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第二章 アイに集っていく
便利屋『タロン』
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まさか、気分転換がてらに遠くの商業施設に漁りに来たら『便利屋』と出会ってしまうなんて……とんだ災難。
しかもアイを連れている今、非常にまずい気がする。
「おい聞いてんのかァ?縄張りだって言ってるんだよ」
ガスマスクの男は少し苛ついた様子を見せる。クソ、アイツの横をまっすぐ通って右に曲がれば来るときに使った階段があるのに…………。このままじゃ進めないじゃん……。
しかもあの男は武器っぽい物を手にしてるし、便利屋とも名乗ってた。下手に刺激しない方が良い。
「あの方が、便利屋…………」
ウチの横に居るアイが小さく呟く。そう、アレが便利屋。金などの利益の為なら何だってやる、イカレた連中。
アイにだけは会わせたくなかった。ウチら二人の少し前に居るアスカが何とかしてくれないかな……。さっきからずっと黙ってるけど、アスカの背中しかウチには見えない。どんな顔を今、しているのだろうか。
「ん?よく見ればアスカのご令嬢じゃないか」
男がまた口を開く。アスカの事を知ってる??便利屋独自の情報網から知ったのか。
「そしてアスカ嬢が居るってことは、その後ろにいる青髪ちゃんがリアラかァ?ハッカーって聞くけど……へぇ、初めてお目にかかるねェ」
え!?ウチの事も知ってるの!?
「じゃあ、そのリアラの横に居るのは…………誰だァ?下流の人間じゃなさそうだが」
「こ、この子は……そう!!新入りで…………」
思わず返答してしまう。アスカはまだ黙ったままだし、もしかしたら答えない方が良かったとか??とにかくアイは人間だと思われてるみたいだけど、このままで良いの……?
分からない。分からない。どうする、どうする…………。
「新入りねェ。アスカ嬢、あんたの事は俺らも知ってる。元々上流だったのに堕ちてきたって話だ。そんな世間知らずのアンタだから、チャンスをやる。
ここは俺ら、便利屋タロンの新しい漁りの場だ。ここ下流では物資はとても貴重で、他人の漁り場には出来るだけ干渉しない。そんな暗黙の了解を知らないって可能性を危惧して、チャンスをやるんだ。
ここに今漁ってた物、全部置いていけよォ。そうすれば見逃す」
「な…………!!」
なんて提案をしてくるの。確かに今漁った物を置いて助かるのであれば、全然安い。でも、そうしてくれる確証が無い。下流の世界で一番信用出来ないのは、『口約束』だ。
「なァ?アスカ嬢さん達よォ……早く答えろよ」
ガスマスクの男は手に持っている凶器のグリップ部のスイッチをカチッと入れる。金属バットの先端部に取り付けられた円盤ノコギリがみるみる動き出し、加速する。キィィィィインと、耳障りな音を奏でながら。
まずい。こっちはロクな武器も無いってのに…………どうすれば良いの?
ウチが顔を真っ青にして頭を抱え、アイに大丈夫ですか?と言われている最中……突然アスカが男に向かって啖呵を切った。
「…………そのアスカ『嬢』って呼び方、止めなさい。今の私は、ただのアスカ。昔の良家なんて捨てた。一人の女でしかないのよ」
「へェ……」
「それと、もう一つ」
「なんだァ?」
「成果は置いていかない。これは私にとって、私たちにとって大事な食料だから。見て分かるように、かわいい新入りが増えたのよ」
まだ男の武器が駆動する音が聞こえる。『置いていかない』ってことは、この人と…………戦うってことだよね?
「ヘヘッ」
乾いた笑いが漏れる、男のガスマスクの中から漏れ出す。今、男はどんな顔をしているんだろう。
「なら、殺す」
次の瞬間。ドッ、と男がウチら目掛けて駆け出す。ひぃーー!!!やっぱ来たァ!!?!?凄い速さでこっちに!!!!
