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屋敷編
第2章 復讐
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その日の夜中、レイラは自室の窓へと向かう。ヘンリーは以前、レイラの部屋の窓から見える木の上にいたのでそこからまた声をかけてくれるはずだ。
レイラが窓を開けると案の定、ヘンリーは既に忍び込んでいたらしい。
「よう、お嬢ちゃん。」
「......前も思ったけどあなたどうやって忍び込んでいるの?」
「あん?大したことはしてねえぞ?この屋敷は広いし、木々がそこら中に生えているから比較的侵入はしやすいからな。昔から木登りは得意だし。」
(歴史のある名家という割に詰めが甘いなぁ。)
レイラはこんなにも警備がガタガタでよく今までうちの屋敷に泥棒が入る事が無かったなぁと冷めた気持ちで思った。
「本題に移るぞ。結局あんたはどうするんだ?このまま親の言いなりとなり、この屋敷で一生を終えるのか。それとも俺に協力して俺等の仲間となるのか。」
(......)
レイラは口を噤んでいた。というより、迷っているようにヘンリーには見えた。
(この様子はもう少しか?)
レイラは決意を決めたはずだけど中々ヘンリーの目を見て話す事ができなかった。
「......」
「......」
ヘンリーとレイラはお互いそのまま数分間黙り込む。
「なあ、黙っていても......」
いい加減痺れを切らせたヘンリーがレイラに話しかけようとした時であった。
「......私は絶対ここから出ていく。」
レイラははっきりそう答えた。
それを聞いたヘンリーは
「そうか。あんたならそう言ってくれると思っていたぜ。」
仲間を期待させた手前、ヘンリーもレイラを何としてでも仲間にしたかった。
レイラがヘンリー達の仲間になってくれると言ってくれてヘンリーはホッと胸を撫で下ろした。
ただ、ヘンリーにとって更なる問題が発生した。仲間になる発言をしたレイラがとんでもない条件を出してきた。
「仲間にはなるけど、その代わり貴方と貴方の仲間達にお願いがあるの。」
「お願いだぁ?まあ、俺等にできる事なら......」
「私の両親を消して欲しいの。」
この発言には流石のヘンリーも狼狽えた。
「消すって......殺せって事か?お前自分が何言ってるか分かってんのか?」
「今まで散々貴方は悪い事してきたのでしょう?」
「悪い事って......そりゃあ生きる為に盗みは散々してきたさ。でも殺しはした事ねえぞ。」
ヘンリーは必死で宥める。
「いや、俺も親には恵まれなかったし、お前の気持ちも分かるが、殺人なんてしちまったらもうまともな人生は歩めないぞ?いいのか?お前の嫌いな奴のせいで日の目を見れなくなるんだぞ?」
「......」
「......」
ヘンリーとレイラは暫くの間、黙り込んだ。
ヘンリーは「考え直してくれ!」と心の中で祈り、レイラは考え込んでいる様だった。
そして、レイラは1つの答えを出した。
「やっぱり私はお父様達の事は許せない。」
「.....」
ヘンリーの祈りは届かなかった。
(やばい奴を仲間に引き入れてしまったな。)
ヘンリーは遠くの空を見ている。
「要は私達が殺人事件の犯人だと分からなければいいのよね?」
(こいつは一体何を言ってるんだ?)
