【大スカ 小スカ 1話完結オムニバス】一ノ瀬家は我慢できない!

なまご

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【 三男 】龍毅

キャラ紹介小説・後編【小スカ】

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千鳥格子のスラックスが膝のあたりまで濃い色に変わったころ、龍毅がようやく動き出した。
学はハッとしてその手を引いて慌てて教室を後にする。

“教室を出る”という目的を達成したあとも、学は握った手を放す気になれずにいた。
強く責任を感じていたのだ。
無言で握られた手が無口な彼のSOSのように思えて、とてもそれを振り払うことができなかった。

保健室へは龍毅の案内で到着した。
学は申し訳なさそうにそのドアを開けて、奥から出てきた優しそうな女性の養護教諭に軽く会釈をした。

「あの…教室で……」
「あら、一ノ瀬くん…失敗しちゃった? 君は初めて見る子だよね?」
「は、はい。今学期から転入してきました、相川です」

養護教諭は慣れた様子で龍毅を招き入れた。
龍毅は無言で指示に従い奥のカーテンのあるスペースに入っていく。

「今日は体操服ないよね?」
「あ、はい。体育がないので、持ってきていないと思います」
「じゃあ男の先生からジャージ借りてくるね。タオルはそこの棚で、この蛇口からお湯が出るから、これにお湯を溜めて渡してあげてもらえる?」
「……はい」

言われるままに容器にお湯を貯めながら、学はひとり考え込んでいた。
養護教諭も、思い返してみれば三上も、どことなく慣れている様子だった。
初めての出来事ではないのかもしれない。
そう考えて、先刻までの罪悪感が馬鹿らしく思えた。

――僕だけが過剰に気にして……馬鹿みたいじゃないか。

小さくため息をついてお湯を止めると、事務的な動きでカーテンの内側にサッと入る。
その瞬間、学はお湯のなみなみと入った容器を危うく床にぶちまけそうになった。

出会ってから一度も、そしてあの教室での大惨事の時すらもピクリとも表情を崩さなかった龍毅が、涙を流していたからだ。
学の心臓がバクバクと鳴る。

――もしかしたらあまり気にしていないんじゃないか、なんて………。僕は馬鹿だ。そんなはずないじゃないか。

「…一ノ瀬くん、あの…」
「――い…」
「え…?」

あまりにも小さな呟きに、聞き返しながら学は一歩前に踏み出した。
表情はやはり変わらないが、龍毅は鼻をグスッとすすり上げて小さく言った。

「…ごめん…なさい……」
「っ……」

学は胸に杭を打たれたような気分だった。
自らの押し付けた正義感が彼を深く傷つけたのだと、そう思った。
身体は大きくても、彼はまだ自分と同じ中学生なのだと。

「……謝るのは僕のほうだ。君はトイレに行きたがっていたのに、それを止めてクラスで恥をかかせてしまった。どう詫びていいか分からない……」

ハンカチを差し出そうとして、先ほど教室で使ってしまったことを思い出し、学はそばに備え付けられていたティッシュを数枚取って差し出す。
龍毅がそれを受け取って目元を雑に拭いながら、けほっと乾いた咳をした。

「ボタンは2個目まで外そう」

ボタンを外してやりながら、学は彼の表情を読み取ろうとじっと見つめた。
無表情だが、涙は静かに流れ続けている。

濡らしたタオルを渡すが龍毅はそれを受け取らず、視線を下に向けたまま手の中で濡れたティッシュを握りしめて押し黙っている。
下唇を噛んで考え込んでいた学だったが、やがて諦めたように小さくため息を吐いた。

「………分かった。手伝っていい?」

龍毅はこくりと首を縦に振る。
まるっきり子供のようなその仕草に、学は再び気づかれないようにそっとため息をついた。
学は同級生に比べれば自立している方ではあったが、多感な年頃には違いなかった。
だが、学の生真面目で正義感の強い性格が、彼を見捨てることが出来ないでいた。