「リアラッ!!!!アイを連れて後ろに!!!!」
アスカが大声で叫び、コンバットナイフを腰のホルダーから取り出し男の方へ構える。
そのアスカの声を聴いてウチはすぐにアイの手を握って、一緒に後ずさる。
「ア、アスカ……」
「アイちゃん!!もっと離れないと!!」
アスカに駆け寄ろうとしていくアイを抑えていると、男とアスカ――互いが互いの交戦距離に入っていた。
「オラァ!!!!」
ブン、と音が鳴る、空を切る音。アスカに接近した男がバットをアスカ目掛けて振り下ろす。それをアスカはコンバットナイフで受け流し、左へ避けた。
「あぁン???お前が一番動けないと思ったが、違うってことかァ?」
「答えるつもりは、無いッ!!!!」
金属音、ナイフの一撃を男がバットで防いだのだ。アスカは結構戦える人って思ってたけど、やっぱり漁り屋じゃない――――――便利屋の動きは、想像以上に速過ぎる。例えるなら、アスカは自転車だけど男は列車のような――――そこまでの差があった。
そしてもう、ウチの目には二人の動きが追いきれてない。この暗く狭いビルの中を駆け回り、埃が舞い上がり、度々金属音が鳴り響き、時折火花も散らす。
音だけ、音だけしか追えてないけど、音だけでもアスカが劣勢なのは理解できる。息遣いだ。
男はガスマスクまで付けて、明らかに呼吸しづらいだろうに未だに息切れの様子が無い。それに比べ、アスカは少しづつ息遣いが大きくなっている。このまま戦い続ければ、いずれ殺されてしまう。
そうなればウチも、アイも、どうなるか…………。
「武器を変えた方が良いかもしれません……」
「え?アイちゃん?」
突然アイが言い出す。確かにそうかもしれないけど――――
「アイちゃんって戦いって分かるの?」
「い、いえ……。ただ、武器の長さに差があるので相手の懐に潜り込まないといけないアスカと、長いバットを振り回しているあの人とでは、攻撃に消費する体力に違いがあるのではと…………」
「バットとタメを張れる交戦距離の武器、こんな場所で手に入れられそうなのは……鉄パイプか」
もう迷っている暇はない。幸い、あのガスマスク男以外に便利屋と思われる人間は居ない。なら、今のうちにアスカの代わりの武器を探してくるしか無い!!!!!
「アイちゃん!!!この階層で適度な長さの鉄パイプ、もしくは似たような耐久性と長さを持つ武器を探してくれる?お願い!!!!」
「わ、分かりました」
アイはこっそりとウチの後ろへ駆け出し、アスカとは反対方向へ。後は、なんとか間に合ってくれることを願うしか――――――
◇◇◇
何度も響く、金属と金属のぶつかり合う不愉快な音。もう離れていても聞こえるアスカの乱れた呼吸。武器同士が衝突し、火花が散る一瞬にアスカの顔が見えたがもうかなり疲弊しているように見える。離れて見てるだけのウチは、ただただ、アイが間に合うことを願うしかない。
「そろそろお疲れかァ!?」
「クッ!!そういうあなたも疲れてるんじゃないの?」
「ハハッ!!舐めて貰っちゃあ、困るねェ」
そう言うと男は今までのバットのリーチに頼った動きから急に変え、アスカとの間合いを詰める。そして不意を突かれノーガードだったアスカの脇腹に、蹴りを…………。
瞬間、鈍い音が聞こえる。アスカは今までの俊敏な動きを止め、脇腹を抱えて体勢を崩してしまう。
「グハッ…………」
「おいおい、隙だらけじゃねぇかよォ」
「な、なに!?」
「アスカ!!!避けて!!!」
そんなウチの声も間に合わず、アスカは男に腹を殴られてしまう。彼の右手がアスカのお腹に、ギリリと食い込む。もう見てる側も痛々しくて目を向けられない。そしてアスカは、男の目の前で膝をついてしまった。
ごめん、アスカ。ウチらがもっと戦えていたら…………ウチがここを提案しなければ…………もっと良い結果が待ってたかもしれないのに。
「う、うう……」
「もう決着かなァ。せっかくだ、アスカさんよ。お前に聞きたいことがある」
「なに…………?」
「ラボラトリーの地下からタワーに向けて運送されていた『ブツ』を盗ったのは、お前らだろ」
息を呑む。それは事実だ。まさか、あの情報を便利屋の連中も嗅ぎつけてたの…………?
