帝国のドラグーン

正海広竜

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第3話

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 ポルトガル商人が乗って来た船に乗り込む狂介達。
 言葉が通じないと、面倒なのか通訳として明国の人間も一緒に乗り込んだ。
 狂介達が船倉に入る前に、逃亡防止として鉄球を鎖で繋いだ足かせに片足に嵌められた。
 狂介は軽く足を動かしたが、鉄球が重く動かなかった。
「××××」
 狂介達を買ったポルトガル人商人は通訳に話しかけた。
 すると、通訳の者は頷くと狂介達を見る。
「おまえ達ハ、これカら船倉ニ入ッてもらう。目的地ニ着くまで、其処ニいろ」
 日本語が言い慣れていないからか、たどたどしく所々カタコトであった。
 通訳がそう言って、手で乗組員に指示した。

 乗組員達は狂介達を顎でしゃくった。付いて来いと言っている様であった。
 そう促された狂介達はその乗組員の後に付いて行った。
 片足に鉄球が繋がった足枷を嵌めているので、狂介達は遅かった。
「×××‼」
 そんな狂介達に声を荒げる乗組員。
 言葉が分からないので、何を言っているのか分からないが、とりあえず罵倒しているという事だけは、乗組員の表情から分かった。
 言葉が分からない罵倒を受けつつ狂介達は歩いた。
 乗組員の後に付いて行った狂介達が入れられた船倉には先に入っている者達が居た。肌の色は同じだが、服装から明国か朝鮮の人達であった。その者達も狂介達と見ると、直ぐに自分達と同じく奴隷として買われた者達だと分かり見るのを止めた。
「おいっ、俺達は何処に連れて行かれるんだ?」
 狂介と共に買われた者が先に入っている者達に声を掛けたが、誰も反応しなかった。
 反応というよりも、言葉が違うからか通じていないと言うのが正しいと言えた。
 話しかけた者も誰も反応がしないので、不満そうに船倉に腰を下ろした。
 狂介も適当な所に腰を下ろした。
 少しすると、船が揺れ出した。
 港を出航したのだと狂介達は分かった。
 これから、何処に連れて行かれるか分からず、奴隷になった者達は涙を流していた。

 数か月後。
 狂介達はようやく目的地に後少しで着くという所まで来た。
 通訳が狂介達に食事を運び込んだ際に、話しかけた事で『リスボン』という地が目的地だという事が分かった。
 だが、其処に着くまでの間は過酷であった。
 長い航海の間に、病気や、食料・水の不足などの様々な事情で狂介達と同じように奴隷となった者達は弱っていき、最後には死んだ。
 通訳が食事を運ぶ際に生死を確認していた。その際に死亡が確認されると、通訳は乗組員を呼んで死んだ者を船倉から連れ出した。
 狂介は気になって通訳に、船で死んだ者はどうなったと尋ねた。
『今頃、魚ノ餌にッテいるだろうナ』
 その言葉の意味は直ぐに分かった。要は海に捨てたという事だ。
 それを聞いて、悲しんでいる者も居れば羨ましそうな顔をしている者もいた。
 中には埋葬もしない事に憤っている者もいた。
 反応は様々であった。
 それで、商人は奴隷が減っても良いのかと思われたが、直ぐに何処かの港に行き補給ついでに新しい奴隷を買っていった。

 自分達を買った者は自分達の事を人では無く物という価値観である事を、狂介達はマジマジと見せつけられた思いであった。
 奴隷達の中には、このまま死ぬと思い港に寄港した際、脱走を図る者達も居た。
 同郷の者が狂介も誘ったが、狂介は断った。 
 地理も不案内な上に言葉も通じない所に逃げても、直ぐに捕まるか逃げ切っても野垂れ死ぬのが目に見えていた。
 その事が分かっていた狂介は断っていた。
 脱走を図った者達は船倉に戻って来る事は無かった。
 残った者達は脱走した者達がどうなったのか怖くて聞けなかった。
 だが、減った分を補充するかのように現地の奴隷を買うので、船倉がスカスカとなる事はなかった。
 途中で脱走を図る者が出ても、新しく補充する。
 そんな繰り返しであった。

(そのりすぼん?という所について、誰かに買われたら、まずは言葉を覚えよう。そして、隙を見て逃げよう)
 贅沢を言えば、道を記した地図が欲しいと其処までは無理だと思う狂介。
 なので、まずは言語を覚え、其処から父から教わった代々の鍛治の腕を使い自分を買い直すか、逃げて鍛治を生かして生活する事に決めた狂介。
 目標を決めた狂介は早く目的地の港に付けと思いながら目をつぶっていた。
 そんな時に外から騒がしい声が聞こえてきた。
 狂介達は何事だと思っている所に、船倉の扉が開いた。
 扉を開けたのは通訳として付いて来た者であった。
 通訳は船倉に入るなり、慌てて扉を頭を抱えながらしゃがみこんだ。
 突然の奇行に狂介達は首を傾げていた。
 通訳は狂介達の視線に構わず、身体を震わせながら自分の国の言葉で何かつぶやいていた。
 そうしている間も、船は激しく揺れた。

 そして、今度は鉄と鉄がぶつかり合う音が聞こえてきた。
 同時に断末魔と叫び声まで聞こえだした。
「これは、もしかして、襲われている?」
 船が揺れている事と声からそう判断した狂介。
「どうする?」
「どうするって言われてもな」
 狂介達と同郷の者達は此処の商人に恩も義理も無い。
 その上、足枷を嵌められているので逃げるのもままならない。
 なので、殆どの者達は此処は何もしないで此処で大人しくする事に決めた。
 一部の者達はこの混乱に乗じて逃げる事にして、扉を開けて出て行った。
 狂介は残る方にした。
 一度、方針を決めたので軽々しく帰るべきではないと思ったからだ。
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