「それじゃあ立って。……下を脱がせていいか?」

龍毅が濡れた瞳を向けると、そのあまりにもまっすぐな視線に学のほうが気まずくなって目をそらしたい気持ちになる。
頷いたのを確認して、学は彼のベルトに手をかけた。
スラックスのボタンと前カンを外し、ファスナーを下ろすとき、少し手が震えているせいで二度失敗した。

「……ほんとに大丈夫か?自分でやったほうが…」
「…………」

龍毅は返事の代わりに頼るようにその大きな手で、学のブレザーの裾をギュッと握る。

――やるしかない。こんなことは、一気に終わらせよう。
学は半ばやけくそで覚悟を決めた。
スラックスと下着をまとめて膝下まで押し下げる。
次の瞬間、学はギクリと手が止まった。

―― デ……デカい………大人より、多分……。

規格外の身体は、大事なところも規格外だった……(制服の長めのシャツでも僅かに隠れきっていないではないか…)。
学は思わず、小学生の頃に見た父のモノと比較していた。

そんな学の衝撃を知る由もなく、龍毅は裾を握りしめたまま幼子のようにすんすんと鼻を鳴らしている。
身体は大人のようで中身は年齢よりもずっと幼い龍毅の、そんな無防備な姿を目の当たりにしていると、学はなぜだか背徳感を抱かずにはいられなかった。

――とにかく、とにかく早く済ませてしまおう…!
学がダークマター(?)にタオルを押し当てる。龍毅がビクッと震えた。
汚れを拭き取るためにタオルを動かそうとすると再び身体が震える。

「……大丈夫か?」
 
――いや、大丈夫じゃない、僕は。
学の心の声はともかくとして、龍毅の濡れた瞳が心なしか頼るように見つめている。

「……おしっこ…」
「えっ…?!まだ出そう?」

咄嗟にタオルを退けると、龍毅の先端から小便がちょろ…と零れ出し、学は慌ててまたタオルを押し当てた。
濡れたタオルはすぐに水分の許容量を超え、保健室の床に僅かに雫を垂らす。

「だ、大丈夫…。もう止まった?」

龍毅が不安そうに(すでに学にはそう見える無表情で)頷く。
新しいタオルで脚を拭き上げて学は急いで貸し出し用の下着(“保健室”と書かれたよれた白いブリーフだ。今日日の中学生は誰も履いていないに違いない)を履かせると、ベッドに座らせて布団をかけた。

ふう、と安堵のため息をついたとき、保健室のドアが開く音とともに「一ノ瀬、相川!」と三上の声が入ってくる。

「先生、こっちです」

タオルを手にしたまま学がカーテンから顔を覗かせると、物珍しいものでも見るように目を丸くした三上が「手伝ってやったの?」と独り言のように尋ねた。

「ええ、まあ……ショックが大きかったみたいで…ちょっと」

謎の背徳感のせいで学の歯切れは悪かった。
しかし三上はうんうんと首を縦に振りながら、学の肩に手を乗せて労うようにポンポンと叩いた。なぜかその顔は満足げだった。

「一ノ瀬、入るよ。大丈夫か?」
「…………」
「な、なんで僕の後ろに隠れるんだ…?」

縦も横も、小柄な学からはだいぶはみ出しているが、龍毅はいじいじと学のブレザーを握って前に出てこない。

「いや大丈夫だよ。…いつもこうなんだ。それより……」
「え…なんですか、なんでそんなに目が輝いてるんですか?」
「相川……!これは、あくまでもお願いなんだが…!」

三上がキラキラ……というよりはギラギラと目を輝かせて、学に詰め寄って肩を掴む。
前と後ろの圧はまさに前門の虎、後門の狼(物理的に)。学の頭にはアラートが鳴り響いていた。