「何が、入ってたんだァ?ああ!?」
「それを知って、どうするの……」
「俺の、俺たちのボスの読みだとその『ブツ』はとてつもなく重要なんだとよ。ブツの正体を把握次第、お前らの家を探し、奪い取る。元々俺たちも狙ってたんだけどよ、流石にあの得体のしれない研究施設のラボラトリーからタワーに極秘の地下通路で納品とか、危ない匂いしかしないから手が出せなかったんだよ。
だがそうして迷っている間に『ブツ』は運ばれ、お前らっていう命知らずに先に取られちまったんだ」
そうだ。あの奪取の判断はウチがしたけど、我ながら九割ほど賭けの博打だったし命知らずとか言われてもおかしくない。
何か、今の生活を大きく変えるお宝なんじゃないかと思って実行したけど結果はアイという仲間が増えただけだった。
あの男の言い分は正しい。あんな地下通路、ハッカーのウチが居たから場所を把握で出来たけど、そうでないならまず普通は知る事のない存在。そんなところをわざわざ使うんだからそりゃ重要なハズだ。『都市』にとっても。
最悪、『腕』との遭遇もありえた。もし、そうなっていたらウチらはもうこの世には居ないだろう。
というか、あんまり掘り下げてなかったけど…………。
アイは、あの都市にとって――――いや『市長』にとっての重要な存在だったはず。そしてその正体がアイ、最新型AIを積んだ人間に瓜二つのアンドロイド。
一体、アイのどういったところが『市長』にとって重要だったのか。
もしかしなくても、ウチらはアイの事を何にも知れていない…………?
「おい!答えろ!!ブツの正体は、何だァ!!?」
いつまでも男の質問に答えないウチらに痺れを切らし、男はあのバットの凶器を振り上げる。あの円盤ノコギリの駆動音を鳴らしながら。
しかし、ウチは気づいている。ウチの後ろからドタドタと足音が聞こえる事を。
それは、アイの足音だ!!!!ならば、一瞬だけ、一瞬だけでも男に隙を作る!!!
アスカは疲労困憊。けど、その目からは闘志の熱い炎はまだ消えていない!!!!!
「あ!!!!アレって!!!!!」
と、大声を出す。そして階段の方を指差しながら――――――――――――
「今流行りの、路上娼婦じゃない!?!?わぁ!!!」
「え、どこ?」
そんな意味不明なウチの狂言に惑わされ、男は一瞬奥の階段の方へ視線を向ける。幸いビルという閉鎖空間のおかげで音が反響し、アイの足音を階段からの足音だと錯覚させることが一瞬だけ出来たのだ。
この一瞬!!!この一瞬だ!!!!
「アイちゃん!!!投げて!!!!」
「は、はい!!!!」
もうアイがどんな物を持ってきたかも見てないが、ウチは信じる。アイを。
何かを投げた音を後方から聞き取ったウチは、振り返りアイが投げた棒状の物体を右手で受けとる。バシッと!!
それは、まさしく理想的な長さの鉄パイプだった。これなら長いリーチとノコギリを耐えれる防御が実現可能!!!!
「ナイスだよアイちゃん!!アスカ!!!受け取って!!!!」
そしてその鉄パイプをアスカへ投げる。男は既に先ほどのウチの発言が嘘であることに気づいたが――――――もう遅かった。
アスカはウチの投げた鉄パイプを片手でキャッチし、その瞬間に男の武器を持つ腕を強打したッ!!!!!
