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翌日のギターのオーヴァーダビングとコーラス録りは、俺は立ち会わなかった。ちょっと休ませてくれ。宵闇がレコーディングの期間中まったく休みなしなのはわかってるけど、あいつはプロデューサー様だからな。それは当たり前だ。俺はただのドラマーなんだから、休む。ディスコードの楽器倉庫に預けてた俺のドラムセットも持って帰って来ないと、明日のリテイクに使えないし。
大学時代の同期で、一緒にバンドもやってた颯太のバンド、スクリームのライブもあったから、そっちにも遊びに行った。メジャーデビュー一発目のツアーだからな。顔出してやりてぇじゃん。
いつも20時の宵闇からの定時連絡は、遅れて0時頃に来た。時間が足りないあと2日欲しいっつって嘆いてたけど、俺は最初にスケジュール見た時からそれ気付いてたぞ。バカめ。
オーヴァーダビングは朱雨がメインだけど、礼華も同時進行で録ってる。ラストの一日でどこまでやれるか。
あと、宵闇のシンセはどんだけ出来てんだろうな。レコーディング前に作ってるんだったら、絶対に手直しが必要になってるはずだ。録ってる間に曲の印象がだいぶ変わってるから、恐らくそのままじゃ使えない。それは会って聞くか。
最終日、リテイクの為にスタジオに出向く。スタッフに手伝ってもらって1スタにドラムセットを運び込み、ギターを録ってる4スタを覗きに行く。
「おはよ、宵闇」
背後からヤツの肩を叩きながら、隣に座る。
「おう、夕。搬入終わったのか?」
「ああ、まだ組み立ててないけど、こっちの進行どうよ」
「何とか渋滞はしてないけど。時間がもう足りないよなぁ。予定よりあと3本くらい重ねたいけど」
「バーカ。最初に計算出来てねぇお前の負けだ」
宵闇は俺に顔を向けて、眉を寄せて情けない表情を浮かべる。その眉間にデコピンしてやると、元のキリッとした顔に戻る。
「今回はこの時間内で出来る最高のとこまで。そう決めただろ」
「だな」
ブースには、朱雨と礼華が一緒に入ってる。今プレイしてるのは朱雨だ。あいつらをいちいち入れ替えるより、まとめて放り込んでおいて交互に録った方が確かに効率はいい。
話しながらもちゃんと朱雨の音を聴いていた宵闇は、マイクの入力を上げて声をかける。
「休憩入れるぞ」
それを聞いた二人は、ギターを下ろしてコンソールルームに戻って来た。
「おはよ、夕」
朱雨はにっこり笑って挨拶をしてくれる。
「夕は今からか」
「ああ。コーヒー飲んだらセッティング行く」
礼華はこれといった表情もなく、ソファに腰掛ける。
「礼華、調子はどうよ」
「…まあまあ?」
一応返事はしてくれたな。まだあんまり礼華と話してないから、ちょっとつかめない。何となく目も合わせてくれないし。
嫌われてんのか? よくわからんな。
ま、ちょっとずつ慣れりゃいいか。
それよか、俺、宵闇に言わなきゃいけないことあんの忘れてたわ。
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