異世界の焼き肉屋

とあるOL １

　何処にでもある喫茶店。
　その店内で一組の男女が席に座っていた。
　男は女性の目を見ずに呟くように言い出した。
「もう別れよう」
「えっ？」
　男の一言を聞いた女性は顔が凍り付いていた。
　少し黒目の部分が下方より三白眼の目が男を見た。
　顔立ちも可愛いというよりも凛々しい顔立ちであった。
　身長も平均的であったが、女性の象徴といえる部分は中々に大きかった。
　腰回りも細くもないが太くも無かった。
　尻は胸と同じ位の大きさであった。
　この女性の名は大上凛子おおかみりんこと言い、広告会社の勤務の社員である。
　歳は今年で二十七歳であった。
「ど、どうして……？」
　凛子は思わず訊ねた。
　男性は別の会社の社員なのだが、凛子が務める会社とは仕事上で取引を行っていた。
　凛子の会社に訪れた男性が凛子を見かけると、一目で気に入り告白されて付き合い半年が経った。
　凛子としては男性の事を良く知る事が出来て、どんな事が好きなのか分かり
　このまま行けば、結婚も前提に考えた付き合いになるだろうと思っていた矢先に男性が別れようと言い出した。
　男性とは特にトラブルという事を起こしていないのにだ。
　凛子が訊ねると、男性は言い辛そうに口を開いたり閉じたりしながら語りだした。
「・・・・・・君の視線が怖いんだ」
　男性がそう言うと凛子は何も言えなかった。
　凛子は二十七歳になるまで、男性と付き合った事が無かった。
　それはこの三白眼の目が原因であった。
　この目により、睨んでいるつもりはないのに睨んでいると思われる事がよくあった。
　その為か男性は凛子の視線を怖いと思い声を掛けるのも躊躇われていた。
　男性がそう言うのを聞いて、またかと思う凛子。
「最初はその強い眼差しが良いと思ったのだけど、これから先もその視線に晒されるのかと思う、気が重いんだ」
　男性が別れる理由も述べると凛子は何も言えなかった。
「本当に済まない・・・・・・」
　男性は凛子にそう言った後、頭を下げた。
　そして、椅子から立ち上がり喫茶店を後にした。
　男性が喫茶店が出て行った後も凛子はショックのあまり何もいわず座っていた。
「・・・・・・はぁ～、今度はいけると思ったんだけどな・・・・・・」
　凛子は椅子に背凭れに凭れながら、そう呟き天井を見上げた。
（今日が休みで良かった。もし、仕事があったら何も手が付かなかったな・・・・・・）
　幸い同棲などはしておらず、親にも彼氏が居ると言う事を話していなかった。
　知っているのは会社の同僚でも特に親しくしている人達と他には友人だけであった。
　別れた衝撃が抜けるまで、もう少しいようと思いながら凛子は天井を見る。
　
　数日後。

　凛子は会社に出て仕事をしていた。
　彼氏と別れたという事は友人しか知らないので、周りからは嫌味を言われる事も無かった。
　友人からは慰められたので、凛子は元気になる事は出来た。表面上は。
　まだ、心の内では整理が出来ていなかった。
　男性の事を吹っ切る為に仕事を頑張る凛子。
　そんな作業の中で同僚の世間話が聞こえて来た。
　別に聞きたい訳ではなかったが、席が近いので聞こえてきた。
「ねぇ、聞いた。○○商事の堀尾さん」
「聞いた聞いた。何でも仕事でヘマして、地方に異動させられたそうよ」
「しかも、異動先の待遇は今よりも酷いらしいって聞いたわ」
「マジで⁉」
「マジマジ。けっこうイケメンだったのに、どうしたんだろうね？」
「さぁ？　わたしも知らない」
　同僚達の話を聞いていると、凛子は何とも言えない顔をしていた。
　話に出た堀尾とは凛子が付き合っていた男性の苗字であったからだ。
　思わぬ所で別れた彼氏の情報を手に入れた凛子だが、別段喜ぶ事もしなかった。
　その後も淡々と業務をこなすのであった。
　数時間後。
　今日の業務が終わり、帰ろうとした所で。
「リンちゃん。今日は一緒に飲まない？」
　と親しくしている同僚が声を掛けて来た。
　断る理由もないので、凛子は飲みに行く事にした。