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第1章『聖霊樹の巫女』
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「はいよ、お待ちどう!」
異世界転生の確信に改めて呆然としていた俺の耳に威勢の良い声が飛び込んできた。
そしてそんな俺の目の前にドンっといくつかのお皿が置かれた。
俺の正面の机には俺のよく知る色をした、やっぱりフランスパンめいたパン。
目玉焼きに生野菜のサラダと、野菜とソーセージが入ったスープが置かれていた。
飲み物はよく冷えたミルクだった。
異世界転生物のラノベは俺もそこそこ読んでいるが、どうやら俺が転生してきたこの『グリーン・ウッド ファンタジア』の世界はメシマズの世界じゃないらしい。
いや、見ただけで食べてはないが、これだけ見目がよくていい匂いをさせているならマズイという事もないだろう。
多少ドキドキしながらも口に運んだ料理は……問題なく美味しかった。
「カイトさんはこれからどこへ行かれる予定なんですか?」
「ん、そうだなぁ……」
ユリアに尋ねられて俺は少しだけ考える。
正直何かあてがあるわけじゃない。
例えば俺がこの世界に赤ん坊から生まれ直したとか、そういう転生なら何かしらの目的のようなものを持っていたかもしれない。
けれど実際には、気が付いたらこの宿屋メイリーフのベッドの上だった。
つまりいきなりこの世界に放り込まれたも同然なのだ。
現実……というか、元の世界については……いろいろ思う所はあるが、今は考えないことにする。
トラックにはねられた俺は……おそらく死んでいるだろう。
だから今はこの世界での、これからの身の振り方を考える時なのだ。
ゲームでは……どうだっただろう?
確かこの後は冒険者になるために冒険者ギルドの本部がある、この国の首都レイバーンを目指して馬車に乗るはずだ。
そしてそこでチュートリアルとして冒険者養成コースを三日ほど受講して、最終試験を受けてから冒険者カードを発行してもらい、晴れてそこからゲームはスタートするのだ。
どのみち今の俺には他に何か目的らしい目的もない。
今はこのままゲームの流れに乗っかってみてもいいだろう。
ひょっとしたらゲームで鍛えまくった俺のキャラクター『カイト=インディナル』の能力を引き継いでいて、強くてニューゲーム!
……なんて事もあるかもしれない。
うんうん、そう考えたらこの世界に転生したのも悪くない気がしてきたぞ。
「実は冒険者になろうと思っていてね。首都のレイバーンに行こうと思ってるんだ」
「じゃあ、馬車がいいと思いますよ。町の北門の辺りから馬車が出てますから」
「そうなんだ。いくらぐらいするのかな?」
ゲームではそこは演出だったから、所持金は減ってなかったと思うんだが……
「えーっと、確か首都までは銀貨1枚だったと思いますよ」
……そんな甘い話はなかったか。
けれど、一応俺の財布には銀貨と銅貨がいくつか入っている。
馬車で移動するぐらいはきっと問題ない……はず。
「ありがとう。じゃあご飯を食べたら行ってみることにするよ」
「はい。それじゃあ、冒険者にまたここに泊まりに来てくださいね。応援してますから」
ユリアはそう言ってニコリとほほ笑んだ。
さりげなく営業を入れてくる商売根性は、素直にすごいなと思ってしまうのだった。
「いててて……結構馬車ってのは揺れるもんなんだな」
宿屋メイリーフを出て北門の馬車乗り場から、首都レイバーンまでおよそ3時間の馬車旅だった。
俺の外にもお客はいたが家族連れと冒険者らしい二人組だけで、俺のように一人での利用客も居なかった為道中特に会話があった訳でもなかった。
というか俺ってあんまり社交的な方じゃないから、こういう時あんまり自分から話しかけられないんだよなぁ。
暇つぶしになる本なんかもないし、最初の頃はのんびり景色を見てののどかな旅路だったが……途中からは完全に、揺れる座席からのお尻への攻撃に耐え忍ぶ旅になっていた。
尻が腫れてなければいいんだけどな……
馬車は外壁の前の停留所で、お客である俺達を全員降車させる。
馬車にお客を乗せたまま町に入っていかないのは、一応外壁の門で検問があるからだろう。
さすがに首都の様な大きな町なら、犯罪者なんかが入ってこないように検問があるというのも頷ける。
