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第1章『聖霊樹の巫女』
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こうして生まれた『グリーンウッド・ファンタジア』は多くの人たちが遊ぶ結果となったが、中々神のお眼鏡にかなう様な魂の持ち主は現れなかったらしい。
ちなみに輪廻士という職業は佐藤さん以外のごく普通のクリエイターさんが追加した職業らしい。
ゲームである以上、集金は必須なわけで……その辺りをあまり考えていなかった佐藤さんのそういう部分を埋めるために追加された設定だったんだそうだ。
なるほど、だから輪廻士という職業は世界的に認知されていなかった……というか、存在すらしなかったのか。
だけどこれは佐藤さんにとっても良い結果をもたらした。
輪廻士のプレイヤーの方が、普通にプレイしている無課金プレイヤーよりも明らかに魂の都合がよかったらしい。
都合がいい等というとあくどい感じになるが、要するに世界に適合できてかつ世界樹を癒せる可能性のある魂という条件に近いものが多かったという事だ。
単純に世界への適合性だけを見るなら、無課金プレイヤーの方が高かったらしい。
まぁ、本来のその世界にある職業で遊んでいるんだから、適合性が高いのは当然だ。
けれど、世界樹が望んだのは彼の生み出した物ではない存在による癒しの力なのだ。
世界に存在しない職業、輪廻士にはその可能性が強く表れていたという。
そしてその中でも特に適合性の強かったのが、俺だという事だ。
「けれど、本当はもっと穏便な形で招こうと思っていたんだよ。あの世界に存在する事になったおかげで、いろんな創作物を見てきたけれど多くの創作の異世界物は二度と帰れなかったり、意思を確認する事もなく突発的に連れ去ったりするよね。でも僕はそんなつもりはなかった。ちゃんと説明をして、了承を得てきてもらうつもりだったし、もちろん望めばいつでも帰してあげるつもりだった。」
そうだ、あの世界には佐藤さんがいるのだから、佐藤さんが全てを俺に説明して……という事も可能だったはずなのだ。
だけど、それができなかった。
つまり、そうできない事情ができてしまったのだ。
それがあの、俺の交通事故だった。
そう、あの交通事故は本当にただの偶然、完全な俺個人の不注意で起きた出来事だった。
『注意一秒、怪我一生』
そんな標語だか何だかをどこかで聞いた気がしたが、本当にまさにその通りだった。
最も一生どころか、それで死んでしまったわけだが。
とにもかくにも、俺が死んでしまった事により佐藤さんは大慌てだ。
何しろ俺を説得しようにも、俺が死んでしまっていたのでは説得の方法が全くなくなってしまうのだから。
このままでは一番可能性の高い魂である俺は、元の世界で輪廻の輪の中に取り込まれてしまう所だったらしい。
そうなってしまうと、もう一度俺の魂を見つけ出すというのは、かなり不可能に近い事だったそうだ。
だから、時間的な余裕は一切なく、招く準備も何もかもが最低限の状態で俺の魂が輪廻の輪に連なる前に強引に転生させたという事らしい。
そしてそのせいで世界樹やその聖霊、創造神ランカスターにも佐藤さんにも大きな負担を与えてしまい、世界の聖霊樹は力を失い始め、俺への連絡手段もなくなってしまったとの事だ。
これが俺がこの世界に転生する事になった、あらましらしい。
「さて、お願いしてきてもらった訳ではない以上、僕としてはむしろ今から君にお願いする立場なわけだ。それも元の世界の輪廻から無理やり引っ張ってくるなんて強引で無礼を働いた立場でだ。それでも……お願いしたいんだ」
そういうと佐藤さんは椅子から立ち上がり、どのあたりが地面かもわからない空間でそのまま俺に向かって深々と、土下座した。
「どうか僕を……この世界を救ってほしいんだ」
俺はさっきまでの光景を頭に思い浮かべる。
リーフィアは頑張って聖霊樹を治療していた。
けれど、彼女の能力的に彼女だけでは治療が難しかったのは事実だ。
それを、俺はなりふり構わず助けた。
そこには、計算も打算もなかった。
つまり俺の中には、聖霊樹を、この世界を救いたい気持ちが確かにあるのだ。
いや、世界ではなくリーフィアを、か?
とにかくとにかく!
俺はこの世界に転生して、ずっと繰り返し自分に言い聞かせていたじゃあないか。
これはゲームではない『現実』なのだ、と。
なら、答えは一つだった。
眩い光が消えてなくなれば、そこには神秘的という表現がぴったりくるような大樹がそびえたっていた。
その大樹……聖霊樹の様子にレイオス王子もニルヴィナもリーフィアもが心ここにあらずといった様子で眺めていた。
もちろん俺もだ。
でも、俺の場合はほんの少しだけ違う。
神に、会ったのだ。
『現実』ではほとんど時間は経過していないようだが、俺は間違いなくこの一瞬で神と邂逅し、俺の転生理由を聞き、そしてお願いを受けてそれを……引き受けたのだ。
まずはレイオス王子から色々と情報を収集するべきだろう。
そしてエミリオ達と合流し、ギルドマスターに報告する。
それからはきっと世界をめぐる冒険になるだろう。
俺はきっとこれからも大切な相棒になってくれるだろう、リーフィアの手に自分の手を重ねた。
リーフィアは一瞬驚いたような視線をこちらに向けてきたが、すぐにふわりと優しげな微笑みを返してくれた。
こんな事を口にしてしまうと、まるで打ち切り漫画みたいな気分になって微妙だが、まさにこれこそが今の俺の中にある感情だった。
俺たちの冒険は、これからなのだ!
