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「ああ、MVあがってきたな」
「ん? どれ」
画面を覗き込むと、メールで連絡が来てる。宵闇はこの3日、朝から深夜までリハーサル以外の時間は、監督とMVの編集をやってた。宵闇がリハーサルに来てる間に、話し合った内容に沿って監督が編集して、宵闇が戻るとまた修正しての繰り返しだったらしい。こいつはまた寝てない。
ほんと、倒れなきゃいいけどな。俺なんかより断然ひょろひょろの体だしよ。
「お前のとこにもメール来てるから、パソコンで開いてくれよ。見よう」
昨日のリハ直前に宵闇からの修正はほぼ終わって、あとは監督の微調整に任せて来たらしい。今までのMVも同じ監督で、信頼関係はしっかり出来てる。俺も今までのMVは見たけど、どれもいい出来だった。
自分のノートパソコンを開いて、メールを見つけ、データがアップされてるクラウドにアクセスする。
あった。これが俺の初MVだな。
再生ボタンをクリックする。
今更になって俺あれで大丈夫だったのかって不安が浮かんで来たり、宵闇のプロデュースなんだから間違いないってそれを打ち消したりと忙しい気分の中、再生が始まった。
真っ暗な画面の中に足音が響く。宵闇の足元だけが映り、ソファに座ったその足元からカメラは上がっていって、宵闇の姿を映す。他の音はない中、加えられた足音と共に、ややスローモーションでそれぞれがフレームインして来る。
最後に俺、登場。大丈夫か。運動会になってねぇか。その心配は裏切られ、俺は悠然と画面を横切り、宵闇と見つめ合いながらソファに横柄に座る。思ってたより断然雰囲気出てる。
画面が揺れ、ノイズが全てをかき消す。そこから流れ出すシンセ。俺の一発を合図に、演奏シーンから始まった。
メンバー各個人のソファの映像が目まぐるしくカットインされる。Aメロに入り、同じくソファのシーンが交錯する中に、一人一人をクローズアップした演奏シーンが挿入される。曲のスピード感とぴったりだ。
Bメロは綺悧の表情をメインに据えて、カメラ目線の個人ショットが重なっていく。
そして、サビ。演奏している俺らの周りをぐるぐると回転して撮っていた映像が、早回しとスローモーション、逆回転なんかを効果的に使いながら展開していく。そこに、フラッシュバックのように割り込む、個人イメージシーンの断片。
もう一度Bメロ。もがく綺悧がすげぇ迫力だ。マジで死にそうだよ。
間奏部分は演奏してる俺メイン。うわ、ほんとやべぇ。笑顔がかなり不気味だ。ヤバいヤツだわ。
ギターソロは、朱雨と礼華の演奏シーンを中心に。見る者全員ぶっ殺す朱雨と、咲き乱れる花で窒息させる礼華の対比がめちゃくちゃカッコいい。
ベースと掛け合う部分は、宵闇と交互に。ここは、俺と宵闇の…例えば、炎の色の違いみたいなもんがすげぇコントラストになってる。
こうやって見ると、ほんとこのラインナップ面白ぇ。
ここから再度Bメロに入った後はテンションは上がる一方だ。見ていると情緒不安定になるような、画面の不穏な揺れ。少しずつ個人イメージがその様相を見せ始める。
Cメロでの哀しみに満ちた綺悧の瞳。瞬きすると、片目から涙がぽろりと流れ落ちる。
そして、砕け散る画面。
大サビに突入する。個人イメージの中でも最高の熱量の場面がガンガン入る。叫んでる俺がほんとヤバい。衣装も髪も雨でぐっちゃぐちゃで、完全に狂ってるわ。全然綺麗なんかじゃねぇな。流石の宵闇でも、これを綺麗とは言わねぇだろう。
大サビ終盤から少しずつ演奏シーンが入り込み、上方から回転しながら目の高さにアングルが降りてきて、シンバルの音と共にブラックアウトしていく。
また聞こえてくる足音。画面がすうっと明るくなると、最初のソファに全員集まっているところに戻ってる。そこから、一人、また一人と去って、最後に俺が、未練を残しながらも決然と立ち去る。残った宵闇が、ふっと上を見上げたところで画面が徐々に暗くなり、画面中心に浮き上がる「Hate or Fate」「Belle Noir」の文字。