アイからウチへ、ウチからアスカへ、闘志のバトンは今渡された!!!
「ぐ、ぐああぁぁあ!!!!」
男は悲鳴を上げる。鉄パイプで殴られた際の音は凄まじく、骨の折れる音がハッキリと聞こえる程だった。
男は手にしていた武器を手放し、膝を着く。それをアスカは見逃さず、瞬時に彼の武器を蹴飛ばし遠くへ追いやった。
もう、あの男は武器を使えない。たとえ拾われたとしても、武器を握っていた腕――――つまり、利き腕はもう使い物にならない!!両腕で持ったとしても、利き腕の痛みによりまともに振るう事は出来ない!!!
まさに、つい先ほどまでのアスカとガスマスク男の構図が逆転する形となった。
「これが、仲間ってやつ?ハッ、最高ね……!!」
「糞がァ…………痛いじゃねぇか……」
「さぁ!大人しく縛られなさい!命を取るのは勘弁してあげるから!」
チェックメイトか。ドッと汗が噴き出る。緊張の糸が切れた感覚――――
「何か、おかしいです」
は、長くは続かなかった。
そう、アイのその一言を聞くまでは。
「なァ……?アスカよォ…………俺が、俺たちが、単独でこんな広いところを漁って物資を集めてるとか本気で思ってたのか?」
「なん、ですって――――――」
突如、ウチとアイの後方から大きな衝撃音。さっきまでアイがドタドタと走ってきたあの通路に、穴が開いた。
そして、人が飛び出した。スタッ、と綺麗に着地する。
女の子だ。
両腕に円形の盾を装備した女の子が、この階層に侵入してきた…………!?あの男の、仲間…………ッ!!!
「リズー!その子たち…………
殺して食べちゃっても良いんだよね!!!!」
彼女の赤目の三白眼と目が合った瞬間、思い知らされる。
何も事態は良い方向へと傾いていなかったのだと――――――――――――
しかもアイを連れている今、非常にまずい気がする。
「おい聞いてんのかァ?縄張りだって言ってるんだよ」
ガスマスクの男は少し苛ついた様子を見せる。クソ、アイツの横をまっすぐ通って右に曲がれば来るときに使った階段があるのに…………。このままじゃ進めないじゃん……。
しかもあの男は武器っぽい物を手にしてるし、便利屋とも名乗ってた。下手に刺激しない方が良い。
「あの方が、便利屋…………」
ウチの横に居るアイが小さく呟く。そう、アレが便利屋。金などの利益の為なら何だってやる、イカレた連中。
アイにだけは会わせたくなかった。ウチら二人の少し前に居るアスカが何とかしてくれないかな……。さっきからずっと黙ってるけど、アスカの背中しかウチには見えない。どんな顔を今、しているのだろうか。
「ん?よく見ればアスカのご令嬢じゃないか」
男がまた口を開く。アスカの事を知ってる??便利屋独自の情報網から知ったのか。
「そしてアスカ嬢が居るってことは、その後ろにいる青髪ちゃんがリアラかァ?ハッカーって聞くけど……へぇ、初めてお目にかかるねェ」
え!?ウチの事も知ってるの!?
「じゃあ、そのリアラの横に居るのは…………誰だァ?下流の人間じゃなさそうだが」
「こ、この子は……そう!!新入りで…………」
思わず返答してしまう。アスカはまだ黙ったままだし、もしかしたら答えない方が良かったとか??とにかくアイは人間だと思われてるみたいだけど、このままで良いの……?