ちなみに輪廻士という職業は佐藤さん以外のごく普通のクリエイターさんが追加した職業らしい。
ゲームである以上、集金は必須なわけで……その辺りをあまり考えていなかった佐藤さんのそういう部分を埋めるために追加された設定だったんだそうだ。
なるほど、だから輪廻士という職業は世界的に認知されていなかった……というか、存在すらしなかったのか。
だけどこれは佐藤さんにとっても良い結果をもたらした。
輪廻士のプレイヤーの方が、普通にプレイしている無課金プレイヤーよりも明らかに魂の都合がよかったらしい。
都合がいい等というとあくどい感じになるが、要するに世界に適合できてかつ世界樹を癒せる可能性のある魂という条件に近いものが多かったという事だ。
単純に世界への適合性だけを見るなら、無課金プレイヤーの方が高かったらしい。
まぁ、本来のその世界にある職業で遊んでいるんだから、適合性が高いのは当然だ。
けれど、世界樹が望んだのは彼の生み出した物ではない存在による癒しの力なのだ。
世界に存在しない職業、輪廻士にはその可能性が強く表れていたという。
そしてその中でも特に適合性の強かったのが、俺だという事だ。
「けれど、本当はもっと穏便な形で招こうと思っていたんだよ。あの世界に存在する事になったおかげで、いろんな創作物を見てきたけれど多くの創作の異世界物は二度と帰れなかったり、意思を確認する事もなく突発的に連れ去ったりするよね。でも僕はそんなつもりはなかった。ちゃんと説明をして、了承を得てきてもらうつもりだったし、もちろん望めばいつでも帰してあげるつもりだった。」
そうだ、あの世界には佐藤さんがいるのだから、佐藤さんが全てを俺に説明して……という事も可能だったはずなのだ。
だけど、それができなかった。
つまり、そうできない事情ができてしまったのだ。
それがあの、俺の交通事故だった。
そう、あの交通事故は本当にただの偶然、完全な俺個人の不注意で起きた出来事だった。
『注意一秒、怪我一生』
そんな標語だか何だかをどこかで聞いた気がしたが、本当にまさにその通りだった。
最も一生どころか、それで死んでしまったわけだが。
とにもかくにも、俺が死んでしまった事により佐藤さんは大慌てだ。
何しろ俺を説得しようにも、俺が死んでしまっていたのでは説得の方法が全くなくなってしまうのだから。
このままでは一番可能性の高い魂である俺は、元の世界で輪廻の輪の中に取り込まれてしまう所だったらしい。
そうなってしまうと、もう一度俺の魂を見つけ出すというのは、かなり不可能に近い事だったそうだ。
だから、時間的な余裕は一切なく、招く準備も何もかもが最低限の状態で俺の魂が輪廻の輪に連なる前に強引に転生させたという事らしい。
そしてそのせいで世界樹やその聖霊、創造神ランカスターにも佐藤さんにも大きな負担を与えてしまい、世界の聖霊樹は力を失い始め、俺への連絡手段もなくなってしまったとの事だ。
これが俺がこの世界に転生する事になった、あらましらしい。
「さて、お願いしてきてもらった訳ではない以上、僕としてはむしろ今から君にお願いする立場なわけだ。それも元の世界の輪廻から無理やり引っ張ってくるなんて強引で無礼を働いた立場でだ。それでも……お願いしたいんだ」
そういうと佐藤さんは椅子から立ち上がり、どのあたりが地面かもわからない空間でそのまま俺に向かって深々と、土下座した。
「どうか僕を……この世界を救ってほしいんだ」
俺はさっきまでの光景を頭に思い浮かべる。
リーフィアは頑張って聖霊樹を治療していた。
けれど、彼女の能力的に彼女だけでは治療が難しかったのは事実だ。
それを、俺はなりふり構わず助けた。
そこには、計算も打算もなかった。
つまり俺の中には、聖霊樹を、この世界を救いたい気持ちが確かにあるのだ。
いや、世界ではなくリーフィアを、か?
とにかくとにかく!
俺はこの世界に転生して、ずっと繰り返し自分に言い聞かせていたじゃあないか。
これはゲームではない『現実』なのだ、と。
なら、答えは一つだった。
眩い光が消えてなくなれば、そこには神秘的という表現がぴったりくるような大樹がそびえたっていた。
その大樹……聖霊樹の様子にレイオス王子もニルヴィナもリーフィアもが心ここにあらずといった様子で眺めていた。
もちろん俺もだ。
でも、俺の場合はほんの少しだけ違う。
神に、会ったのだ。
『現実』ではほとんど時間は経過していないようだが、俺は間違いなくこの一瞬で神と邂逅し、俺の転生理由を聞き、そしてお願いを受けてそれを……引き受けたのだ。
まずはレイオス王子から色々と情報を収集するべきだろう。
そしてエミリオ達と合流し、ギルドマスターに報告する。
それからはきっと世界をめぐる冒険になるだろう。
俺はきっとこれからも大切な相棒になってくれるだろう、リーフィアの手に自分の手を重ねた。
リーフィアは一瞬驚いたような視線をこちらに向けてきたが、すぐにふわりと優しげな微笑みを返してくれた。
こんな事を口にしてしまうと、まるで打ち切り漫画みたいな気分になって微妙だが、まさにこれこそが今の俺の中にある感情だった。
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