レイラは相当、両親を憎んでいる様子だった。
そしてレイラはヘンリーに提案する。
「私はこれでもイギリス貴族の娘よ。これまで自由と引き換えに様々な知識、教養を身に着けてきたわ。あなたと私で協力して計画通りにやれば必ず上手くいくはずよ。」
「分かった。頭は痛いけど俺とあんたはもう仲間だ。ひとまずはあんたを仲間の所に連れて行く。今後の事はそれから考えよう。」
「......レイラ。」
「あん?」
「私の事はレイラって呼んで。仲間なのにあんたとかお前呼びはおかしいじゃない?」
「それもそうだな。悪かったよ、......レイラ。」
「それじゃあ時間も時間だし、屋敷の人間も寝静まっているんだろ?最低限の荷物を持って俺らのアジトに行こうぜ......レイラ。」
「何かぎこちないわね。まあいいわ、今から私も外に出るから行きましょう。」
深夜3時、俺とレイラは仲間の所へと向かった。
明け方過ぎに俺とレイラはスラムにあるアジトに辿り着いた。
仲間達はチラホラ起き始め、寝具の片付けを始めていた。
「おい、帰ったぞ。」
ヘンリーは仲間達に声をかける。
仲間達は一斉にヘンリーとレイラの方に顔を向けた。
レイラは少し緊張している様子だった。
ヘンリーの仲間達もそんなレイラの姿が見え、レイラ相手に驚きと緊張した様子を見せている。
そんな様子を見てレイラと仲間達双方に声をかける。
「例の屋敷の件、皆察しがついたかもしれないが改めて見ての通り、成功だ!」
「そして、隣にいるのはその屋敷の娘、レイラだ。彼女を協力者に引き入れる事ができた。今日から彼女も俺達の仲間だ。仲良くしてあげて欲しい。」
「オオオオオオォォォー!!!」
仲間達もレイラを仲間と認めたのか途端に周りで歓声が湧き起こった。
(ここ、スラムの路地裏だから静かにしろよな......)
レイラを仲間達が受け入れた事は嬉しい反面、ヘンリーは複雑だった。
レイラの顔色を伺うと仲間達に受け入れてもらった事に嬉しいような申し訳ないような何とも言えない顔をしていた。
(やっぱ言わないとなぁ。)
俺は決心して仲間達に打ち明ける事にした。
「みんな、話を聞いてくれ。今から重大な話をする。」
「おお。これからの事か。」
仲間達は多分屋敷の強盗計画の話をするものだと思っているのだろう。
正直気が重い。
「まず、強盗計画においては屋敷内部を知り尽くしているレイラの話を聞いて綿密に計画を立てる。」
「まあ、そりゃそうだわな。」
計画無しでは一瞬で御用となってしまう。
「レイラ、もう俺達は仲間だ。実の家族相手に複雑かもしれないが頼んだぞ。」
オリバーはレイラに話しかけた。
そして、ここからが本題である。
「ただ、計画を立てるに当たって皆に話しておかないといけないことがある。」
「話しておかないこと?なんだよそれ。」
仲間達はヘンリーに視線を集めた。
「レイラの事だ。実はレイラを仲間に引き入れる上で独断であるが1つレイラとは駆引きをした。」
「その駆け引きの内容だが......」
やっぱり内容が内容だけに詰まる。しかし言わない訳にもいかない。
「?、駆け引きってなんだよ?早く言えよ。」
内容を知らない奴らは俺の気持ちを他所に「早よ言え!」と急かしてくる。
「......殺す」
「声が小せぇなぁ。なんて?」
「レイラの両親を殺す。」
「......」
「......」
俺の勇気のいる発言の後、周りは静まり返った。そりゃそうだろうな。内容が内容だけに言葉も出ないだろうさ。何せここにいるのはその日その日を生き抜くために小さな盗みを繰り返す小悪党で形成されたスラム。ましてやまだ10歳にも満たないガキから一番上でも18歳だ。
「......お前正気か?」
普段はお調子者のオリバーが深刻そうな顔をしていた。
「ヘンリー兄ちゃん、流石に僕らに人を殺すのなんてできないよ。」
見るとガキ共もまた俺の顔を見て不安そうな、泣き出しそうな顔をしていた。
いや、正確には既に泣きベソをかいていた。
