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しおりを挟むずっと、見る者を引き付けて離さないってわけか。これはこいつの努力なのか才能なのか。わかんねぇな。わかんねぇけど、並大抵じゃないことは確かだ。
監督と話していた宵闇が、またソファに向かい、座る。もう一本撮るのか。今度は膝に両肘を置いて手を組み、項垂れる。
「お願いします」
宵闇の一声でカメラがまわる。
基本線はさっきと同じ。極力動かず、表情もない。1本目の時は静かな狂気と恐怖って印象だったんだけど、今度は気怠い、無気力な感じだ。全てを諦めて、何にも興味がない、世界に置き去りにされた男がいる。あまりの存在感のなさが際立って、逆に存在を強調してる。重力がマイナスになると、ブラックホールが出来る。そんな感じだ。よくこんな演技が出て来るな。
長い長い1分だった。
演技を終えた宵闇は、またモニターをチェックする。全員シーンとこの部屋でのイメージシーンはカメラに動きはなく、ずっと同じ視点で客観的に淡々とただ映すだけ。演技が良かったか悪かったかだけがチェックポイントだ。
宵闇は頷き、監督と話して、今度はセットの壁にあるドアを開いて入る。ドアがあるなとは思ってたけど、ほんとに入れるヤツだったのか。
ソファから離れたってことは、今から個別のイメージシーンがスタートするんだな。
「スタンバイOKです」
ドアの向こうから宵闇の声がする。この壁、上が開いてるんだな。よく聞こえる。
「じゃ、始めるよ! 3、2、1、スタート!」
個別の撮影はさっきの倍ぐらい、2分から3分を撮る予定だ。さっきの物もそうだけど、これだけ撮っても、使うのは一人当たり全部で1分ない、らしい。よく考えたらそうか。5分程度の曲で、ソファ全員シーンを曲の前と後ろに繋げても、その5分を演奏シーンとメンバー5人で分け合ったら50秒ずつか。MVって、使われてない部分の方が多いんだな。
宵闇の個別イメージシーンは、全体の流れに沿ったものだ。宵闇個人のイメージ、と言うよりは、MV全体のイメージを取りまとめる為のもの。それ自体が、リーダーってものを示してるとも言えるか。
閉塞した部屋の中で誰かが戻って来るのを待っていて、ここから動くことが出来ない、出て行くことは許されない、って印象だ。さっきとは違って部屋の中を動くけど、それでも必要最低限の移動と、体の動き。
今回は手持ちのカメラや自在に動くリフトに乗ったカメラも稼働して、3台のカメラが宵闇を狙う。この後の撮影余裕とか思ってたけど、カメラ増えると圧が違うな。
これは、どんな絵が撮れるんだろう。さっきまでの固定1台で撮ってたのは、カメラの付近で見てれば何となくわかったけど、3台になると想像がつかない。
宵闇が、上から撮っているカメラに手を伸ばしたところでカットがかかる。
そして、またモニターでチェック。3台分の映像を見るから、ちょっと時間がかかる。見ながら、監督とカメラの位置や動きを相談してるらしい。お互い身振り手振りで意見を言い合ってるようだ。
プロの現場なんだな、ここは。レコーディングやリハーサルでは、ベルノワールはまだアマチュアから抜け出してなかった。意識も甘くて、レベルも低い。
でも、この写真や映像に関しては、逆に俺以外の全員がプロフェッショナルだ。何の準備もなく来た自分が恥ずかしい。
俺は、見た目ってのを軽く見てた。ヴィジュアル系なんて、チャラチャラ飾り立てて化粧して、キメ顔してりゃファンが寄ってくるんだろ、程度に思ってた。それは、全くの見当違いだ。
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