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ルール改定
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「おぉ、ありがとう、北口さん。下の名前は?」
「春奈です。北口春奈と申します」
「春奈さん、よろしく頼むよ。期待してる。明日とか来月とか言わない。ただ、今日はこの不安な気持ちを聞いてもらいたかっただけなんだ。少し楽になったよ。もし、良い製品が出来た時には春奈さんに紹介して貰いたい」
「ありがとうございます。良い知らせを持って来れるように致します。これからもよろしくお願い致します」
どこか関さんの瞳には涙のようなものが滲んでいるようにも見えた。
林さんと二人で深くお辞儀をして、お店を出た。帰りの車では林さんは一向に話をする様子もない。
「林さん、今日は素敵な機会をどうもありがとうございました。お陰でずっと考えていた答えが見つかるような気がしています」
「いいね、その調子」このいいねだけは少し嬉しかった。会社に帰った頃に、社長に着信があった。
「それで社長、二ヶ月後のスケジュールなんですが」
「おぉ、すまない。ちょっと席を外してくれ」
そう言われて立見常務は頭を下げて、社長室を後にした。
「もしもし、いちくんか?」
「おぉ、懐かしいなぁ関君か。いつもありがとなぁ」
「いやいや、こちらの方だよ。今日は娘さん、えっと」
「春奈か?」
「そうそう春奈さん。前会った時はあんなに小さかったのに、大きくなって。名刺を貰うまで分からなかったよ」
「ははは、春奈がお邪魔したんだな。世話になったな」
「とんでもないよ。商品について相談したかったから、専門の人を呼んでほしいとお願いしたら、いちくんの娘さんなんだもん、びっくりするよ」
「ごめんな、連絡の一本も入れないで」
「いやいや、それはいんだよ。久々にいちくんの声だけでもと思って電話したんだ」
「ありがとう、それで、春奈はどうだった?」
「どうもなにもやっぱりあんたの娘だよ。ちゃんとしてる。また良い報告をしにお店に来ますって宣言してもらってさ。次来る時はいつもの営業の子じゃなくて、春奈さんがいいよ。って私が介入するところじゃないよな、ごめんごめん」
「いや、関君だからという事はなくて、お客様の希望はなるべく応えていきたい。また検討させてもらうよ。ありがとう」
「ありがとう、それじゃあ」
「あぁ、また」
電話切り、立見常務に内線を入れた。
「あぁ、私だ。来れるか」電話を切ると直ぐに立見常務が入ってきた。
「失礼します。社長、すみませんお忙しい時に」
「いや、いいんだ。旧友でな、ほら、取引先に関呉服店があるだろ?そこからなんだよ、私の同級生がやっててな」
「それは良いですね」
「あぁ、それで製造スケジュールだったよな?」
「はい、二ヶ月後のスケジュールです」いつものフォーマットにズラズラと数字が並んでいる。
「よし、分かった。これで行こう。問題ない。立見よ、お前はここに来て何年になる」
「はい、二年になります」
「そうか、この会社はどう映ってるんだ?」
「そうですね、良い意味でも悪い意味でも安定していると思います」
「つまりどういう事だ」
「はい、よく言えば会社の基盤があるので、組織としてよくまとまっていると思います」
「ほぉ、悪い意味は何だ」
「はい、組織化出来ているからこそ、個人プレーをしてしまうと良くも悪くも目立ってしまいますね」
「なるほどな、確かにその通りかもしれんな。私もそれに近いことを考えていてな。いつの間にか波の無い海のように思うんだ」
「といいますと?」
「波がないことはいいことだ。経営も安定はしている。ただ、覇気がないんだよな。無論、俺の責任なんだけどな」
「いえ、そのようなことは」
「そこでだ、関東と春奈が新商品を作ってるだろ?あれは俺が決めようと思っていたんだが、社内全員参加型にしようと思ってる」
「それは新しいですね。ただ、見た目や雰囲気で決まってしまわないでしょうか」
