Liebe

花月小鞠

文字の大きさ
26 / 52

第二十五話「思い出」

しおりを挟む


エリーはアンナとお茶をしていた。先程まで、二人で買い物をしていたのだ。目の前にはケーキとカフェオレ。リヒトはエリーのケーキをご機嫌で頬張っている。ちなみに、リザのお店ではない。

「あら、それでこの指輪をもらったの?」

「はい」

「やるわねぇ、お兄ちゃん」

アンナは豪快に笑って、そして指輪を手に持ちじっくりと眺める。ウィリアムにもらった指輪を、アンナに見せているのだ。

「これ……」

「宝石、ですか? 私の瞳の色と、同じみたいなんです」

嬉しそうに微笑んで言うエリー。アンナは驚いたように蜂蜜色の宝石を凝視する。

「ウィルも気の利く男になったのねぇ」

楽しそうに言って、アンナは微笑む。

「エリーは水色が好きなのにね」

「はい?」

「ううん。これって、なんでネックレスにしてるの? 指輪じゃダメなの?」

「私にもよくわからないんですが……」

エリーは不安そうに瞳を揺らしながら、アンナの手にある指輪を見つめる。

「……指輪じゃなくてよかったような気がするんです」

「へぇー……?」

よくわかっていないような顔でアンナが返す。エリーが目を伏せると、リヒトはアンナの持っている指輪に向かって突進した。

「あっ」

アンナが思わず声を上げる。指輪がぽろっとテーブルの上に転がり落ちたのだ。

「ごめん。落としちゃって」

「い、いいですよ。大丈夫です」

リヒトの仕業だと分かっているエリーは慌てたように答え、曖昧に笑った。

「ウィルとのデート、どこ行ったの?」

「えっと、街の噴水や、風車に行きました」

「そんないつでも行けるような所行ったの?」

「私がお願いしたんです。本の舞台になっている場所に行きたいって」

「なるほどねぇ。それは確かに魅力的かも」

そう言ってアンナが豪快に笑う。

「……なんだか妬けちゃうわね」

「……どうしてですか?」

しみじみ言うアンナに、エリーは尋ねる。アンナは優しい目をして柔らかく微笑んだ。

「実はね、私、昔ウィルと付き合ってたのよ」

「え、そうなんですか?」

「そうそう。学生時代にね」

エリーはおそるおそるといった様子で聞く。

「今もお付き合いされてるんですか?」

「いいえ。お付き合いされてないわよ」

そう言ってアンナはふふっと笑う。

「あの……どうして……」

言いづらそうにしているエリーを見て、アンナが悪戯っぽく笑う。

「どうして別れたのか、ってこと?」

「……はい」

アンナは悩むようにして目を伏せ、そして困ったような顔をした。

「うーん……実はね、ウィルと付き合ってる時、ダニーに告白されたのよ」

「ダニエルさんにですか?」

「そう。ダニーはウィルにとって大事な友人だし、二人は私にとって大事な幼馴染だしって考えたら、まずいって思っちゃってね」

「そうなんですか……」

「だから全てなかったことにしたの。ダニーにもちゃんと話して、ウィルとは別れて、全部元通り、幼なじみの関係」

「元通り……ですか」

「……そうね。全部元通りになんて、なるわけないのにね。若かったわ、私」

そう言ってアンナは切なそうに笑う。

「ウィルのことは、子供の頃から好きでね。告白も私からだったし、愛されてる実感が全くなかったっていうのも別れた理由の一つだったかも知れないわ」

「そう、ですか……」

「でも別れ話をした時、初めてウィルの辛そうな顔が見れたの。正直、予想外過ぎてどうしていいかわからなかった」

「別れてしまって、よかったんですか……?」

エリーが真剣な顔で聞く。アンナは、嬉しそうに口角を上げた。

「そうね。こんな気の利くいい男になるって知ってたら、別れない方がよかったかも」

困ったような顔をするエリーに、アンナは「冗談よ」と言って笑う。

「……今でも、ウィリアムさんのことは好きですか?」

エリーの質問に、アンナはふわりと微笑む。エリーの瞳が、再び不安げに揺れた。

「……なーんてね。気付いてなかったとは思ってたけど、そんなことを聞かれるとは思ってなかったわ」

そう言ってアンナは左手をエリーに見せる。不思議そうにその手を見ると、薬指に光る指輪の姿を見つけた。

「あっ」

「ふふ、結婚してるのよ、私。こう見えて結構幸せなの」

そう言ってアンナはまた悪戯っぽく笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

処理中です...