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しおりを挟むこの世界観を構築する為に、ルックスが当てはまって、楽器が出来るメンバーを集めることから始めて。まずそれ自体がかなりハードルが高い。それから、似つかわしい音楽を作り出して、衣装やメイクでその世界の住人を作り出し、可視化する為に映像や写真で表現を折り重ねていく。
ここまで、何の努力もしてないなんて思ったら大間違いだ。ほんの1分で、感情や見ている世界を、台詞もなしでカメラの向こうにどう伝えるか。静止している写真一枚で、如何に見ている者の目を奪うか。やってみたから、少しだけどわかる。ヤツらは、並大抵じゃなくもがいて来たに違いない。何百枚、何千枚と写真を撮って、何時間もの映像を撮って。その中から使えるものなんか、ほんのひと握りだっただろう。伝えたいことの為の表情をたった一つ見付けるのだって、簡単じゃない。それを何年も繰り返して、この表現力を身につけて来たんだ。
音楽だけじゃなくて、ヴィジュアルも同じだけ表現する媒体としているから、ヴィジュアル系なんだ。
すげぇな、ヴィジュアル系って。
そして、このベルノワールという世界を一からプロデュースして作り上げてきた宵闇。何もないところから、一つ一つのピースを重ねて、あいつはここまで来たんだ。
ほんと、カッコいいよ、お前は。
2テイク目の撮影が始まる。
今度は、1テイク目と動きはほぼ同じだ。その代わり、カメラの方の位置や動きが違う。あらゆる角度からの映像を使うんだろう。
それが終わると、既に打ち合わせてあったらしくすぐに3テイク目が始まる。これも同じだ。今度はカメラの動きが早い。それだけでも、違った印象の映像に仕上がりそうだな。
カメラが止まると、すぐに宵闇と監督はモニターに集まる。あれこれ言いながら真剣に討議を重ねてる雰囲気は、俺が邪魔出来る空気じゃない。
この宵闇に追いつきたいな。
音楽面は確実に俺がヤツを引き離してるけど、ヴィジュアル面では宵闇の背中が遠い。それぞれの得意ジャンルを生かしてると言えるけど、お互いがある程度相手のレベルに近付けたら、絶対強いだろ。
あいつは、ベースプレイに本気を見せてくれた。俺のレベルに追いつきたいって意志がそこにはあった。
そんなら俺は、演技に本気を見せてやろうじゃねぇか。照れとか緊張とかいらねぇ。そんなもん捨てて、あいつに追いつく。ベルノワールのメンバーとして、どの方面からでもベルノワールの世界を表現してやる。
もう一度、カメラの前に宵闇が立つ。ほんの数秒のカットを、いくつも撮っていく。どれだけ撮っても、使われるのは1分。それでも、細部までのこだわりを捨てない。
たったの1秒でも、あいつは俺の目を奪って離さねぇ。
負けねぇからな。俺は、お前とどこまでも対等でいてやる。
ヤツの動きに釘付けになってるうちに、宵闇の撮影が終了した。
「夕さん、ずっと黙ってニヤニヤしてたね」
綺悧が俺の顔を見て笑う。
「ニヤニヤ?してたか?」
「うん。ずーっと顔が笑ってた。楽しかった?」
「ああ…うーん、楽しかった、のか?」
「瞬きもしないで見てるから、話しかけられなかったよ」
綺悧はくすくす笑って、俺の肩を叩く。
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