「......これはレイラを引き込む為に俺が独断でやった事だ。お前らが反対なら無理にこの話に乗る必要はねぇ。けじめとして俺は一人でもレイラと一緒にレイラの復讐計画に乗らせて貰うけどな。」
1度仲間と言った以上、レイラを裏切るつもりはない。
「お前のせいでお前だけでなく、ここにいる全員がこの街にもう居られなくなるかもしれないんだぞ。」
口を開いたのは俺やオリバーと同い年のオスカーだった。
「俺達が盗みを働いてもこの街にいる事が許されているのは店のおっさんらが俺達の境遇を知っているからだ。」
「俺達をこの街から追い出そうと思えば店のおっさん達はいつでも追い出す事はできる。でもそれをしないのはおっさん達の温情なんだよ。それは言うまでもなく、お前だって知ってるはずだ。計画を立てて毎日盗みを成功させているが、向こうは本気で俺等を相手してる訳じゃない。」
「分かってる。だから今回の件は俺が全責任を負って計画を遂行する。この街にはいられなくなるけどこの後得るであろう金額は悪くないはずだ。それで何とかしてくれ。」
「......」
しばらくまた沈黙が訪れた。
※
10分程経った頃だろうか?突然オスカーが口を開いた。
「......この計画に俺らも1度賛同している。それにお前が1回目に偵察から帰って来た時、俺らは大分お前を責めもした。そして2回目に偵察に行き、お前は収穫を得て帰ってきた。......大分でかい爆弾を抱えて来たけどお前だけが悪いわけではない。」
オスカーは葛藤しながらも俺の言う事に一応の理解を示してくれたらしい。
「オリバー、ジョシュア、レジー!」
オスカーが突然3人の仲間の名前を呼んだ。
「!?」
3人は突然呼ばれて驚いていた。
「勿論、無理強いはしない。ただ俺達は......俺達だけは最後までヘンリーの味方をするのが筋だと思うが、お前達はどうだ?」
オリバー、ジョシュア、レジー、そしてオスカー。
この4人はヘンリーと同期の18歳組である。
すると、口を開いたのはオリバーだった。
「俺も勿論、ヘンリーやオスカーの味方だぜ。」
オリバーの口ぶりはいつも軽い。
「......お前、ちゃんと意味わかってる?」
ヘンリーはオリバーの突発的な行動にはいつも悩まされていた。
オリバーが味方をしてくれるのは勿論嬉しいが、後で「そういう事だったのかよ~」とか言われても困る。
だからオリバーには再度確認した。
「俺は頭は悪いけどよ。でもヘンリーやオスカーを裏切りはしない。それがどんなにやばいことでもいつだって俺にとってヘンリーやオスカーは頼れる奴だと知ってるから。」
「オリバー......」
涙が出そうになったが、涙をこらえた。
「ジョシュアとレジーはどうだ?」
オスカーが残りの二人に問う。
「ヘンリーの気持ちを汲んでやりたいのは山々だが、お前達はその後の事も考えているのか?」
そう投げ返したのはジョシュアだった。
「別にヘンリーやオスカーに賛同する事事態は構わない。だが、万が一にも俺達5人全員がブタ箱送りになって戻れなくなった時、誰が残されたこいつらの面倒を見ると言うんだ。」
ジョシュアの言う事は最もである。今までスラムのガキ達を養ってきたのは俺達5人。
その全員がいなくなってしまうとスラムのガキ達は何もできないだろう。
だが、意外にもオスカーはその点も考えていたらしい。
「その点は心配いらないよ、ジョシュア。そうだよね?ディラン、ドミニク。」
オスカーは2人の名前を呼んだ。
「......オスカーさん達みたいにまとめられる自信はありませんよ。」
「......今ならまだ留まれるんじゃあ......」
2人はオスカーの呼びかけに自信なさそうに返事を返した。
ディランとドミニク。
俺達18歳組の次に年長の2人で今年で15になった。
「俺達に何かあった時の為にお前達2人には色々教えてやっただろ?」
オスカーは確かに去年辺りからやたらとディランとドミニクに気をかけている様子だった。
どうやらオスカーは万が一の時の為に後継者としてディランとドミニクを育てていたらしい。