「俺一人が決めるより、過半数を取りに行く方がやりがいがあるだろ?」
「そうですね、私は賛成です」
「そうか、ありがとう。明日の朝礼で私から発表する。そのつもりでいてくれ」
「承知しました。ありがとうございます」一例をして、社長室を後にした。時刻は既に定時を過ぎており、少しずつ帰る人が目立ち始めていた。
「おぉ、春奈さん、お疲れ様。もう帰るところ?」
「はい、もう帰るんですが、社長はお部屋にいらっしゃいますか?」
「うん、今いらっしゃるよ。今なら入っても大丈夫だと思うよ」
「ありがとうございます」ぺこりと頭を下げた後、社長室にノックをした。
「失礼します、春奈です」
「おぉ、入れ」
「失礼します。今日、関呉服店に行ってきたんですけど、社長とお店の関さんがお知り合いでと聞いて、帰る前に一言だけと思って」
「何言ってんだ、お前も知り合いだぞ?」
「え?」
「まぁ、無理もないわな。小さい頃、会ってるんだよ。さっき電話も貰ってな。向こうは覚えてたぞ、お前のこと」
「え、はじめましてって言っちゃいましたよ私。失礼なことを」
「まぁ具体的には何を話したかは知らんが、そんなことはないと思うぞ」
「何か言ってましたか?」
「いや、驚いたとは言ってたけど、まぁそんなところかな」
「そうですか、分かりました。ありがとうございます。今日はお先に失礼します」
「あぁ、気をつけてな」
「はい、失礼しました」
もう少しくらいは褒めて貰えるかなとも思ったけど、直ぐに見当違いだと自分を正した。
頑張りますやります出来ます等、社会人にとっては何の価値もないことはもう分かってくる頃だ。
頑張りました等、微塵の価値もない。
やったこと、更には出来たこと。成果こそが全てなのだから。
ただ、今日の話で七十周年特別記念製品の企画の一筋が見えた気がした。
一度頭を整理すると、明日から提案書が一気に進む気がしてきた。
早く眠りについて、明日を待った。
「おはようございます」いつもの連絡事項や出荷予定等の連絡が今日も続く。
「最後に本日は北口社長から皆さんにお知らせがあります。
北口社長よろしくお願い致します」
「春奈です。北口春奈と申します」
「春奈さん、よろしく頼むよ。期待してる。明日とか来月とか言わない。ただ、今日はこの不安な気持ちを聞いてもらいたかっただけなんだ。少し楽になったよ。もし、良い製品が出来た時には春奈さんに紹介して貰いたい」
「ありがとうございます。良い知らせを持って来れるように致します。これからもよろしくお願い致します」
どこか関さんの瞳には涙のようなものが滲んでいるようにも見えた。
林さんと二人で深くお辞儀をして、お店を出た。帰りの車では林さんは一向に話をする様子もない。
「林さん、今日は素敵な機会をどうもありがとうございました。お陰でずっと考えていた答えが見つかるような気がしています」
「いいね、その調子」このいいねだけは少し嬉しかった。会社に帰った頃に、社長に着信があった。
「それで社長、二ヶ月後のスケジュールなんですが」
「おぉ、すまない。ちょっと席を外してくれ」
そう言われて立見常務は頭を下げて、社長室を後にした。
「もしもし、いちくんか?」
「おぉ、懐かしいなぁ関君か。いつもありがとなぁ」
「いやいや、こちらの方だよ。今日は娘さん、えっと」
「春奈か?」
「そうそう春奈さん。前会った時はあんなに小さかったのに、大きくなって。名刺を貰うまで分からなかったよ」
「ははは、春奈がお邪魔したんだな。世話になったな」
「とんでもないよ。商品について相談したかったから、専門の人を呼んでほしいとお願いしたら、いちくんの娘さんなんだもん、びっくりするよ」
「ごめんな、連絡の一本も入れないで」
「いやいや、それはいんだよ。久々にいちくんの声だけでもと思って電話したんだ」
「ありがとう、それで、春奈はどうだった?」
「どうもなにもやっぱりあんたの娘だよ。ちゃんとしてる。また良い報告をしにお店に来ますって宣言してもらってさ。次来る時はいつもの営業の子じゃなくて、春奈さんがいいよ。って私が介入するところじゃないよな、ごめんごめん」