とはいえよく解っていない俺は、何食わぬ顔で一緒に乗り合わせた家族連れや冒険者が向かう方へ後ろから一緒に歩いていく。
そうして彼らの手続きが終わり、ついに俺の順番になった。
「はい、それでは身分を証明できるものは何かありますか?」
衛兵の青年がそう尋ねてくるが、残念ながら俺には身分証のようなものは無い。
冒険者になれれば冒険者カードが配られてそれが身分証になるだろうが、現時点では俺は身分証を持たないただの怪しい男Aだ。
「カイト=インディナルといいます。残念ながら、身分証は持っていません。冒険者になる為に首都の冒険者ギルド本部で冒険者養成コースを受けようと思いやってきたのですが……」
俺は衛兵の青年に名前と目的を告げ、腰を低くいかに怪しい存在ではないかという部分をアピールする。
まずはここで信用を得なければ、街にも入れないかもしれない。
「解りました。それではすみませんが……こちらの水晶球に手を置いて頂いて宜しいですか?」
そう言って衛兵が机の上に出してきたのは、何の変哲もなさそうな透明な水晶玉だった。
「ひょっとして、これで犯罪履歴とかそういうのが解ったりするんでしょうか?」
「そうです。身分証をお持ちでない方は、必ずこの水晶玉で犯罪の有無を調べる事になっています。ご了承ください」
さすがは剣も魔法も存在するファンタジーだ。
こういうものがあれば、俺のように身分証がなくてもある程度の信頼は得られるというわけだ。
俺は特に抵抗することもなく、水晶玉に手を置いた。
すると水晶玉は淡い青色に発光する。
「犯罪歴はないようですね。それでは、入国に辺り銀貨1枚頂きますが宜しいですか?」
う、ここでもお金がかかるのか……
まぁ、でも仕方ないか。
俺は財布から銀貨を取り出すと、衛兵に手渡した。
「確かに。それではこちら旅人用の入国パスになります。このパスで1か月までの滞在が可能です。1か月を過ぎると不法入国扱いになりますので、気を付けてください。延長の場合や市民登録や冒険者登録などの身分証が発行された場合には、再手続を行ってください。窓口は……」
ファンタジーってこういうのはもっとあいまいだと思ってたんだが……意外としっかりしてるんだなぁ。
そんな事を考えつつ衛兵の青年から説明を一通り受けた後、俺は冒険者ギルド本部の場所だけ尋ねて首都レイバーンへと足を踏み入れた。
異世界転生の確信に改めて呆然としていた俺の耳に威勢の良い声が飛び込んできた。
そしてそんな俺の目の前にドンっといくつかのお皿が置かれた。
俺の正面の机には俺のよく知る色をした、やっぱりフランスパンめいたパン。
目玉焼きに生野菜のサラダと、野菜とソーセージが入ったスープが置かれていた。
飲み物はよく冷えたミルクだった。
異世界転生物のラノベは俺もそこそこ読んでいるが、どうやら俺が転生してきたこの『グリーン・ウッド ファンタジア』の世界はメシマズの世界じゃないらしい。
いや、見ただけで食べてはないが、これだけ見目がよくていい匂いをさせているならマズイという事もないだろう。
多少ドキドキしながらも口に運んだ料理は……問題なく美味しかった。
「カイトさんはこれからどこへ行かれる予定なんですか?」
「ん、そうだなぁ……」
ユリアに尋ねられて俺は少しだけ考える。
正直何かあてがあるわけじゃない。
例えば俺がこの世界に赤ん坊から生まれ直したとか、そういう転生なら何かしらの目的のようなものを持っていたかもしれない。
けれど実際には、気が付いたらこの宿屋メイリーフのベッドの上だった。
つまりいきなりこの世界に放り込まれたも同然なのだ。
現実……というか、元の世界については……いろいろ思う所はあるが、今は考えないことにする。
トラックにはねられた俺は……おそらく死んでいるだろう。
だから今はこの世界での、これからの身の振り方を考える時なのだ。
ゲームでは……どうだっただろう?
確かこの後は冒険者になるために冒険者ギルドの本部がある、この国の首都レイバーンを目指して馬車に乗るはずだ。
そしてそこでチュートリアルとして冒険者養成コースを三日ほど受講して、最終試験を受けてから冒険者カードを発行してもらい、晴れてそこからゲームはスタートするのだ。
どのみち今の俺には他に何か目的らしい目的もない。
今はこのままゲームの流れに乗っかってみてもいいだろう。
ひょっとしたらゲームで鍛えまくった俺のキャラクター『カイト=インディナル』の能力を引き継いでいて、強くてニューゲーム!
