悪役令嬢に恋した黒狼

正海広竜

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第42話 この日は一番嫌な日だ

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 人狼となったザガード、自室を出て何故か屋敷の中を駆けていた。
 二足歩行ではなく、四足歩行で。
 狼のとしての本能なのか、それとも二本足で駆けるよりも四足歩行で駆けた方が速いと無意識で理解しているのか分からないが、とにかく駆けていた。
 後ろから、自分を追い駆ける存在から。
「ガルアアア‼(勘弁してください。御二人共‼)」
 ザガードは駆けながら咆えた。
 だが、その遠吠えは、人の言葉ではないので、誰も理解できなかった。

「待ちなさい~、ザガード」
「もう、逃げる事ないでしょうっ」
 ザガードを追い駆けるコウリーンとリエリナ。
 二人はザガードの追い駆けながら、何故か手に持っているのは、ブラシであった。
「久しぶりにその姿になったのだから、ブラッシングをさせなさいっ」
「グルゥオア!(どうか、それだけはご容赦を!)」

 ザガードが屋敷に仕えて、初めて狼の姿になった時、皆、驚きはしたが、直ぐに受け入れたのだが。
 何故か、このコウリーン達は狼の姿となったザガードを見るなり、ブラッシングをしてきた。
 そのブラッシングが気に入ったのか、二人はザガードが人狼や狼の姿になると、頼んでもいないのにするようになった。
 ザガードも最初は気持ち良いとしか思えなかった。
 だが、人に戻った時、何故か無性に気恥ずかしくなったザガード。
 なので、ブラッシングを受けるのを躊躇するようになった。

 ザガードが人狼の姿になると、出来るだけ部屋から出ないようにしていたが、二人は何処からかザガードの部屋の鍵を手に入れて、鍵を開けた。
 部屋に入って来た二人を見るなり、ザガードは逃げ出して、今に至る。
 他の使用人達も、この三人の追いかけっこを見ても特に思う事はなく、皆三人の追いかけっこを見て「ああ、今日はその日か」と呟くだけだ。

 しかし、追い駆けられるザガードからしたらたまったものではない。
 二人は自分が仕える主人なので、怪我をさせる事も出来ない。
 さりとて、止めてくれと言っても、二人は「どうして駄目なの? ブラッシングをしたら毛並みが良くなるのよ」と言ってくる。理由を話しても、二人は「そんな事気にする事ではないでしょう」と言う。
 なので、ザガードは逃げるしかない。
 今日も逃げているのだが、コウリーン達も二人という事を活かして、回り込んだり、二人の内のどちらかが待ち伏せしたりと、あの手この手でザガードを捕まえようとしていた。
 
 結果。

「さぁ、今日も気持ち良くなりましょうね~」
「そうそう。毛並みが良い方が気分が良いでしょう」
 ザガードは捕まり、ブラッシングを受けた。
 これもいつもと同じ終りであった。
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