分からない。分からない。どうする、どうする…………。
「新入りねェ。アスカ嬢、あんたの事は俺らも知ってる。元々上流だったのに堕ちてきたって話だ。そんな世間知らずのアンタだから、チャンスをやる。
ここは俺ら、便利屋タロンの新しい漁りの場だ。ここ下流では物資はとても貴重で、他人の漁り場には出来るだけ干渉しない。そんな暗黙の了解を知らないって可能性を危惧して、チャンスをやるんだ。
ここに今漁ってた物、全部置いていけよォ。そうすれば見逃す」
「な…………!!」
なんて提案をしてくるの。確かに今漁った物を置いて助かるのであれば、全然安い。でも、そうしてくれる確証が無い。下流の世界で一番信用出来ないのは、『口約束』だ。
「なァ?アスカ嬢さん達よォ……早く答えろよ」
ガスマスクの男は手に持っている凶器のグリップ部のスイッチをカチッと入れる。金属バットの先端部に取り付けられた円盤ノコギリがみるみる動き出し、加速する。キィィィィインと、耳障りな音を奏でながら。
まずい。こっちはロクな武器も無いってのに…………どうすれば良いの?
ウチが顔を真っ青にして頭を抱え、アイに大丈夫ですか?と言われている最中……突然アスカが男に向かって啖呵を切った。
「…………そのアスカ『嬢』って呼び方、止めなさい。今の私は、ただのアスカ。昔の良家なんて捨てた。一人の女でしかないのよ」
「へェ……」
「それと、もう一つ」
「なんだァ?」
「成果は置いていかない。これは私にとって、私たちにとって大事な食料だから。見て分かるように、かわいい新入りが増えたのよ」
まだ男の武器が駆動する音が聞こえる。『置いていかない』ってことは、この人と…………戦うってことだよね?
「ヘヘッ」
乾いた笑いが漏れる、男のガスマスクの中から漏れ出す。今、男はどんな顔をしているんだろう。
「なら、殺す」
次の瞬間。ドッ、と男がウチら目掛けて駆け出す。ひぃーー!!!やっぱ来たァ!!?!?凄い速さでこっちに!!!!
「リアラッ!!!!アイを連れて後ろに!!!!」
アスカが大声で叫び、コンバットナイフを腰のホルダーから取り出し男の方へ構える。
そのアスカの声を聴いてウチはすぐにアイの手を握って、一緒に後ずさる。
「ア、アスカ……」
「アイちゃん!!もっと離れないと!!」
アスカに駆け寄ろうとしていくアイを抑えていると、男とアスカ――互いが互いの交戦距離に入っていた。
「オラァ!!!!」
ブン、と音が鳴る、空を切る音。アスカに接近した男がバットをアスカ目掛けて振り下ろす。それをアスカはコンバットナイフで受け流し、左へ避けた。
「あぁン???お前が一番動けないと思ったが、違うってことかァ?」
「答えるつもりは、無いッ!!!!」
金属音、ナイフの一撃を男がバットで防いだのだ。アスカは結構戦える人って思ってたけど、やっぱり漁り屋じゃない――――――便利屋の動きは、想像以上に速過ぎる。例えるなら、アスカは自転車だけど男は列車のような――――そこまでの差があった。
そしてもう、ウチの目には二人の動きが追いきれてない。この暗く狭いビルの中を駆け回り、埃が舞い上がり、度々金属音が鳴り響き、時折火花も散らす。
音だけ、音だけしか追えてないけど、音だけでもアスカが劣勢なのは理解できる。息遣いだ。
男はガスマスクまで付けて、明らかに呼吸しづらいだろうに未だに息切れの様子が無い。それに比べ、アスカは少しづつ息遣いが大きくなっている。このまま戦い続ければ、いずれ殺されてしまう。
そうなればウチも、アイも、どうなるか…………。
「武器を変えた方が良いかもしれません……」
「え?アイちゃん?」
突然アイが言い出す。確かにそうかもしれないけど――――
「アイちゃんって戦いって分かるの?」
「い、いえ……。ただ、武器の長さに差があるので相手の懐に潜り込まないといけないアスカと、長いバットを振り回しているあの人とでは、攻撃に消費する体力に違いがあるのではと…………」
「バットとタメを張れる交戦距離の武器、こんな場所で手に入れられそうなのは……鉄パイプか」
もう迷っている暇はない。幸い、あのガスマスク男以外に便利屋と思われる人間は居ない。なら、今のうちにアスカの代わりの武器を探してくるしか無い!!!!!
