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第1章『聖霊樹の巫女』
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「……うわぁっ!」
俺はがばっとその場で、上半身を勢いよく起こした。
俺の手には薄い掛布団の端が握られており、背中は汗でぐっしょりと濡れているようで気持ち悪い。
ベッド……夢?
心臓の鼓動がうるさいほどに、早鐘を打つ。
まずはゆっくり呼吸を整える事から始めよう。
落ち着け、落ち着け俺。
はぁ、はぁ、はぁ…………
ドンドンドン!
「カイトさん! カイトさん、どうかしましたか!」
びくぅっ!
ドアの激しいノックと声に、俺は体をびくっと震わせた。
せ、せっかくちょっと呼吸が整ってきたのに!
っていうか、誰!
「え、えっと、大丈夫、です。ちょっとものすごい悪夢を見ただけで…!」
「そうなんですか…あ~、びっくりしたぁ」
扉の向こうから聞こえる声に俺は聞き覚えはない。
声の主は女性のようだが、声は若々しい。
俺の家で女性といえば母親だけで、後は俺と父親と弟だけだし……
「とにかくっ、特に問題ないならもうすぐ朝ごはんの時間なんで食堂まで下りてきてくださいね」
それだけ言い残すと、声の主は足音とともに扉の前から離れていったようだ。
「何がどうなってるんだ……っていうか、まずここはどこなんだ?」
周囲を見回すが、部屋は俺の知らない部屋だった。
木製だろう壁は少し古くなっているようだ。
室内には質素なベッドに小さな木のテーブルと椅子が一脚、後は服を入れるクローゼットが一つという所だ。
俺は自分の体を見下ろしてみるが、今の服装は肌着にパンツのみというラフを通り越して「せめて寝間着ぐらい着ろよ!」という格好だった。
あれ? っていうか、俺の体ってこんなにスラっとした感じだったっけ?
……まぁ、いいか。
朝ごはんがとか言ってたし、ややこしい事を考えるのはその後でいいか。
そう思ってベッドから床に足をつけると、少しだけ砂っぽい感触がした。
「ん?掃除が行き届いてないとかか?」
足元に目をやると、そうではないことが分かった。
明らかに外で使うものであろう靴が、ベッドの横に置かれていたのだ。
まさかの外国スタイル!
俺は戸惑いながらも靴を履いてクローゼットまで行くと、その扉を開いた。
中には男物と思われる服一式とリュックのような革の背負いカバンが置いてあった。
一瞬俺が買い物に使っていた愛用のリュックかと思ったが、このリュックは革で出来た袋に背負い紐をつけただけの簡素なものだった。
中にも大したものは入っていない。
触っただけで硬さの解りそうな黒っぽいフランスパンみたいな物が二個と、小さな瓶に入った緑の液体が二本。そして小分けにした小さな袋が二つに、小さめのコンパスっぽい物。
袋の一つは口に栓が刺さっていて、中には液体が入っているようだ。水だろうか?
そしてもう一つの方は……これは、たぶん財布かな。
十円玉っぽい銅の硬貨に百円玉っぽい銀の硬貨がそれぞれ十枚と四枚入っている。五百円か?
もし五百円だとしたら……あまりにも貧乏な気がしなくもないんだが。
そんな事を考えながらも、着替えはしていた。
正直着た事もない服な上に、コスプレか? と思ってしまう様なファンタジーな服装だったが、他に着る物もないのでしょうがない。
というか、そろそろこう……非常識極まりない仮説が頭をちらちらとよぎるのだが……混乱して、のたうち回ったところでそれで何かがどうなるわけでもない。
一応念のため自分の頬をつねって痛みがある事を確認するだけのことはしつつ、俺は革袋を背負い部屋の扉を開ける。
部屋の外も中と変わらぬ木造造りの平凡な廊下だった。
さっきの女の子の声が言ってた食堂がどこかはわからないが、適当に歩いてれば着くんじゃないだろうか。
そんな風に安易に考えて廊下の先にあった階段を降りると……普通にそこが食堂だった。
大き目のテーブルと、それに付随するように並べられた四脚の椅子。
そのセットが五つ程と、厨房との区切りになっているカウンターに椅子が六脚程。
簡素で素朴な感じの大衆食堂といった感じだが、テーブルにそっと飾られた花等が雰囲気をよくしている。
そしてテーブルは三つが埋まっていて、カウンターにも客が一人。
俺は少しだけ迷ったが、カウンター席の方に今いる客と少し離れて腰を下ろした。
「おはようございます、カイトさん。ふふ、昨夜は大丈夫でしたか?」
そして俺に話しかけてきたのは、茶髪を三つ編みにした素朴だが可愛らしい感じの女の子だった。
くりっとした焦げ茶の瞳が、楽しそうに細められている。
声を聴く限り、俺の部屋に声をかけてくれたのはこの子で間違いないようだ。
「えっと、君は………」
「あれ?忘れちゃいました?じゃあ、改めまして」
そういうと少女はコホンと咳払いし、可愛らしい笑顔を浮かべてお辞儀をしてくれる。
「宿場町アリアラの『宿屋メイリーフ』の看板娘、ユリアと申します。よろしくお願いしますお客様」
そんな可愛らしい彼女のその言葉を聞いて、俺は確信した。
この場所は『グリーン・ウッド ファンタジア』のオープニングで旅人である主人公が目覚めるスタート地点。
つまりこれは……異世界転生なのだ!
