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37話 黄同盟(別視点)
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◇イエーガー・コーセン 帝国の元伯爵家当主 38歳
我ら『黄同盟』が【六区の迷宮】に迷宮決闘を申請して一月ほどが経つ。
そろそろ噂が広がり、戦いの空気が流れ始めているだろう。これを放置すれば、神聖なダンジョンの勝負から逃げた”弱き者”という印象がつけられる。
国際社会においてメンツとはとても重要だ。弱肉強食、弱者に文句を言う権利などない。もしも弱者に発言権があるとすれば、それは強き者の庇護のもとに行われているモノに過ぎない。
もはや風前の灯の小国に発言権も無いとなれば、帝国は実力行使に踏み切れるだろう。
そういった理由から迷宮決闘を申請し、噂も流した。
「【六区の迷宮】は迷宮決闘から逃げている」とな。
後は待つだけで、我々帝国の勝利だと思ったのだが。
ここに来て状況が動いた。
「【六区の迷宮】から迷宮決闘のしかも『同盟戦』の申請とはな」
「ええ、まさか申請してくるとは…」
「しかし結果は変わりませんでしょう? 逃げることも出来ず、玉砕覚悟ということでは?」
我々はダンジョンコアを利用して画面越しで会議を行っている。
議題は先にも上がった【六区の迷宮】からの迷宮決闘の申請。
「【六区の迷宮】の同盟の知らせが来たと思ったらこれか」
「しかし相手はDランクとEランク。付け焼刃では?」
「でしょうな、ほんの少しでも勝算を上げたいと見える」
「しかし『同盟戦』なのに【針葉樹】には敗北結果を適用しないとは…」
「要するに雇われ傭兵なのでしょう。卑しい平民と田舎王女の考えそうなことです」
そうだろうな。
小国に手を貸して帝国に立てつこうと考えるモノはおるまい。
その結果、金でも払って平民を雇い入れた。と言ったところか。
「それで、このまま受けてよろしいので?」
「いや、代表の迷宮が【黄の迷宮】になっているからな。そこを【霧雨の迷宮】にしようと思う」
「ご自分の迷宮でなくてよろしいのですか?」
「ふん、我の迷宮では貴殿らの迷宮の魔物がまともに使えんだろう」
「ええ、確かに。我々としては【霧雨の迷宮】だと助かりますな」
【黄の迷宮】は砂漠の地形が多い。一階層こそ侵入者のために小麦畑にしてあるが、それでも【海難の迷宮】や【霧雨の迷宮】の迷宮の魔物は使いにくいのだ。その点、【霧雨の迷宮】ならば水場と陸地の両方がある。
戦力を集め、守るならば【霧雨の迷宮】になるだろう。
【海難の迷宮】は冒険者相手ならば攻略の難しいダンジョンになるが、空を飛ぶ魔物の居る相手には力を発揮しにくくなる。【六区の迷宮】のボス部屋にケルベロスと”天使”が居るのは確認しているからな。
海の階層の”深さ”は”天井の高さ”と同じになる。
この性質上、海の深さが7メートルあるならば、天井の高さも7メートル。これは湖や池、沼地も同じだ。
そして海の魔物が海上から天井付近の魔物を狙ったとして、空を飛ぶ魔物を落とすのは難しいだろう。
素通りされて、次の階層に到着されるのが目に見えている。
【霧雨の迷宮】ならば池もあるし、【海難の迷宮】の魔物も最低限配置可能だ。最大スペックは出せないだろうが、それでも高ランクの魔物を使えるのは大きいだろう。
私の砂地の魔物は霧の階層でも活動可能だし、砂漠に関係のないイエロー系の魔物もそろえている。問題はない。
「しかし迷宮決闘となると、やはり攻め手が問題ですな」
「ええ、我々の魔物は攻め込むには不向きですからな」
「そこは完全防衛策しかあるまい。我の魔物とてイエローパイソンやイエローパンサー、更に固有魔物は居ても数は少ない。守りに出るしかあるまいよ」
「ならばやはり制限時間を設けるべきでは?」
「それをしたら相手にこちらが攻め手に欠けていると言っているも同然ではないか。その条文を晒されてみろ、我々が弱腰の敗北主義者と取られるわ!」
「はっ! 申し訳ありません!」
確かに攻め手の魔物は少なく、守るしかない。
「ふっ、しかし案ずるな。相手は攻めてくるしかないのだ。それも出来るだけ早くな」
「そうですな、時間は我々の味方でした」
ダンジョンは迷宮決闘中は休業となる。
それが何日も何週間も何ヵ月も続いたらどうなるか。当然ながらダンジョンが存在しないも同然となる。
ダンジョンが存在しないならば、小国に存在意義などない。
当然、帝国もそう考えるだろう。
迷宮決闘中は外との連絡も遮断される。
ダンジョンによる神の庇護無き小国に帝国を止めることはできまい。
つまり【六区の迷宮】は時間的猶予が無いため、無謀な攻めに出ざるを得ない。
攻め手が多すぎるならこちらも攻め手を出してもいいし、迎撃しきっても良い。
どちらにしろこちらは守りきれば勝利なのは変わらない。
敵戦力を殲滅してから悠々と攻めればいいのだ。