「アイちゃん!!!この階層で適度な長さの鉄パイプ、もしくは似たような耐久性と長さを持つ武器を探してくれる?お願い!!!!」
「わ、分かりました」
アイはこっそりとウチの後ろへ駆け出し、アスカとは反対方向へ。後は、なんとか間に合ってくれることを願うしか――――――
◇◇◇
何度も響く、金属と金属のぶつかり合う不愉快な音。もう離れていても聞こえるアスカの乱れた呼吸。武器同士が衝突し、火花が散る一瞬にアスカの顔が見えたがもうかなり疲弊しているように見える。離れて見てるだけのウチは、ただただ、アイが間に合うことを願うしかない。
「そろそろお疲れかァ!?」
「クッ!!そういうあなたも疲れてるんじゃないの?」
「ハハッ!!舐めて貰っちゃあ、困るねェ」
そう言うと男は今までのバットのリーチに頼った動きから急に変え、アスカとの間合いを詰める。そして不意を突かれノーガードだったアスカの脇腹に、蹴りを…………。
瞬間、鈍い音が聞こえる。アスカは今までの俊敏な動きを止め、脇腹を抱えて体勢を崩してしまう。
「グハッ…………」
「おいおい、隙だらけじゃねぇかよォ」
「な、なに!?」
「アスカ!!!避けて!!!」
そんなウチの声も間に合わず、アスカは男に腹を殴られてしまう。彼の右手がアスカのお腹に、ギリリと食い込む。もう見てる側も痛々しくて目を向けられない。そしてアスカは、男の目の前で膝をついてしまった。
ごめん、アスカ。ウチらがもっと戦えていたら…………ウチがここを提案しなければ…………もっと良い結果が待ってたかもしれないのに。
「う、うう……」
「もう決着かなァ。せっかくだ、アスカさんよ。お前に聞きたいことがある」
「なに…………?」
「ラボラトリーの地下からタワーに向けて運送されていた『ブツ』を盗ったのは、お前らだろ」
息を呑む。それは事実だ。まさか、あの情報を便利屋の連中も嗅ぎつけてたの…………?
「何が、入ってたんだァ?ああ!?」
「それを知って、どうするの……」
「俺の、俺たちのボスの読みだとその『ブツ』はとてつもなく重要なんだとよ。ブツの正体を把握次第、お前らの家を探し、奪い取る。元々俺たちも狙ってたんだけどよ、流石にあの得体のしれない研究施設のラボラトリーからタワーに極秘の地下通路で納品とか、危ない匂いしかしないから手が出せなかったんだよ。
だがそうして迷っている間に『ブツ』は運ばれ、お前らっていう命知らずに先に取られちまったんだ」
そうだ。あの奪取の判断はウチがしたけど、我ながら九割ほど賭けの博打だったし命知らずとか言われてもおかしくない。
何か、今の生活を大きく変えるお宝なんじゃないかと思って実行したけど結果はアイという仲間が増えただけだった。
あの男の言い分は正しい。あんな地下通路、ハッカーのウチが居たから場所を把握で出来たけど、そうでないならまず普通は知る事のない存在。そんなところをわざわざ使うんだからそりゃ重要なハズだ。『都市』にとっても。
最悪、『腕』との遭遇もありえた。もし、そうなっていたらウチらはもうこの世には居ないだろう。
というか、あんまり掘り下げてなかったけど…………。
アイは、あの都市にとって――――いや『市長』にとっての重要な存在だったはず。そしてその正体がアイ、最新型AIを積んだ人間に瓜二つのアンドロイド。
一体、アイのどういったところが『市長』にとって重要だったのか。
もしかしなくても、ウチらはアイの事を何にも知れていない…………?
