっごく恥ずかしい…!
「無理を承知で言いますが、一つだけお願いを聞いていただけますか?」
彼はゆっくりと立ち上がりソラの前に片膝をつく。
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