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しおりを挟む「上出来だ。見るか?」
「ああ、見る!」
モニターを見に行くと、1本目から再生してくれる。お、なかなかそれっぽいんじゃねぇの? 俺、やれば出来るな。表情がまだ固いのは、そういう設定ってことで…ほら、不安感出てるじゃん。
続けて2本目。宵闇の指示する声は入ってないから、俺の動きだけが見られる。言われた通りに動いただけだけど、ちょっとしたサイコサスペンスっぽい。これは俺からは出ないな。宵闇の演出力はやっぱり凄い。他のメンバーと世界観が被ってないし。
「両方いいな。よくやった」
宵闇に褒めてもらえて、素直に嬉しい。にっと笑うと、宵闇は一瞬つられそうになって、慌てて口元を引き締める。宵闇のテリトリーでいい仕事出来たら、そりゃ嬉しい。
「俺、才能あるな!」
「そういうことにしておいてやろう」
これは達成感あるな。よーし、気分が乗ってきた。次は演奏シーンだし、最後の個別イメージシーンも何とかなる気がしてきた。俺、単純だな。
さて、このスタジオの最後は宵闇だ。宵闇のイメージシーンはここだけだから、1分も個別もまとめて撮る。
宵闇がソファにスタンバイする。座っただけで様になるよな。ほんと、ここに住んでんのかってくらいハマる。
1分の方から撮影がスタートする。やっぱり宵闇の動きは少ない。それが逆に、重い空気とか威圧感を醸し出してて、取り込まれる。
カメラを見ながら、すうっと体を傾けると、隠れている目が片方ちらりと見えた。目が合った。確かに目が合ったはずなんだけど、あいつの目は何も見ていない。目に表情も感情も何もなくて、空虚だ。背筋がぞくっとする。怖い。本気で怖い。初めて宵闇を怖いと思った。これが、あのよく笑う宵闇と同一人物なのか。
ゆっくりと斜め上の天井を見上げて、首を回しながらカメラ目線に戻って来る。すっと差し出される掌。この手を取ったら、二度と戻れない、そんな気がする。唇の片端がニヤッと歪められ、掌は見えない何かをぎゅうっと握りつぶす。何故か胸が苦しい。
「はいカット!」
監督の声でカメラが止まる。宵闇はすっと立ってきて、モニターを見る。顎に指を触れながら再生を見てる。
俺は、まだ宵闇が与えた恐怖の余韻から抜け出せない。たったの1分なのに。
「やっぱり宵闇さんは凄いなぁ…」
綺悧がため息混じりに呟く。それでやっと我に返った。そうだ、今のは演技だったんだ。二人きりになったら、また優しく笑ってくれるはず。
「ああ、すげぇな。あいつ。いつもこんな感じなのか?」
「うん。ほんとに怖いよね。俺、宵闇さんの撮影見た後は寝つき悪いんだ」
ずっと見てる綺悧ですらそうなんだ。
「何か、悪い夢見そう…っていうか、大体嫌な夢見るんだよね」
綺悧は楽しそうに笑う。いやいや、楽しくないだろそれ。
「よくそれで宵闇のこと嫌いにならねぇな」
「そうだね。俺は、この怖さが好きなんだよね」
「ホラーとか好きなのか?」
「好き。ホラーって怖いから良いんだよね。 ホラー見て、あー怖かった! って思うのが好き」
「好きな人は怖くないのかと思った」
「怖いよ。怖くなかったらつまんない」
そして、また宵闇を見る。
「だから、宵闇さんは凄いなって思う。何回見たって怖いもん」
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