「いいか二人共。おそらく俺達はこの作戦を実行したらもうここには戻れない。お前達も俺達の仲間と知られている以上、この街から逃げなければいけない。」
「その時、ガキ共の前に立って統率を取るのはお前達だ。頼んだぞ。」
「分かりました。でも俺はオスカーさん達が戻ってくるって信じてますから。」
ディランはそう言うとオスカーの言葉に頷いた。
ドミニクも複雑な顔をしていたが何も言わないところを見ると無理矢理納得しているのかもしれない。
※
さて、闇雲に乗り込んでも当然失敗は必至。
ヘンリー、レイラ、オスカー、ジョシュア、レジー、オリバーの6人は作戦会議を開く事にした。
「さて、レイラの両親殺害と資産の強奪をどうやって並行して行うか。」
「やる事がやる事だ、チャンスは一度きり。
確認だが、俺達がやらなくてはいけない事は2つ。1、レイラの両親の殺害、2、グリフィス邸にある金品の強奪。この2つを同時に実行しなくてはならない。」
作戦の陣頭指揮を取るのはオスカー。
「私の屋敷では使用人は夜20時頃に帰宅して、21時頃には私の両親と執事の3人だけになるはず。狙うならこの時間以降が良いと思うわ。」
屋敷事情に詳しいレイラは積極的にオスカーの意見に対し、発言していく。
※
レイラの助けもあり、話はとんとん拍子で進められた。屋敷事情に詳しいから会議は詰まることなく進めることができた。
「最後に効率化を図るため、ふた手に別れて当日は決行だ。暗殺はレイラ、ヘンリー、レジー、強盗はオリバー、ジョシュア、俺だ。」
決行の日は来週の金曜日に決まった。
レイラの話によると、この日はいつもより使用人が帰るのが早いから失敗しにくいだろうとの事。
なんでもレイラの屋敷の使用人は土日の固定休ではなく、週休2日制らしい。
だが唯一、金曜日だけは使用人達は早上がりができる。
※
一方ヘンリー達が会議してた同時期、グリフィス邸はとても慌ただしくバタバタとしていた。
「探せ~!お嬢様を探し出せ~!」
レイラがいなくなり、レイラの父アーロンの命で使用人達は普段の仕事どころではない。ただひたすらレイラの捜索である。
「どこに行ったんだ?レイラ......」
アーロンはレイラが居なくなり、憔悴していた。そんなアーロンとは対照的に母のローラは普段通りに振る舞っていたが、それでも明らかに口数は減っていた。
「元気でいてくれ......」
最初にレイラの部屋を見てアーロンや使用人もレイラが誘拐された訳では無いことは理解した。着替え等が無くなっていた事からレイラが家出したのは明白である。
その時のアーロンは怒りよりも後悔の方が勝った。
「私はあの娘に厳しくし過ぎたのだ。」
もし、レイラが帰ってきてもアーロンは叱らないようにしようと思っていた。
もう一度一から親娘関係、家族関係を築き直そうと思っていた。
※
だが、そんなアーロンの悲痛な想いは届くことは無かった。
両親の愛が伝わらず、長年の復讐に燃える娘。
厳しい躾と分かっていながら家柄に縛られ、娘に素直になれなかった親。
両者の歪な歯車は噛み合うことなく、やがて大きな悲劇を作り出す事となる。
レイラが窓を開けると案の定、ヘンリーは既に忍び込んでいたらしい。
「よう、お嬢ちゃん。」
「......前も思ったけどあなたどうやって忍び込んでいるの?」
「あん?大したことはしてねえぞ?この屋敷は広いし、木々がそこら中に生えているから比較的侵入はしやすいからな。昔から木登りは得意だし。」
(歴史のある名家という割に詰めが甘いなぁ。)
レイラはこんなにも警備がガタガタでよく今までうちの屋敷に泥棒が入る事が無かったなぁと冷めた気持ちで思った。
「本題に移るぞ。結局あんたはどうするんだ?このまま親の言いなりとなり、この屋敷で一生を終えるのか。それとも俺に協力して俺等の仲間となるのか。」
(......)
レイラは口を噤んでいた。というより、迷っているようにヘンリーには見えた。
(この様子はもう少しか?)
