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「なかなか順調じゃねぇか」
2日目のリハーサルの帰り道、運転しながら隣の宵闇に言う。すっかり、ベルノワールの仕事の時は俺が送迎するのが定着したな。近いから大して面倒じゃないし、他のメンバーの前で出来ないミーティングも出来るから案外便利だ。
リハーサルはいい流れだ。時々挟む休憩で宵闇に問題点を伝えて、それを宵闇がさりげなく他のメンバーに話す方式が上手くいってる。指摘するタイミングを見つけるのは、こいつ上手いな。やる気になってるあいつらは、指摘された点を解決することにちゃんと集中する。すぐには解決出来なくても、しっかりその方向へ向かっていくから、間違いなく前進してる。
「そうだな。お前のアドバイスのお陰だよ」
「だろ?」
なーんてな。って言うか、ほんとにかなりアレコレたくさん口出してるからな。俺、相当仕事してるよ。宵闇は笑って答える。
「ほんと、夕に会えて良かった。お前がいなきゃ、バンド自体が長続きしなかっただろうなぁ」
「長続きするかどうかはまだわかんねぇだろ」
「まぁな? でも、前のままだったら間違いなくそこそこで解散してたんじゃないかなって、最近思う」
「かもな。やっぱ進化してかねぇと、続ける意味もねぇじゃん」
インディーズの頃から見た目とファンサービスだけで客を集めてて、ただただ現状維持をしてたベルノワールのままだったら、先はなかっただろうな。見た目だけなら、いずれは若い下のバンドに追い越される可能性が高いし、音楽的な進化がなかったら、頭打ち感がいつか来る。その時が解散の時だ。
今のベルノワールなら、それを越えられる。それは俺も確信してる。俺がいるからには、ただのチャラいバンドじゃ終わらせねぇ。チャラくてもいい。チャラい上に、本質的にカッコいい、目が離せないバンドにする。
目が離せなければ、ファンはとにかく着いてくるしかないからな。どの瞬間も見逃せないバンドなら、ファンを飽きさせない。次が見たい、と思わせることが重要だ。
「ああ。セルスクェアみたいに、40越えてもカッコいいヴィジュアル系でいよう」
「長崎さんはまだ33だけどな」
茶々を入れて、一緒に笑う。だけど、本当にそう思うよ。確か、サキさんはもう50になるかならねぇかって歳だけど、有無を言わせない唯一無二のカッコ良さと存在感がある。俺はここ何年かのセルスクェアしか知らねぇけど、新しいアイテムが出る度に「やられた」って感じる。毎回、前作を確実に上回って来るんだ。あんなふうにずっと活動出来たらと思う。
ふと宵闇の笑い声が止まる。
「…なぁ、夕はずっと続けるつもりでいてくれてるのか?」
静かなトーン。真面目な声だ。
「ああ。一回関わった以上、お前が俺を必要ないって言うまでは徹底的にやる」
俺は本気だ。中途半端に放り出すことは絶対にしたくない。万が一、バンドの方向性が途中で歪んだとしたら、必ず俺が力ずくでもぶん殴ってでもまっすぐに進ませる。
出会いは冷やかしだったけど、今は俺のバンドで、俺の居場所だって腹に決めてる。
そんで、宵闇は俺のリーダーだ。それは揺るがない。
「良かった。最近、お前がいてくれないと、俺だけじゃコントロールしきれないんじゃないかって思うんだ」
「何言ってんだよ、カリスマリーダーが」
軽く笑ってやると、宵闇は少し唸る。
「音楽的なことは勿論な。俺はお前に比べたら、圧倒的に知識が足りない」
「そりゃ、確かにな」
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