「おい!答えろ!!ブツの正体は、何だァ!!?」
いつまでも男の質問に答えないウチらに痺れを切らし、男はあのバットの凶器を振り上げる。あの円盤ノコギリの駆動音を鳴らしながら。
しかし、ウチは気づいている。ウチの後ろからドタドタと足音が聞こえる事を。
それは、アイの足音だ!!!!ならば、一瞬だけ、一瞬だけでも男に隙を作る!!!
アスカは疲労困憊。けど、その目からは闘志の熱い炎はまだ消えていない!!!!!
「あ!!!!アレって!!!!!」
と、大声を出す。そして階段の方を指差しながら――――――――――――
「今流行りの、路上娼婦じゃない!?!?わぁ!!!」
「え、どこ?」
そんな意味不明なウチの狂言に惑わされ、男は一瞬奥の階段の方へ視線を向ける。幸いビルという閉鎖空間のおかげで音が反響し、アイの足音を階段からの足音だと錯覚させることが一瞬だけ出来たのだ。
この一瞬!!!この一瞬だ!!!!
「アイちゃん!!!投げて!!!!」
「は、はい!!!!」
もうアイがどんな物を持ってきたかも見てないが、ウチは信じる。アイを。
何かを投げた音を後方から聞き取ったウチは、振り返りアイが投げた棒状の物体を右手で受けとる。バシッと!!
それは、まさしく理想的な長さの鉄パイプだった。これなら長いリーチとノコギリを耐えれる防御が実現可能!!!!
「ナイスだよアイちゃん!!アスカ!!!受け取って!!!!」
そしてその鉄パイプをアスカへ投げる。男は既に先ほどのウチの発言が嘘であることに気づいたが――――――もう遅かった。
アスカはウチの投げた鉄パイプを片手でキャッチし、その瞬間に男の武器を持つ腕を強打したッ!!!!!
アイからウチへ、ウチからアスカへ、闘志のバトンは今渡された!!!
「ぐ、ぐああぁぁあ!!!!」
男は悲鳴を上げる。鉄パイプで殴られた際の音は凄まじく、骨の折れる音がハッキリと聞こえる程だった。
男は手にしていた武器を手放し、膝を着く。それをアスカは見逃さず、瞬時に彼の武器を蹴飛ばし遠くへ追いやった。
もう、あの男は武器を使えない。たとえ拾われたとしても、武器を握っていた腕――――つまり、利き腕はもう使い物にならない!!両腕で持ったとしても、利き腕の痛みによりまともに振るう事は出来ない!!!
まさに、つい先ほどまでのアスカとガスマスク男の構図が逆転する形となった。
「これが、仲間ってやつ?ハッ、最高ね……!!」
「糞がァ…………痛いじゃねぇか……」
「さぁ!大人しく縛られなさい!命を取るのは勘弁してあげるから!」
チェックメイトか。ドッと汗が噴き出る。緊張の糸が切れた感覚――――
「何か、おかしいです」
は、長くは続かなかった。
そう、アイのその一言を聞くまでは。
「なァ……?アスカよォ…………俺が、俺たちが、単独でこんな広いところを漁って物資を集めてるとか本気で思ってたのか?」
「なん、ですって――――――」
突如、ウチとアイの後方から大きな衝撃音。さっきまでアイがドタドタと走ってきたあの通路に、穴が開いた。
そして、人が飛び出した。スタッ、と綺麗に着地する。
女の子だ。
両腕に円形の盾を装備した女の子が、この階層に侵入してきた…………!?あの男の、仲間…………ッ!!!
「リズー!その子たち…………
殺して食べちゃっても良いんだよね!!!!」
彼女の赤目の三白眼と目が合った瞬間、思い知らされる。
何も事態は良い方向へと傾いていなかったのだと――――――――――――
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