レイラは決意を決めたはずだけど中々ヘンリーの目を見て話す事ができなかった。
「......」
「......」
ヘンリーとレイラはお互いそのまま数分間黙り込む。
「なあ、黙っていても......」
いい加減痺れを切らせたヘンリーがレイラに話しかけようとした時であった。
「......私は絶対ここから出ていく。」
レイラははっきりそう答えた。
それを聞いたヘンリーは
「そうか。あんたならそう言ってくれると思っていたぜ。」
仲間を期待させた手前、ヘンリーもレイラを何としてでも仲間にしたかった。
レイラがヘンリー達の仲間になってくれると言ってくれてヘンリーはホッと胸を撫で下ろした。
ただ、ヘンリーにとって更なる問題が発生した。仲間になる発言をしたレイラがとんでもない条件を出してきた。
「仲間にはなるけど、その代わり貴方と貴方の仲間達にお願いがあるの。」
「お願いだぁ?まあ、俺等にできる事なら......」
「私の両親を消して欲しいの。」
この発言には流石のヘンリーも狼狽えた。
「消すって......殺せって事か?お前自分が何言ってるか分かってんのか?」
「今まで散々貴方は悪い事してきたのでしょう?」
「悪い事って......そりゃあ生きる為に盗みは散々してきたさ。でも殺しはした事ねえぞ。」
ヘンリーは必死で宥める。
「いや、俺も親には恵まれなかったし、お前の気持ちも分かるが、殺人なんてしちまったらもうまともな人生は歩めないぞ?いいのか?お前の嫌いな奴のせいで日の目を見れなくなるんだぞ?」
「......」
「......」
ヘンリーとレイラは暫くの間、黙り込んだ。
ヘンリーは「考え直してくれ!」と心の中で祈り、レイラは考え込んでいる様だった。
そして、レイラは1つの答えを出した。
「やっぱり私はお父様達の事は許せない。」
「.....」
ヘンリーの祈りは届かなかった。
(やばい奴を仲間に引き入れてしまったな。)
ヘンリーは遠くの空を見ている。
「要は私達が殺人事件の犯人だと分からなければいいのよね?」
(こいつは一体何を言ってるんだ?)
レイラは相当、両親を憎んでいる様子だった。
そしてレイラはヘンリーに提案する。
「私はこれでもイギリス貴族の娘よ。これまで自由と引き換えに様々な知識、教養を身に着けてきたわ。あなたと私で協力して計画通りにやれば必ず上手くいくはずよ。」
「分かった。頭は痛いけど俺とあんたはもう仲間だ。ひとまずはあんたを仲間の所に連れて行く。今後の事はそれから考えよう。」
「......レイラ。」
「あん?」
「私の事はレイラって呼んで。仲間なのにあんたとかお前呼びはおかしいじゃない?」
「それもそうだな。悪かったよ、......レイラ。」
「それじゃあ時間も時間だし、屋敷の人間も寝静まっているんだろ?最低限の荷物を持って俺らのアジトに行こうぜ......レイラ。」
「何かぎこちないわね。まあいいわ、今から私も外に出るから行きましょう。」
深夜3時、俺とレイラは仲間の所へと向かった。
明け方過ぎに俺とレイラはスラムにあるアジトに辿り着いた。
仲間達はチラホラ起き始め、寝具の片付けを始めていた。
「おい、帰ったぞ。」
ヘンリーは仲間達に声をかける。
仲間達は一斉にヘンリーとレイラの方に顔を向けた。
レイラは少し緊張している様子だった。
ヘンリーの仲間達もそんなレイラの姿が見え、レイラ相手に驚きと緊張した様子を見せている。
そんな様子を見てレイラと仲間達双方に声をかける。
「例の屋敷の件、皆察しがついたかもしれないが改めて見ての通り、成功だ!」
「そして、隣にいるのはその屋敷の娘、レイラだ。彼女を協力者に引き入れる事ができた。今日から彼女も俺達の仲間だ。仲良くしてあげて欲しい。」
「オオオオオオォォォー!!!」
仲間達もレイラを仲間と認めたのか途端に周りで歓声が湧き起こった。
(ここ、スラムの路地裏だから静かにしろよな......)