しかし結局、三上から長編の事情説明が行われたのを、学は最後まで聞いてしまった。
これは学の想定通りだったが、こういうことが起こったのは初めてではないらしかった。
それには龍毅の体質が関係していて、更に彼が“やや”天然ボケ的な性質を持っているためにこのようなことが何度か起こったのだとか。
その度に三上が暗躍して公にならずに済んだと言うわけだ。

「そうなんですか、それは大変でしたね。それじゃあ僕は次の授業があるので行かないと……」
「で、だ…」

そそくさとその場を去ろうとした学の腕を掴んで引き止め、三上が続けた。

「ここからがお願いなんだけど、一ノ瀬のこと気にかけてやってくれない?」
「な、なんで僕に言うんですか」
「さっき教室でのやり取りを見てびっくりしたんだよ。一ノ瀬、相川のこと自分から頼ってただろ?」
「え…まあ……そんなに不思議なことですか?」
「クラスメイトは勿論、1年から担任してる俺にも一度も頼ってくれたことないんだよ。一ノ瀬は野生動物みたいなところが……」

そう言いかけて三上が大慌てで顔の前で手を振った。

「あ、いや、いい意味で!いい意味でな!?」
「いい意味で野生動物なんですか?」
「………………………とにかくな、相川が出来る範囲で気にかけてくれたら俺としても安心なんだよ。一ノ瀬、俺とは全く喋ってくれないし……」
「はあ……」

学は曖昧に答えて今日何度目かのため息を吐きかけたとき、後ろから首を絞められる感覚で再び「ぐぇ」とカエルのような声を上げた。

「あのな…!」
「………俺のせい?」
「え?」

目を丸くする学に、いまだ瞳に涙を浮かべたままの龍毅がもう一度「俺のせい?」と繰り返した。

「相川が俺に厳しいからじゃない?」
「それは先生のせいでしょう?」

龍毅の大きめの三白眼に表面張力で張り付いていた涙がまたぽろぽろと保健室の床にこぼれ出す。
学はここにきてようやく気づいた。
自分が涙と押しに案外弱いのではないかと。

――冗談じゃない。勉強と気が強いことだけが取り柄だと思って生きてきたのに……。

だが、どうしても彼を無下にできないのだ。
学は覚悟を決めて龍毅と向かい合った。

「僕がそばにいると助かることがある?」

その学の問いかけに、無表情のまま涙を零している龍毅が、ややあって口を開く。

「………安心…する」
「…安心………そうか…」

そうは見えなくても、涙を流してすがり付いてくるのは、不安があるからだ。そう、学は解釈した。
真相は分からないが……。

「それじゃあ、一ノ瀬くん……いや、龍毅。これからトモダチってことで、いい?世話とかそういうことをするんじゃなくて、あくまでも友達として――」

学の言葉は途中で止まってしまった。
なぜなら、龍毅が上から学に覆いかぶさったからだ――もとい、抱きついたのだ。
肉厚の巨体に押しつぶされて、学は気がついた。
男性の胸とは、みなゴツゴツと骨張っている訳ではないのだと(彼の胸は弾力のある筋肉と程よい脂肪のハイブリッドで、何というか、やや気持ちのよさすら感じた……学の不本意だが)。

「……それが…いい…」
「わ、分かった、でも…息が、苦しい……っ」
「い、一ノ瀬、相川が窒息する…!」

こうして、学の転入初日は波乱の幕開けとなった。
“我慢できない”一ノ瀬龍毅と相川学の物語は、まだ始まったばかりだ。





――――――――――――――
  あとがき


やや駆け足で書き上げました。
読み返しもしてないので、しれっと修正加えるかもしれません。

三男龍毅は極端に無口で、人の話を部分的にしか聞かない・天然フィルターを通した解釈・雑なアウトプットによってコミュニケーションがほぼ「狼に育てられた少年」レベルです。
野生動物だと思ってお楽しみくだされば幸いです(?)

長男は少し執筆に時間がかかるかもしれません。

一ノ瀬家のハプニングを応援よろしくお願いします!笑






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