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しおりを挟む今まで感じてなかったプレッシャーが、急にはっきりと見えてくる。
3000人を、楽しませる。これからの俺がやらなきゃいけないこと。3000人じゃねぇ。オンタイムで見られなかった人だって沢山いるんだ。何人だ。何人を楽しませればいい。
それをやり遂げたいからこそ、ビビってる。
いっぺんもあがったことねぇのに。あのディスコードのサポートに入った初日だってビビらなかったのに。
宵闇が、背中からふわっと俺を抱きしめる。
「夕、大丈夫だ」
俺がビビってんのに気が付いたのか。顔も見てねぇのに。
こいつの前で良かった。この数字を、一人で見なくて良かった。大丈夫、って言葉がこんなに優しくて安心出来るなんて、俺は知らなかった。
俺は頷く。
宵闇は、そのまま片手をマウスに置いて、ツイッターの画面を開く。通知が溜まってる。
そこを開くと、ファンからのリプが上から下まで埋めつくしてる。スクロールしてもしても、まだある。
宵闇宛のリプライだけど、そこに並んでるのは「カッコよかったです」「最高です」「リリース楽しみです」「ライブで聴くの楽しみです」って、ポジティブな言葉。ついさっきまで、限られた人数しか知らなかったこれが、一気に沢山の人に見られて、評価されてる。
「このラインナップで、早くライブが見たいです」
宵闇が、声に出して読み上げる。
「夕がいるラインナップだぜ?」
俺がいるラインナップ。俺がいるベルノワール。見たい人が、いる。
耳元で、宵闇が微かに笑う。そして、俺のアカウントを表示する。俺の告知ツイートをクリックすると、さっき見たのの倍以上のリプライが付いてる。
今見た宵闇へのリプライと同じようなポジティブな言葉の中に、「夕さんカッコいいです」「見とれました」「迫力ありました」「ドラム叩いてる姿が最高です」…そんなコメントが入ってる。
「見せてやろうよ、新しいベルノワールを。お前がいなきゃ始まらない」
「…ああ」
ビビってた気持ちが、溶けていく。
このベルノワールは、俺がいないと意味がないんだ。それを、待ってる人がいる。
重い責任は、そのまま、これから走り出すベルノワールへの期待そのものなんだ。
燃料にしてやるよ。腹ん中に火がついたのがわかる。その期待、上回って行ってやる。
「これ以上に驚かせてやるよ」
横から俺の顔を覗き込んだ宵闇に、ニヤッと笑ってやる。まわされた宵闇の腕に、力が入る。
「頼んだ」
マウスを手にして、もう一度YouTubeの画面を開く。再生数はまた増えてる。もっと見て、もっと期待してくれ。こんなもんじゃねぇベルノワールを見せてやる。
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