レイラを仲間達が受け入れた事は嬉しい反面、ヘンリーは複雑だった。
レイラの顔色を伺うと仲間達に受け入れてもらった事に嬉しいような申し訳ないような何とも言えない顔をしていた。
(やっぱ言わないとなぁ。)
俺は決心して仲間達に打ち明ける事にした。
「みんな、話を聞いてくれ。今から重大な話をする。」
「おお。これからの事か。」
仲間達は多分屋敷の強盗計画の話をするものだと思っているのだろう。
正直気が重い。
「まず、強盗計画においては屋敷内部を知り尽くしているレイラの話を聞いて綿密に計画を立てる。」
「まあ、そりゃそうだわな。」
計画無しでは一瞬で御用となってしまう。
「レイラ、もう俺達は仲間だ。実の家族相手に複雑かもしれないが頼んだぞ。」
オリバーはレイラに話しかけた。
そして、ここからが本題である。
「ただ、計画を立てるに当たって皆に話しておかないといけないことがある。」
「話しておかないこと?なんだよそれ。」
仲間達はヘンリーに視線を集めた。
「レイラの事だ。実はレイラを仲間に引き入れる上で独断であるが1つレイラとは駆引きをした。」
「その駆け引きの内容だが......」
やっぱり内容が内容だけに詰まる。しかし言わない訳にもいかない。
「?、駆け引きってなんだよ?早く言えよ。」
内容を知らない奴らは俺の気持ちを他所に「早よ言え!」と急かしてくる。
「......殺す」
「声が小せぇなぁ。なんて?」
「レイラの両親を殺す。」
「......」
「......」
俺の勇気のいる発言の後、周りは静まり返った。そりゃそうだろうな。内容が内容だけに言葉も出ないだろうさ。何せここにいるのはその日その日を生き抜くために小さな盗みを繰り返す小悪党で形成されたスラム。ましてやまだ10歳にも満たないガキから一番上でも18歳だ。
「......お前正気か?」
普段はお調子者のオリバーが深刻そうな顔をしていた。
「ヘンリー兄ちゃん、流石に僕らに人を殺すのなんてできないよ。」
見るとガキ共もまた俺の顔を見て不安そうな、泣き出しそうな顔をしていた。
いや、正確には既に泣きベソをかいていた。
「......これはレイラを引き込む為に俺が独断でやった事だ。お前らが反対なら無理にこの話に乗る必要はねぇ。けじめとして俺は一人でもレイラと一緒にレイラの復讐計画に乗らせて貰うけどな。」
1度仲間と言った以上、レイラを裏切るつもりはない。
「お前のせいでお前だけでなく、ここにいる全員がこの街にもう居られなくなるかもしれないんだぞ。」
口を開いたのは俺やオリバーと同い年のオスカーだった。
「俺達が盗みを働いてもこの街にいる事が許されているのは店のおっさんらが俺達の境遇を知っているからだ。」
「俺達をこの街から追い出そうと思えば店のおっさん達はいつでも追い出す事はできる。でもそれをしないのはおっさん達の温情なんだよ。それは言うまでもなく、お前だって知ってるはずだ。計画を立てて毎日盗みを成功させているが、向こうは本気で俺等を相手してる訳じゃない。」
「分かってる。だから今回の件は俺が全責任を負って計画を遂行する。この街にはいられなくなるけどこの後得るであろう金額は悪くないはずだ。それで何とかしてくれ。」
「......」
しばらくまた沈黙が訪れた。
※
10分程経った頃だろうか?突然オスカーが口を開いた。
「......この計画に俺らも1度賛同している。それにお前が1回目に偵察から帰って来た時、俺らは大分お前を責めもした。そして2回目に偵察に行き、お前は収穫を得て帰ってきた。......大分でかい爆弾を抱えて来たけどお前だけが悪いわけではない。」
オスカーは葛藤しながらも俺の言う事に一応の理解を示してくれたらしい。
「オリバー、ジョシュア、レジー!」
オスカーが突然3人の仲間の名前を呼んだ。
「!?」
3人は突然呼ばれて驚いていた。
「勿論、無理強いはしない。ただ俺達は......俺達だけは最後までヘンリーの味方をするのが筋だと思うが、お前達はどうだ?」
オリバー、ジョシュア、レジー、そしてオスカー。
この4人はヘンリーと同期の18歳組である。
すると、口を開いたのはオリバーだった。
「俺も勿論、ヘンリーやオスカーの味方だぜ。」
オリバーの口ぶりはいつも軽い。
「......お前、ちゃんと意味わかってる?」
ヘンリーはオリバーの突発的な行動にはいつも悩まされていた。
オリバーが味方をしてくれるのは勿論嬉しいが、後で「そういう事だったのかよ~」とか言われても困る。
だからオリバーには再度確認した。
「俺は頭は悪いけどよ。でもヘンリーやオスカーを裏切りはしない。それがどんなにやばいことでもいつだって俺にとってヘンリーやオスカーは頼れる奴だと知ってるから。」
「オリバー......」
涙が出そうになったが、涙をこらえた。
「ジョシュアとレジーはどうだ?」
オスカーが残りの二人に問う。
「ヘンリーの気持ちを汲んでやりたいのは山々だが、お前達はその後の事も考えているのか?」
