Hate or Fate?

たきかわ由里

文字の大きさ
140 / 233

29-1

しおりを挟む

     ◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇




「じゃあまず、夕くんの加入について聞こうかな」
 フラグメントの編集長、牧村さんは、初対面の俺に丁寧に名刺を渡して挨拶をしてくれた。ベルノワールの取材はずっとやってくれてるみたいで、インタビューの席はくだけた雰囲気だ。見た目はちょっとラフなサラリーマンって感じだな。普通の人だ。
 当たり前なんだけど、俺はインタビューって初めてなんだよな。ドラムフリークに取材してもらった時って、アンケートと補足の質問、って感じだったから、インタビューって程のもんじゃない。
 出してもらったコーヒーに口をつけながら、宵闇の出方を伺う。この質問は、宵闇主導で答えるべきだろ。
「夕くんが入るきっかけって何だった?」
「煌丞こうすけの脱退が決まってからパワフルなドラマーを探してて」
 俺の前任、煌丞な。名前しか知らんけど。まあ一応、写真とか映像で顔はわかる。何か派手なヤツだった。
 ていうか、宵闇がパワフルなドラマー探してたって初耳だな。
 その辺の話、聞いたことねぇわ。
「あちこちの伝手で何人か紹介してもらって、オーディションやって」
 ふーん。俺だけじゃなかったのか。ちゃんとオーディションやってたんだ。逆に、そいつらが何で不合格だったのかが知りたいよな。誰が来ても、大抵煌丞より上手いはずだぞ。
「最後に来たのが夕です」
「理想的なドラマーが来た、みたいな?」
「そうですね。やっぱり、プレイがこれからやって行きたい方向性にマッチしてたんで」
 お前、俺のプレイ聴く前に採用って言ったじゃねぇかよ。今更、その辺の前後関係はどうでもいいけど。
 あ、もしかしてマヤちゃんのDVD見て決めてたのか。だったら、音で採用してくれたってことか。
「それは、Hate or Fate聴いてみたら納得だったよ。ベルノワールがかなりヘヴィになったよね」
「ありがとうございます。この音は、夕じゃないと出せない音だったので」
 それは俺も同感だな。俺じゃねぇと、このヘヴィな方向にベルノワールを向けられなかっただろ。
「シングルについては、また後で聞くとして…じゃあ夕くん。ベルノワールのオーディションを受けようと決めたのはどうして?」
「えっ…」
 しまった。何も考えてねぇ。付き合いと冷やかしって言うわけにはいかねぇ。
 どうする、これ。
 何も返せずに、ぐるぐる考える。ベルノワールに入りたいとか全然思ってなかったし。
 困ったな。
「牧村さんすみません、ちょっと待ってやって下さい。夕はインタビュー受けるのは初めてなんで」
「ああ、いいよ。ゆっくり考えて」
 宵闇がフォローしてくれる。すまん。急いで何か考える。
「…えーと、新しい世界に入ってみるのも…いいかなと…」
 この辺が落とし所だろう。なかなか無難にまとめたな、俺。よし。
「今までは、マヤさんのサポートとか、ディスコードのサポートとか、レコーディングミュージシャンとかだよね」
 牧村さんは手元の資料を見ながら言う。俺の経歴がまとめられているらしい。
「はい」
「マヤさんも、ディスコードもヘヴィメタルだよね? 元々はヘヴィメタル?」
「あ、そうです。ほぼヘヴィメタル専門です」
「どうしてヴィジュアル系に?」
 面接かよ! 弊社を志望した理由はみたいなそれ! うえー、冷やかしですって言えるもんなら言ってみてぇー。宵闇にだって言ったことねぇよー。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖
BL
「恋人はメリーゴーランド少年だった」続編です。溺愛ドS社長×高校生。恋人同士になった二人の同棲物語。束縛と独占欲。。夏樹と黒崎は恋人同士。夏樹は友人からストーカー行為を受け、車へ押し込まれようとした際に怪我を負った。夏樹のことを守れずに悔やんだ黒崎は、二度と傷つけさせないと決心し、夏樹と同棲を始める。その結果、束縛と独占欲を向けるようになった。黒崎家という古い体質の家に生まれ、愛情を感じずに育った黒崎。結びつきの強い家庭環境で育った夏樹。お互いの価値観のすれ違いを経験し、お互いのトラウマを解消するストーリー。

薫る袖の追憶を捨て、月光の君に溺愛される

あとりえむ
恋愛
名門の姫君・茜は、夫の高彬に蔑まれ、寂れた離れで孤独な死を迎えた…… けれど意識が途切れた瞬間、視界を埋め尽くしたのは命を削って輝く緋色の夕映え。 目が覚めると、そこは高彬との婚約が決まったばかりの十五歳の春に戻っていた。 「二度目の人生では、誰のことも愛さず、ただあの方の幸せだけを願おう」 茜は、かつて自身の孤独を救ってくれた「最推し」の東宮・暁を、未来の知識で密かに支えることを決意する。 執着を捨て、元夫に無関心を貫く茜。 一方、高彬は自分に興味を失った茜の価値に気づき、今更遅い後悔に狂い始めるが……。 「見つけた。お前は俺の、運命の番だ」 正体を隠して東宮を支えていたはずが、冷徹な暁に見出され、逃げ場のないほどの執着と溺愛を注がれることに。 平安の雅な風情の中で描かれる、逆転と救済の物語。 最後は、二人が永遠の契りを交わす和歌で幕を閉じます。

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶

菱沼あゆ
キャラ文芸
 冷徹非道と噂の皇帝陛下のもとに、これまた悪しき評判しかない異国の王女、琳玲がやってきた。  琳玲は皇后の位は与えられたが、離宮に閉じ込められる。  それぞれの思惑がある離宮の女官や侍女たちは、怪しい薬草で皇帝陛下たちを翻弄する琳玲を観察――。  悪徳公主と冷徹皇帝陛下と女官たちの日々は今日も騒がしい。

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞であやかし賞を頂きました。皆様のおかげです、本当にありがとうございます!【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

処理中です...