藍は墓泣く

のんカフェイン

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裏切り

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「日にちは予定通り七月第一週に行う。詳細については追って連絡するが、関東と春奈の二人は引き続き新商品の進捗を進めてくれ。良いものが選ばれることには間違いない。また、一人ずつ自分の製品の推薦者を決めておいてくれ。以上」



まだざわめき残る中で朝礼は終わり、皆不思議な気持ちで掃除を始めた。

「あら北口の春奈さん、残念だったわね。負ける結果になって。まぁ私に出来ることがあれば何でも言ってね。手伝ってあげるから」

「恐縮です」不思議ともう勝ちを確信したような立ち振る舞いに疑問を覚えたが、良いものが選ばれる。

ただそれだけだと思いプレゼン資料作成に取り組んだ。



ただ、関東さんのプレゼン資料の進捗具合は気にはなっていた。私だけが遅くに残る日々が続いた。

「春奈さん、お先に。頑張ってくださいね」

「関東さん、お疲れ様でした」社長の朝礼からずっとご機嫌が良い。

まぁ隣でふてくされながら仕事をされるよりはずっといい。今日も遅くまで残ることになりそうだ。





「水谷君、行きましょ」

「あ、あぁ」距離を詰める関東さんと距離を置くような水谷さんのコンビがアンバランスだが、私には関係なかった。

「関東さん、困るよ。社内でそんな仲の良い感じを出されると」

「いいじゃないの、もう私のこと嫌いになった?」

「好きだよ。好きだけど、さすがにばれちゃいけないじゃんか」







関東は水谷を見つめ、これ以上何も言わないでと瞳で熱く語った。






薄暗いその照明は目尻のシワを隠し、言葉を失くした空間に、二人だけの世界が生まれる。






言葉にならないその声に、独り喜びを感じ、炎が燃えたその後は、独りずつ天井を見上げる。





「これであなたもいよいよね」 




「あぁ、こんな展開願ったり叶ったりだ。必ず取りにいくぞ、この勝負」





「当たり前よ。あんな小娘に負けるわけないじゃない」


「計画も出来てんだろ?」

「えぇ、嘘をつくのは上手いからね、誰かに似て」




「ははは、俺たちも遂に似てきたのか」 



「まだよ、私関東だもん。早く水谷になりたい。いつ別れるの。もう半年も待ってるのよ」



「必ず別れるよ。それまで待っていてくれ。それに俺が社長になる日も近い。どう見てもあのおっさん、昔より力が無くなってきてる」




「そう?結構圧があるわよ」



「いや、その圧も最近では虚勢にしかきこえないからな、俺には」




「なら私は社長夫人ってこと?」




「あぁ、どっちにしろあの小娘は邪魔だから、コンペとやらで叩き潰して終わらせよう」




「私の小娘をいじめないであげて」 



「よく言うよ、一切引き継いでないくせに」




「次の策もそろそろ考えなきゃね」

「あまり飛ばしすぎるなよ」月夜に光る二〇四号室の月は沈んだ。










突き止めたいなんて思わなかったけど、あの二人は黒だと思う。

女の勘がそう言ってる。

上司の女の顔を見る日が来るなんて。乾いた笑いに時計の針も沈む。 







「はーるなさん」

「え?黒川君、どうしたのこんな時間に」

「こんな時間まで働いている春奈さんにおにぎりと焼き鳥のプレゼントです」

「えー、嬉しい。嬉しいけど、いいの?私に」

「はい、最近遅くまで残られてるんで、僕に出来ることはないかな?と思って」

「黒川君、ありがとう」

「いえいえ、いつも僕の方が助けられていてありがとうございます」

「あのさ、もう一つ頼み事していい?」

「あ!飲み物がなかったですね。ごめんなさい、直ぐ買ってきます」

「ううん、飲み物はいいの。私のさ、推薦者になってくれない?」

「え?僕ですか?」

「うん。黒川君にしてもらいたいの」

「僕に務まりますかね、そんな大役が」

「そうだよね、やっぱりしんどいよね。うん、ごめん」深夜テンションというのか、勢いでお願いをしてしまった。


「あ、いや、その、僕でよかったら、引き受けさせてもらえませんか」

「いいの?」

「はい、是非やらせて下さい」

「ありがとう」

「明後日の午後だと僕時間空いてますので、一度打ち合わせというか、会議をしても良いですか」もちろんと言う表情で首を傾けた。


「本当にありがとね。でも、今日はもう遅いから、黒川君帰って」

「僕は一回帰って、また来たんです。春奈さんももう帰りましょ。あんまり毎日遅くまで残ってると身体を壊してしまいます」


「いや、うん、そうだね。ちょっとここ最近無理をしてたかもしれない。私自身、空回りしてたかも。申し訳ないけど、明後日一緒に整理させてね」


「はい、喜んで!」



「なんか元気出たなー。助けられたなー今日は。お返ししたいけど、料理屋さんは閉まってるし」


「大丈夫ですよー。そしたら、七月第二週に中間報告会ミニ打ち上げをしましょう。そして、来年勝利を勝ち取って大打ち上げをしましょう」


「よし、頑張るよ私。いつの間にか黒川くんに応援されちゃってる」


「ごめんなさい。でしゃばりましたかね」


「ううん、純粋に嬉しくて。よし、今日は帰ろっか」

「はい、遅くまでお疲れ様でした」

「こちらこそおにぎりと焼き鳥ありがとうね」

立見常務に推薦のお願いをいつにしようかと悩んでいたが、今日勢いで黒川君に頼んでしまった。


変に重荷になっていたら悪いから、明後日にもう一回確認しようと思う。


翌々日、約束していた時間になった。

パソコンと資料の準備をしていると、黒川君が第一会議室に入ってきた。


「失礼します」


「黒川君も忙しいのにごめんね」

「いえいえ、お力になりたくて」この一言を聞いた瞬間、再確認はしないでおこうと思った。

「それでは、今出来ているまでの資料を使って発表していきます」

「宜しくお願いします」





「私たちにしか作れない流行を追わないデニム。それは国産デニムの復活。いや、カッコいいキタグチデニムの復活よ」


大きな発表をする時の言葉の並べ方が自分でも父親と似ていると思う。









「キタグチデニムの復活?」
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