そう投げ返したのはジョシュアだった。
「別にヘンリーやオスカーに賛同する事事態は構わない。だが、万が一にも俺達5人全員がブタ箱送りになって戻れなくなった時、誰が残されたこいつらの面倒を見ると言うんだ。」
ジョシュアの言う事は最もである。今までスラムのガキ達を養ってきたのは俺達5人。
その全員がいなくなってしまうとスラムのガキ達は何もできないだろう。
だが、意外にもオスカーはその点も考えていたらしい。
「その点は心配いらないよ、ジョシュア。そうだよね?ディラン、ドミニク。」
オスカーは2人の名前を呼んだ。
「......オスカーさん達みたいにまとめられる自信はありませんよ。」
「......今ならまだ留まれるんじゃあ......」
2人はオスカーの呼びかけに自信なさそうに返事を返した。
ディランとドミニク。
俺達18歳組の次に年長の2人で今年で15になった。
「俺達に何かあった時の為にお前達2人には色々教えてやっただろ?」
オスカーは確かに去年辺りからやたらとディランとドミニクに気をかけている様子だった。
どうやらオスカーは万が一の時の為に後継者としてディランとドミニクを育てていたらしい。
「いいか二人共。おそらく俺達はこの作戦を実行したらもうここには戻れない。お前達も俺達の仲間と知られている以上、この街から逃げなければいけない。」
「その時、ガキ共の前に立って統率を取るのはお前達だ。頼んだぞ。」
「分かりました。でも俺はオスカーさん達が戻ってくるって信じてますから。」
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さて、闇雲に乗り込んでも当然失敗は必至。
ヘンリー、レイラ、オスカー、ジョシュア、レジー、オリバーの6人は作戦会議を開く事にした。
「さて、レイラの両親殺害と資産の強奪をどうやって並行して行うか。」
「やる事がやる事だ、チャンスは一度きり。
確認だが、俺達がやらなくてはいけない事は2つ。1、レイラの両親の殺害、2、グリフィス邸にある金品の強奪。この2つを同時に実行しなくてはならない。」
作戦の陣頭指揮を取るのはオスカー。
「私の屋敷では使用人は夜20時頃に帰宅して、21時頃には私の両親と執事の3人だけになるはず。狙うならこの時間以降が良いと思うわ。」
屋敷事情に詳しいレイラは積極的にオスカーの意見に対し、発言していく。
※
レイラの助けもあり、話はとんとん拍子で進められた。屋敷事情に詳しいから会議は詰まることなく進めることができた。
「最後に効率化を図るため、ふた手に別れて当日は決行だ。暗殺はレイラ、ヘンリー、レジー、強盗はオリバー、ジョシュア、俺だ。」
決行の日は来週の金曜日に決まった。
レイラの話によると、この日はいつもより使用人が帰るのが早いから失敗しにくいだろうとの事。
なんでもレイラの屋敷の使用人は土日の固定休ではなく、週休2日制らしい。
だが唯一、金曜日だけは使用人達は早上がりができる。
※
一方ヘンリー達が会議してた同時期、グリフィス邸はとても慌ただしくバタバタとしていた。
「探せ~!お嬢様を探し出せ~!」
レイラがいなくなり、レイラの父アーロンの命で使用人達は普段の仕事どころではない。ただひたすらレイラの捜索である。
「どこに行ったんだ?レイラ......」
アーロンはレイラが居なくなり、憔悴していた。そんなアーロンとは対照的に母のローラは普段通りに振る舞っていたが、それでも明らかに口数は減っていた。
「元気でいてくれ......」
最初にレイラの部屋を見てアーロンや使用人もレイラが誘拐された訳では無いことは理解した。着替え等が無くなっていた事からレイラが家出したのは明白である。
その時のアーロンは怒りよりも後悔の方が勝った。
「私はあの娘に厳しくし過ぎたのだ。」
もし、レイラが帰ってきてもアーロンは叱らないようにしようと思っていた。
もう一度一から親娘関係、家族関係を築き直そうと思っていた。
※
だが、そんなアーロンの悲痛な想いは届くことは無かった。
両親の愛が伝わらず、長年の復讐に燃える娘。
厳しい躾と分かっていながら家柄に縛られ、娘に素直になれなかった親。
両者の歪な歯車は噛み合うことなく、やがて大きな悲劇を作り出す事となる。
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入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
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――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
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