藍は墓泣く

のんカフェイン

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愛は儚く

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無い、デスクトップにずっとあったはずのスライド資料が無くなっている。

その想いは無情にも消えた。

消えた消された消し去った。

そのデータは人差し指ひとつで消えたんだ。そんなに軽いものだったのか、私のデータは。私の想いは。


もう、辞めてしまおうと思う。

黒川君のパソコンにもメールは消えているみたいだった。消去済のメールボックスからも消えている。黒川君もどこかに走って消えていくし、私も消えたい気持ちになった。


私の藍の花の盛りは誰に見られることも無く、萎んだ。それでも社会人として、もう一度登壇した。

「私、北口春奈の七十周年特別企画製品はありません。

何も発表出来るものがありませんので。それではありがとうございました」一つの拍手も無く、私のプレゼンは終わった。


「もう、嫌」グッと目をつぶっても涙が溢れてきた。

今日で会社と私も終わろうと思う。

兄に会いに行こうと思う。よく頑張ったねって言われたかった。空から見てたんでしょ?


「もしもし、春奈か?悪い、春奈。帰ってきてくれないか」

「お父さん、何?寒いのにこんな朝早くから急に。私は家業は継がないよ。こっちに恋人もいるし、仕事も少しだけ大きなプロジェクトを先輩とするのよ」

「やっぱり、そう、だよな」

「そうよ。大体なんでよ、お兄ちゃんがいるでしょ?一昨日も電話したよ。また新しい案件が取れたって」

「それが、覚が昨日亡くなったんだよ」

「え?冗談でしょ?一昨日電話したのよ」
「あぁ、俺たちも驚いてる」

「なんで?なんでよ?なんで亡くなったのよ」

「心筋梗塞って言われた」
「そんなこと急に言われても分かんないよ。なんで直ぐ電話くれなかったのよ」

「それは死因が分からなかったから」

「何よそれ。私、何も言えてないよ。また電話しようねって電話切ったのよ」

「すまない、悪かった。葬儀と告別式には出てくれ」

「分かったわ。とりあえず、明日、すぐ帰る。でも、会社はどうするの?お兄ちゃんに継がせるつもりだったんでしょ?」

「あぁ、隠し隠しやってるが、身体があまり言うことを効かなくてな。もう、俺の代で終わりにするよ」

「ちょっと待ってよ。そんな事を言いに電話したの?お兄ちゃんの想いはどうなるのよ。カッコいいデニムの会社にするって言ってたのお父さんも知ってるでしょ?」

「知ってるけど、もう覚はいないんだよ」

「何よそれ。お兄ちゃんの想いまで勝手に消さないでよ」

「どう言うことだ?」

「私が継ぐわ。キタグチデニム」

「出来るのか?」

「私だってBSやPL位は読めるわよ。ただ、反対する人は多いと思うけどね。

まぁ、他の人に社長を譲ってもいいわよ。ただ、私はお兄ちゃんの想いを引き継ぎたい。

もう一度、カッコいいデニムの会社にしてみせるわ」

「春奈、ありがとう」

「家を出て、藍は履かなくなったし、私の愛は儚く消えた。それでいいわ。

明日、戻るから。それじゃ」

そうして電話を切った日のことをいつまでも鮮明に覚えている。

兄が亡くなった電話だと言うのに、スラスラと会話が出来ていた自分に驚いている。

今思えば、すぐに直ぐ現実を受け止めきれなかったのだと思う。
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