俺はがばっとその場で、上半身を勢いよく起こした。
俺の手には薄い掛布団の端が握られており、背中は汗でぐっしょりと濡れているようで気持ち悪い。
ベッド……夢?
心臓の鼓動がうるさいほどに、早鐘を打つ。
まずはゆっくり呼吸を整える事から始めよう。
落ち着け、落ち着け俺。
はぁ、はぁ、はぁ…………
ドンドンドン!
「カイトさん! カイトさん、どうかしましたか!」
びくぅっ!
ドアの激しいノックと声に、俺は体をびくっと震わせた。
せ、せっかくちょっと呼吸が整ってきたのに!
っていうか、誰!
「え、えっと、大丈夫、です。ちょっとものすごい悪夢を見ただけで…!」
「そうなんですか…あ~、びっくりしたぁ」
扉の向こうから聞こえる声に俺は聞き覚えはない。
声の主は女性のようだが、声は若々しい。
俺の家で女性といえば母親だけで、後は俺と父親と弟だけだし……
「とにかくっ、特に問題ないならもうすぐ朝ごはんの時間なんで食堂まで下りてきてくださいね」
それだけ言い残すと、声の主は足音とともに扉の前から離れていったようだ。
「何がどうなってるんだ……っていうか、まずここはどこなんだ?」
周囲を見回すが、部屋は俺の知らない部屋だった。
木製だろう壁は少し古くなっているようだ。
室内には質素なベッドに小さな木のテーブルと椅子が一脚、後は服を入れるクローゼットが一つという所だ。
俺は自分の体を見下ろしてみるが、今の服装は肌着にパンツのみというラフを通り越して「せめて寝間着ぐらい着ろよ!」という格好だった。
あれ? っていうか、俺の体ってこんなにスラっとした感じだったっけ?
……まぁ、いいか。
朝ごはんがとか言ってたし、ややこしい事を考えるのはその後でいいか。
そう思ってベッドから床に足をつけると、少しだけ砂っぽい感触がした。
「ん?掃除が行き届いてないとかか?」
足元に目をやると、そうではないことが分かった。
明らかに外で使うものであろう靴が、ベッドの横に置かれていたのだ。
まさかの外国スタイル!
俺は戸惑いながらも靴を履いてクローゼットまで行くと、その扉を開いた。
中には男物と思われる服一式とリュックのような革の背負いカバンが置いてあった。
一瞬俺が買い物に使っていた愛用のリュックかと思ったが、このリュックは革で出来た袋に背負い紐をつけただけの簡素なものだった。
中にも大したものは入っていない。
触っただけで硬さの解りそうな黒っぽいフランスパンみたいな物が二個と、小さな瓶に入った緑の液体が二本。そして小分けにした小さな袋が二つに、小さめのコンパスっぽい物。
袋の一つは口に栓が刺さっていて、中には液体が入っているようだ。水だろうか?
そしてもう一つの方は……これは、たぶん財布かな。
十円玉っぽい銅の硬貨に百円玉っぽい銀の硬貨がそれぞれ十枚と四枚入っている。五百円か?
もし五百円だとしたら……あまりにも貧乏な気がしなくもないんだが。
そんな事を考えながらも、着替えはしていた。
正直着た事もない服な上に、コスプレか? と思ってしまう様なファンタジーな服装だったが、他に着る物もないのでしょうがない。
というか、そろそろこう……非常識極まりない仮説が頭をちらちらとよぎるのだが……混乱して、のたうち回ったところでそれで何かがどうなるわけでもない。
一応念のため自分の頬をつねって痛みがある事を確認するだけのことはしつつ、俺は革袋を背負い部屋の扉を開ける。
部屋の外も中と変わらぬ木造造りの平凡な廊下だった。
さっきの女の子の声が言ってた食堂がどこかはわからないが、適当に歩いてれば着くんじゃないだろうか。
そんな風に安易に考えて廊下の先にあった階段を降りると……普通にそこが食堂だった。
大き目のテーブルと、それに付随するように並べられた四脚の椅子。
そのセットが五つ程と、厨房との区切りになっているカウンターに椅子が六脚程。
簡素で素朴な感じの大衆食堂といった感じだが、テーブルにそっと飾られた花等が雰囲気をよくしている。
そしてテーブルは三つが埋まっていて、カウンターにも客が一人。
俺は少しだけ迷ったが、カウンター席の方に今いる客と少し離れて腰を下ろした。
「おはようございます、カイトさん。ふふ、昨夜は大丈夫でしたか?」
そして俺に話しかけてきたのは、茶髪を三つ編みにした素朴だが可愛らしい感じの女の子だった。
くりっとした焦げ茶の瞳が、楽しそうに細められている。
声を聴く限り、俺の部屋に声をかけてくれたのはこの子で間違いないようだ。
「えっと、君は………」
「あれ?忘れちゃいました?じゃあ、改めまして」
そういうと少女はコホンと咳払いし、可愛らしい笑顔を浮かべてお辞儀をしてくれる。
「宿場町アリアラの『宿屋メイリーフ』の看板娘、ユリアと申します。よろしくお願いしますお客様」
そんな可愛らしい彼女のその言葉を聞いて、俺は確信した。
この場所は『グリーン・ウッド ファンタジア』のオープニングで旅人である主人公が目覚めるスタート地点。
つまりこれは……異世界転生なのだ!
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