素早く攻めねば祖国が無くなる。しかし、攻めればDランクダンジョン三つ分の戦力と正面衝突だ。
我々の勝ちは最初から決まっているのだよ。
我ら『黄同盟』が【六区の迷宮】に迷宮決闘を申請して一月ほどが経つ。
そろそろ噂が広がり、戦いの空気が流れ始めているだろう。これを放置すれば、神聖なダンジョンの勝負から逃げた”弱き者”という印象がつけられる。
国際社会においてメンツとはとても重要だ。弱肉強食、弱者に文句を言う権利などない。もしも弱者に発言権があるとすれば、それは強き者の庇護のもとに行われているモノに過ぎない。
もはや風前の灯の小国に発言権も無いとなれば、帝国は実力行使に踏み切れるだろう。
そういった理由から迷宮決闘を申請し、噂も流した。
「【六区の迷宮】は迷宮決闘から逃げている」とな。
後は待つだけで、我々帝国の勝利だと思ったのだが。
ここに来て状況が動いた。
「【六区の迷宮】から迷宮決闘のしかも『同盟戦』の申請とはな」
「ええ、まさか申請してくるとは…」
「しかし結果は変わりませんでしょう? 逃げることも出来ず、玉砕覚悟ということでは?」
我々はダンジョンコアを利用して画面越しで会議を行っている。
議題は先にも上がった【六区の迷宮】からの迷宮決闘の申請。
「【六区の迷宮】の同盟の知らせが来たと思ったらこれか」
「しかし相手はDランクとEランク。付け焼刃では?」
「でしょうな、ほんの少しでも勝算を上げたいと見える」
「しかし『同盟戦』なのに【針葉樹】には敗北結果を適用しないとは…」
「要するに雇われ傭兵なのでしょう。卑しい平民と田舎王女の考えそうなことです」
そうだろうな。
小国に手を貸して帝国に立てつこうと考えるモノはおるまい。
その結果、金でも払って平民を雇い入れた。と言ったところか。
「それで、このまま受けてよろしいので?」
「いや、代表の迷宮が【黄の迷宮】になっているからな。そこを【霧雨の迷宮】にしようと思う」
「ご自分の迷宮でなくてよろしいのですか?」
「ふん、我の迷宮では貴殿らの迷宮の魔物がまともに使えんだろう」
「ええ、確かに。我々としては【霧雨の迷宮】だと助かりますな」
【黄の迷宮】は砂漠の地形が多い。一階層こそ侵入者のために小麦畑にしてあるが、それでも【海難の迷宮】や【霧雨の迷宮】の迷宮の魔物は使いにくいのだ。その点、【霧雨の迷宮】ならば水場と陸地の両方がある。
戦力を集め、守るならば【霧雨の迷宮】になるだろう。
【海難の迷宮】は冒険者相手ならば攻略の難しいダンジョンになるが、空を飛ぶ魔物の居る相手には力を発揮しにくくなる。【六区の迷宮】のボス部屋にケルベロスと”天使”が居るのは確認しているからな。
海の階層の”深さ”は”天井の高さ”と同じになる。
この性質上、海の深さが7メートルあるならば、天井の高さも7メートル。これは湖や池、沼地も同じだ。
そして海の魔物が海上から天井付近の魔物を狙ったとして、空を飛ぶ魔物を落とすのは難しいだろう。
素通りされて、次の階層に到着されるのが目に見えている。
【霧雨の迷宮】ならば池もあるし、【海難の迷宮】の魔物も最低限配置可能だ。最大スペックは出せないだろうが、それでも高ランクの魔物を使えるのは大きいだろう。
私の砂地の魔物は霧の階層でも活動可能だし、砂漠に関係のないイエロー系の魔物もそろえている。問題はない。
「しかし迷宮決闘となると、やはり攻め手が問題ですな」
「ええ、我々の魔物は攻め込むには不向きですからな」
「そこは完全防衛策しかあるまい。我の魔物とてイエローパイソンやイエローパンサー、更に固有魔物は居ても数は少ない。守りに出るしかあるまいよ」
「ならばやはり制限時間を設けるべきでは?」
「それをしたら相手にこちらが攻め手に欠けていると言っているも同然ではないか。その条文を晒されてみろ、我々が弱腰の敗北主義者と取られるわ!」
「はっ! 申し訳ありません!」
確かに攻め手の魔物は少なく、守るしかない。
「ふっ、しかし案ずるな。相手は攻めてくるしかないのだ。それも出来るだけ早くな」
「そうですな、時間は我々の味方でした」
ダンジョンは迷宮決闘中は休業となる。
それが何日も何週間も何ヵ月も続いたらどうなるか。当然ながらダンジョンが存在しないも同然となる。
ダンジョンが存在しないならば、小国に存在意義などない。
当然、帝国もそう考えるだろう。
迷宮決闘中は外との連絡も遮断される。
ダンジョンによる神の庇護無き小国に帝国を止めることはできまい。
つまり【六区の迷宮】は時間的猶予が無いため、無謀な攻めに出ざるを得ない。
攻め手が多すぎるならこちらも攻め手を出してもいいし、迎撃しきっても良い。
どちらにしろこちらは守りきれば勝利なのは変わらない。
敵戦力を殲滅してから悠々と攻めればいいのだ。
素早く攻めねば祖国が無くなる。しかし、攻めればDランクダンジョン三つ分の戦力と正面衝突だ。
我々の勝ちは最初から決まっているのだよ。
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