……なんて事もあるかもしれない。
うんうん、そう考えたらこの世界に転生したのも悪くない気がしてきたぞ。
「実は冒険者になろうと思っていてね。首都のレイバーンに行こうと思ってるんだ」
「じゃあ、馬車がいいと思いますよ。町の北門の辺りから馬車が出てますから」
「そうなんだ。いくらぐらいするのかな?」
ゲームではそこは演出だったから、所持金は減ってなかったと思うんだが……
「えーっと、確か首都までは銀貨1枚だったと思いますよ」
……そんな甘い話はなかったか。
けれど、一応俺の財布には銀貨と銅貨がいくつか入っている。
馬車で移動するぐらいはきっと問題ない……はず。
「ありがとう。じゃあご飯を食べたら行ってみることにするよ」
「はい。それじゃあ、冒険者にまたここに泊まりに来てくださいね。応援してますから」
ユリアはそう言ってニコリとほほ笑んだ。
さりげなく営業を入れてくる商売根性は、素直にすごいなと思ってしまうのだった。
「いててて……結構馬車ってのは揺れるもんなんだな」
宿屋メイリーフを出て北門の馬車乗り場から、首都レイバーンまでおよそ3時間の馬車旅だった。
俺の外にもお客はいたが家族連れと冒険者らしい二人組だけで、俺のように一人での利用客も居なかった為道中特に会話があった訳でもなかった。
というか俺ってあんまり社交的な方じゃないから、こういう時あんまり自分から話しかけられないんだよなぁ。
暇つぶしになる本なんかもないし、最初の頃はのんびり景色を見てののどかな旅路だったが……途中からは完全に、揺れる座席からのお尻への攻撃に耐え忍ぶ旅になっていた。
尻が腫れてなければいいんだけどな……
馬車は外壁の前の停留所で、お客である俺達を全員降車させる。
馬車にお客を乗せたまま町に入っていかないのは、一応外壁の門で検問があるからだろう。
さすがに首都の様な大きな町なら、犯罪者なんかが入ってこないように検問があるというのも頷ける。
とはいえよく解っていない俺は、何食わぬ顔で一緒に乗り合わせた家族連れや冒険者が向かう方へ後ろから一緒に歩いていく。
そうして彼らの手続きが終わり、ついに俺の順番になった。
「はい、それでは身分を証明できるものは何かありますか?」
衛兵の青年がそう尋ねてくるが、残念ながら俺には身分証のようなものは無い。
冒険者になれれば冒険者カードが配られてそれが身分証になるだろうが、現時点では俺は身分証を持たないただの怪しい男Aだ。
「カイト=インディナルといいます。残念ながら、身分証は持っていません。冒険者になる為に首都の冒険者ギルド本部で冒険者養成コースを受けようと思いやってきたのですが……」
俺は衛兵の青年に名前と目的を告げ、腰を低くいかに怪しい存在ではないかという部分をアピールする。
まずはここで信用を得なければ、街にも入れないかもしれない。
「解りました。それではすみませんが……こちらの水晶球に手を置いて頂いて宜しいですか?」
そう言って衛兵が机の上に出してきたのは、何の変哲もなさそうな透明な水晶玉だった。
「ひょっとして、これで犯罪履歴とかそういうのが解ったりするんでしょうか?」
「そうです。身分証をお持ちでない方は、必ずこの水晶玉で犯罪の有無を調べる事になっています。ご了承ください」
さすがは剣も魔法も存在するファンタジーだ。
こういうものがあれば、俺のように身分証がなくてもある程度の信頼は得られるというわけだ。
俺は特に抵抗することもなく、水晶玉に手を置いた。
すると水晶玉は淡い青色に発光する。
「犯罪歴はないようですね。それでは、入国に辺り銀貨1枚頂きますが宜しいですか?」
う、ここでもお金がかかるのか……
まぁ、でも仕方ないか。
俺は財布から銀貨を取り出すと、衛兵に手渡した。
「確かに。それではこちら旅人用の入国パスになります。このパスで1か月までの滞在が可能です。1か月を過ぎると不法入国扱いになりますので、気を付けてください。延長の場合や市民登録や冒険者登録などの身分証が発行された場合には、再手続を行ってください。窓口は……」
ファンタジーってこういうのはもっとあいまいだと思ってたんだが……意外としっかりしてるんだなぁ。
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