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第二十五話「思い出」
しおりを挟むエリーはアンナとお茶をしていた。先程まで、二人で買い物をしていたのだ。目の前にはケーキとカフェオレ。リヒトはエリーのケーキをご機嫌で頬張っている。ちなみに、リザのお店ではない。
「あら、それでこの指輪をもらったの?」
「はい」
「やるわねぇ、お兄ちゃん」
アンナは豪快に笑って、そして指輪を手に持ちじっくりと眺める。ウィリアムにもらった指輪を、アンナに見せているのだ。
「これ……」
「宝石、ですか? 私の瞳の色と、同じみたいなんです」
嬉しそうに微笑んで言うエリー。アンナは驚いたように蜂蜜色の宝石を凝視する。
「ウィルも気の利く男になったのねぇ」
楽しそうに言って、アンナは微笑む。
「エリーは水色が好きなのにね」
「はい?」
「ううん。これって、なんでネックレスにしてるの? 指輪じゃダメなの?」
「私にもよくわからないんですが……」
エリーは不安そうに瞳を揺らしながら、アンナの手にある指輪を見つめる。
「……指輪じゃなくてよかったような気がするんです」
「へぇー……?」
よくわかっていないような顔でアンナが返す。エリーが目を伏せると、リヒトはアンナの持っている指輪に向かって突進した。
「あっ」
アンナが思わず声を上げる。指輪がぽろっとテーブルの上に転がり落ちたのだ。
「ごめん。落としちゃって」
「い、いいですよ。大丈夫です」
リヒトの仕業だと分かっているエリーは慌てたように答え、曖昧に笑った。
「ウィルとのデート、どこ行ったの?」
「えっと、街の噴水や、風車に行きました」
「そんないつでも行けるような所行ったの?」
「私がお願いしたんです。本の舞台になっている場所に行きたいって」
「なるほどねぇ。それは確かに魅力的かも」
そう言ってアンナが豪快に笑う。
「……なんだか妬けちゃうわね」
「……どうしてですか?」
しみじみ言うアンナに、エリーは尋ねる。アンナは優しい目をして柔らかく微笑んだ。
「実はね、私、昔ウィルと付き合ってたのよ」
「え、そうなんですか?」
「そうそう。学生時代にね」
エリーはおそるおそるといった様子で聞く。
「今もお付き合いされてるんですか?」
「いいえ。お付き合いされてないわよ」
そう言ってアンナはふふっと笑う。
「あの……どうして……」
言いづらそうにしているエリーを見て、アンナが悪戯っぽく笑う。
「どうして別れたのか、ってこと?」
「……はい」
アンナは悩むようにして目を伏せ、そして困ったような顔をした。
「うーん……実はね、ウィルと付き合ってる時、ダニーに告白されたのよ」
「ダニエルさんにですか?」
「そう。ダニーはウィルにとって大事な友人だし、二人は私にとって大事な幼馴染だしって考えたら、まずいって思っちゃってね」
「そうなんですか……」
「だから全てなかったことにしたの。ダニーにもちゃんと話して、ウィルとは別れて、全部元通り、幼なじみの関係」
「元通り……ですか」
「……そうね。全部元通りになんて、なるわけないのにね。若かったわ、私」
そう言ってアンナは切なそうに笑う。
「ウィルのことは、子供の頃から好きでね。告白も私からだったし、愛されてる実感が全くなかったっていうのも別れた理由の一つだったかも知れないわ」
「そう、ですか……」
「でも別れ話をした時、初めてウィルの辛そうな顔が見れたの。正直、予想外過ぎてどうしていいかわからなかった」
「別れてしまって、よかったんですか……?」
エリーが真剣な顔で聞く。アンナは、嬉しそうに口角を上げた。
「そうね。こんな気の利くいい男になるって知ってたら、別れない方がよかったかも」
困ったような顔をするエリーに、アンナは「冗談よ」と言って笑う。
「……今でも、ウィリアムさんのことは好きですか?」
エリーの質問に、アンナはふわりと微笑む。エリーの瞳が、再び不安げに揺れた。
「……なーんてね。気付いてなかったとは思ってたけど、そんなことを聞かれるとは思ってなかったわ」
そう言ってアンナは左手をエリーに見せる。不思議そうにその手を見ると、薬指に光る指輪の姿を見つけた。
「あっ」
「ふふ、結婚してるのよ、私。こう見えて結構幸せなの」
そう言ってアンナはまた悪戯っぽく笑った。
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