「いや、関君だからという事はなくて、お客様の希望はなるべく応えていきたい。また検討させてもらうよ。ありがとう」
「ありがとう、それじゃあ」
「あぁ、また」
電話切り、立見常務に内線を入れた。
「あぁ、私だ。来れるか」電話を切ると直ぐに立見常務が入ってきた。
「失礼します。社長、すみませんお忙しい時に」
「いや、いいんだ。旧友でな、ほら、取引先に関呉服店があるだろ?そこからなんだよ、私の同級生がやっててな」
「それは良いですね」
「あぁ、それで製造スケジュールだったよな?」
「はい、二ヶ月後のスケジュールです」いつものフォーマットにズラズラと数字が並んでいる。
「よし、分かった。これで行こう。問題ない。立見よ、お前はここに来て何年になる」
「はい、二年になります」
「そうか、この会社はどう映ってるんだ?」
「そうですね、良い意味でも悪い意味でも安定していると思います」
「つまりどういう事だ」
「はい、よく言えば会社の基盤があるので、組織としてよくまとまっていると思います」
「ほぉ、悪い意味は何だ」
「はい、組織化出来ているからこそ、個人プレーをしてしまうと良くも悪くも目立ってしまいますね」
「なるほどな、確かにその通りかもしれんな。私もそれに近いことを考えていてな。いつの間にか波の無い海のように思うんだ」
「といいますと?」
「波がないことはいいことだ。経営も安定はしている。ただ、覇気がないんだよな。無論、俺の責任なんだけどな」
「いえ、そのようなことは」
「そこでだ、関東と春奈が新商品を作ってるだろ?あれは俺が決めようと思っていたんだが、社内全員参加型にしようと思ってる」
「それは新しいですね。ただ、見た目や雰囲気で決まってしまわないでしょうか」
「俺一人が決めるより、過半数を取りに行く方がやりがいがあるだろ?」
「そうですね、私は賛成です」
「そうか、ありがとう。明日の朝礼で私から発表する。そのつもりでいてくれ」
「承知しました。ありがとうございます」一例をして、社長室を後にした。時刻は既に定時を過ぎており、少しずつ帰る人が目立ち始めていた。
「おぉ、春奈さん、お疲れ様。もう帰るところ?」
「はい、もう帰るんですが、社長はお部屋にいらっしゃいますか?」
「うん、今いらっしゃるよ。今なら入っても大丈夫だと思うよ」
「ありがとうございます」ぺこりと頭を下げた後、社長室にノックをした。
「失礼します、春奈です」
「おぉ、入れ」
「失礼します。今日、関呉服店に行ってきたんですけど、社長とお店の関さんがお知り合いでと聞いて、帰る前に一言だけと思って」
「何言ってんだ、お前も知り合いだぞ?」
「え?」
「まぁ、無理もないわな。小さい頃、会ってるんだよ。さっき電話も貰ってな。向こうは覚えてたぞ、お前のこと」
「え、はじめましてって言っちゃいましたよ私。失礼なことを」
「まぁ具体的には何を話したかは知らんが、そんなことはないと思うぞ」
「何か言ってましたか?」
「いや、驚いたとは言ってたけど、まぁそんなところかな」
「そうですか、分かりました。ありがとうございます。今日はお先に失礼します」
「あぁ、気をつけてな」
「はい、失礼しました」
もう少しくらいは褒めて貰えるかなとも思ったけど、直ぐに見当違いだと自分を正した。
頑張りますやります出来ます等、社会人にとっては何の価値もないことはもう分かってくる頃だ。
頑張りました等、微塵の価値もない。
やったこと、更には出来たこと。成果こそが全てなのだから。
ただ、今日の話で七十周年特別記念製品の企画の一筋が見えた気がした。
一度頭を整理すると、明日から提案書が一気に進む気がしてきた。
早く眠りについて、明日を待った。
「おはようございます」いつもの連絡事項や出荷予定等の連絡が今日も続く。
「最後に本日は北口社長から皆さんにお知らせがあります。
北口社長よろしくお願い致します」
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