「ん? どれ」
画面を覗き込むと、メールで連絡が来てる。宵闇はこの3日、朝から深夜までリハーサル以外の時間は、監督とMVの編集をやってた。宵闇がリハーサルに来てる間に、話し合った内容に沿って監督が編集して、宵闇が戻るとまた修正しての繰り返しだったらしい。こいつはまた寝てない。
ほんと、倒れなきゃいいけどな。俺なんかより断然ひょろひょろの体だしよ。
「お前のとこにもメール来てるから、パソコンで開いてくれよ。見よう」
昨日のリハ直前に宵闇からの修正はほぼ終わって、あとは監督の微調整に任せて来たらしい。今までのMVも同じ監督で、信頼関係はしっかり出来てる。俺も今までのMVは見たけど、どれもいい出来だった。
自分のノートパソコンを開いて、メールを見つけ、データがアップされてるクラウドにアクセスする。
あった。これが俺の初MVだな。
再生ボタンをクリックする。
今更になって俺あれで大丈夫だったのかって不安が浮かんで来たり、宵闇のプロデュースなんだから間違いないってそれを打ち消したりと忙しい気分の中、再生が始まった。
真っ暗な画面の中に足音が響く。宵闇の足元だけが映り、ソファに座ったその足元からカメラは上がっていって、宵闇の姿を映す。他の音はない中、加えられた足音と共に、ややスローモーションでそれぞれがフレームインして来る。
最後に俺、登場。大丈夫か。運動会になってねぇか。その心配は裏切られ、俺は悠然と画面を横切り、宵闇と見つめ合いながらソファに横柄に座る。思ってたより断然雰囲気出てる。
画面が揺れ、ノイズが全てをかき消す。そこから流れ出すシンセ。俺の一発を合図に、演奏シーンから始まった。
メンバー各個人のソファの映像が目まぐるしくカットインされる。Aメロに入り、同じくソファのシーンが交錯する中に、一人一人をクローズアップした演奏シーンが挿入される。曲のスピード感とぴったりだ。
Bメロは綺悧の表情をメインに据えて、カメラ目線の個人ショットが重なっていく。
そして、サビ。演奏している俺らの周りをぐるぐると回転して撮っていた映像が、早回しとスローモーション、逆回転なんかを効果的に使いながら展開していく。そこに、フラッシュバックのように割り込む、個人イメージシーンの断片。
もう一度Bメロ。もがく綺悧がすげぇ迫力だ。マジで死にそうだよ。
間奏部分は演奏してる俺メイン。うわ、ほんとやべぇ。笑顔がかなり不気味だ。ヤバいヤツだわ。
ギターソロは、朱雨と礼華の演奏シーンを中心に。見る者全員ぶっ殺す朱雨と、咲き乱れる花で窒息させる礼華の対比がめちゃくちゃカッコいい。
ベースと掛け合う部分は、宵闇と交互に。ここは、俺と宵闇の…例えば、炎の色の違いみたいなもんがすげぇコントラストになってる。
こうやって見ると、ほんとこのラインナップ面白ぇ。
ここから再度Bメロに入った後はテンションは上がる一方だ。見ていると情緒不安定になるような、画面の不穏な揺れ。少しずつ個人イメージがその様相を見せ始める。
Cメロでの哀しみに満ちた綺悧の瞳。瞬きすると、片目から涙がぽろりと流れ落ちる。
そして、砕け散る画面。
大サビに突入する。個人イメージの中でも最高の熱量の場面がガンガン入る。叫んでる俺がほんとヤバい。衣装も髪も雨でぐっちゃぐちゃで、完全に狂ってるわ。全然綺麗なんかじゃねぇな。流石の宵闇でも、これを綺麗とは言わねぇだろう。
大サビ終盤から少しずつ演奏シーンが入り込み、上方から回転しながら目の高さにアングルが降りてきて、シンバルの音と共にブラックアウトしていく。
また聞こえてくる足音。画面がすうっと明るくなると、最初のソファに全員集まっているところに戻ってる。そこから、一人、また一人と去って、最後に俺が、未練を残しながらも決然と立ち去る。残った宵闇が、ふっと上を見上げたところで画面が徐々に暗くなり、画面中心に浮き上がる「Hate or Fate」「Belle Noir」の文字。
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