帝国のドラグーン

正海広竜

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第5話

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 襲撃された船から、襲った船に移された狂介達。
 残った船は襲った船に積まれている大砲の砲撃により海の藻屑と化した。
 生き残った乗組員と奴隷達は船倉へと叩きこまれていた。
 そんな中で狂介と通訳の者だけはその船の船長室に通された。
 船長室に置かれている椅子に座っているのは、狂介が助けた男であった。
 狂介だけではなく、通訳の者もその場にいるのは助けた者と狂介とその助けた男と言葉が通じないので、一緒に居るのであった。
 室内の内装と椅子に座っている事から、どうやら自分が助けた者はこの船の船長であったのだと判断する狂介。
 狂介の目の前に居る者は、顎髭を撫でながら通訳を見た。
 男の視線を受けて、通訳は震えあがった。
 少しでも気に入らない事をしたら殺されると思ったからだ。

「~~~、~~~~」
 男はそんな事を気にせず通訳に話しかけた。
 通訳の者は男の言葉が分かるのか、頷きつつ話しかけてた。
 それが終わると、通訳は狂介を見る。
「オ前が剣を投げタのは、わたしヲ助ける為カ? と聞いているゾ」
 通訳がカタコトながら狂介に男の言葉を伝えた。
 狂介はその通りとばかりに頷いた。
「~~~」
 男は通訳に話しかけた。
「何故、助けタ?と聞いていル」
「……特に意味は無い。強いて言えば、あいつらが嫌いだったから」
 奴隷になってから、この場に居るまでの間、碌な生活を受けられたなかった恨みもあったが、本当の所はこの男が殺されたら、男の仲間達が何をしでかすか分からなかったので助けたおだが、別に告げる事は無いと思い狂介は告げなかった。

 狂介の言葉のそのまま伝える通訳。
 通訳の介しての狂介の言葉を聞いて男は目を丸くした後、大笑いしだした。
 突然、笑い出すので通訳と狂介は互いの顔を見る。
 男が一頻り笑うと上機嫌な様子で通訳に語り掛けた。
 それを聞き終えた通訳は狂介を見た。
「お前モ、異教徒ハ嫌いの様だナ。何処の生まれダ? と訊ねていル」
 通訳を介した男の問いかけに狂介は少し考えた。
 狂介達が何処に居るのか分からない。其処で出身は日本だと告げても分からないのではと思ったからだ。
 通訳の者も同じ思いなのか、狂介に顔を寄せる。
「とりあえズ、わたしノ故郷近クと告げレば良いカ?」
「頼む」
 通訳がそう言うので狂介はそう伝える様にと頼んだ。
 心得たとばかりに通訳は頷いて、男に伝えた。 
 それを聞いた男は通訳に話しかけていた。
 暫くの間、男と通訳だけの会話が行われた。

 そして、男と通訳の会話が終わると、男は狂介を見た。
 値踏みしている様な不躾な視線であったが、狂介は視線に気にする事無く立っていた。
 男は見るのを止めると、通訳に話しかけた。
「お前ノ名前ハ何ト言ウ? と訊ネているぞ」
「狂介」
 訊ねられたので、狂介は名乗ると通訳は男に教えた。
 それを聞き終えると、男は通訳には話しかけた。
「歳ハ?」
「十五」
「家族ハ?」
「母は俺を生んで直ぐに死んだ。父と兄二人いたが、俺が野盗に捕まった時に三人共殺された」
 何でそんな事を聞くのか分からないまま、狂介は訊ねられたまま答えた。
「何ガ出来ル?」
「鍛治」
 父から家に代々伝わる刀工の技術は錆びる事はあっても失う事はない。
 そういう思いを込めて胸を張りながら言う狂介。

 狂介が言った事を男に伝える通訳。
 男は狂介を訝しんだ目で見ていた。まだ十五歳の少年に鍛治が出来るとは思ってはいないそういう目であった。
 そんな視線を浴びても狂介は憤る事も無く、淡々としていた。
(もし、自分が向こうと同じ立場であったら疑ってかかっていたろうな)
 そう思うと、男が狂介を訝しむのを道理だと思った。
 だが、このまま疑われたままで居られるのは、流石の狂介は嫌であった。
 狂介は胸に手を当てて話しかけた。
「疑うのであれば、鍛冶場に行けば分かる」
 胸を張りながら言い通訳にそう伝えろと目で言うと、通訳は男に伝えた。
 男は聞くなり顎を撫でた。

「~~~~」
 男の言葉は狂介に言ったというよりも独白の様であった。
 小さい声でボソリと言ったので、通訳も何を言っているのかは聞こえなかった様だ。
「~~~~、~~~~」
 男がそう言って通訳に話しかけた。
 通訳は聞き終わると何度も頷いていた。
「でハ、その力量ヲ見せテ貰おウと言っテいるゾ」
「見せる? どうやって?」
 鍛治の腕を見せるにしても、それ相応の施設が必要であった。
 航海をする船にそのような施設など無い。
 それで、どうやって見せろと言うのだという顔をする狂介。
「我々ハ本拠地デあるジジュルに帰還する。其処で鍛冶ノ腕ヲ見せて貰ウとの事ダ」
「承知した」
 ちゃんとした鍛冶の施設がある所でさせてくれるのであれば、何の問題は無いと思う狂介。
 狂介が了解した事を通訳は男に告げた。
 それを聞いた男は通訳に何かを告げると、通訳は青い顔をした。
 どうしたのかと思い狂介は通訳を見た。
 通訳は狂介の視線を浴びて、首をゆっくりと動かした。
「……もし、嘘デあれば命ノ恩人デあろうト、相応ノ処罰ヲ下スカラナ。そう心得ロと言っていル。無論、わたしモ同罪だトも」
「……成程」
 そう言われたら青い顔になるだろうなと思い狂介は頷いた。
 殺されるかも知れないが、もしそうなったら逃げようと思う狂介。
「~~~」
「話ハ終わりダ。お前用ニ部屋を用意シたから、其処で眠レと言っテいるゾ」
 もう話す事はない分かり狂介は部屋を出て行こうとしたが、足を止めた。
 大事な事を聞き忘れたからだ。

「名前を何と言うのか教えてくれと伝えてくれ」
 足と止めた狂介は通訳に男の名前を尋ねた。
 通訳は男に話しかけると、男はすんなりと教えてくれた。
「この者ノ名前はオルチと言ウそうダ」
 男の名前が分かり、狂介はこれで顔と名前が覚えたと思いながら、その部屋を出て行った。
 部屋を出ると、部屋の前には護衛の兵達が居た。
 既にオルチから言われていたのか、狂介達を見るなり手で指示ながら声を掛けてきた。
 何と言っているのか分からなかった狂介は通訳を見た。
「着いテ来イと言ってイるぞ」
「分かった」
 狂介は頷いたので、兵達は歩き出した。
 兵達の後に付いて行きながら、狂介は通訳に自分が乗っている船は何なのか訊ねた。
 それで、自分達が乗っている船は海賊船だと知り、ここら一帯の海岸から名前を取り、バルバリア海賊と言われていると教えてくれた。
 そして、案内された部屋は二人部屋であった。狂介は直ぐに通訳の者と使えという意味だと分かった。
 船倉に押し込まれるより良いと思い狂介達は部屋に置いてある椅子に腰を下ろして安堵の息を漏らした。
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