記憶の選択

なまけ猫

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海辺の町

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海辺の町に行ってみたいと高田さんに告げる。

高田さんが道案内をしながら話してくれる。
海辺の町に住む生物はかわいいけれど、ちょっと人間界とは違って凶暴なのが多く危ないから気を付けてねという。

かわいいのに狂暴とは、これいかに。

かわいいとはどういった系統だろうか。
小動物系の動作がかわいいのか、マスコットキャラのように愛らしい見た目をしているのか、それとも幼子のように守りたくなるようなかわいさなのか。

それは見てからのお楽しみです、と言われ、考えてもわからないし、考えることをやめた。

そういえば、この辺りも展望台から見たときは緑の植物だった気がするのだが、あたりを見回すとカラフルな植物が生えているように見える。

高田さんにそのことを話すと、展望台は、あたりのことがわかりやすいように可視化されているだけなので、実際の見え方とは異なるらしい。

どういう仕組みかわからないが、すごい。


そんなことを考えていると町に着いたようだ。
たしかに、全体的に町にあるものが丸っこくてかわいい雰囲気がある。

高田さんが薄水色で顔くらいの球体を投げてよこす。ぷよぷよしていて、重さを感じないほどの軽さである。

「これは?」
「水際に行くなら持っておいた方がいいかも。水に飲まれたらそれをかぶってね。そうすると呼吸できるようになるから」

にわかには信じがたいが、念のために持っていくとしよう。
狂暴な生き物もいるようだし。

人間界でいうところの砂浜のようなところに来た。
なんだろう、砂ではなさそうだが、細かい粒が敷き詰められていて、歩くとむぎゅむぎゅする感じ。不思議な感触だ。

水に手を伸ばすと、水面からクラゲに似た生物が顔を出した。

ごまのような目に、ポストの投入口のような口。
ゆるキャラのようでかわいいといえばかわいい。
こんな奴が狂暴なのだろうか。

そもそも、クラゲのような生き物はさわるのは怖いので、少し距離をおいて見ていたがゆっくりと、ふわふわと近づいてくる。
口はパクパクしているが、表情がないので怖い。

「その子は怖くないよ。触っても大丈夫だよ」

高田さんがクスクス笑いながら声をかける。
ごめんね、私が変なこと言ったからだね、と笑いながら言う。

そうなんだ、と言いながらクラゲに手を伸ばす。
ひんやりしていて、水風船のようにぽよぽよしている。頭をぷよぷよとさわっていると、クラゲは目を細めていて気持ちよさそうにしている。
しばらく戯れたら、クラゲを逃がしてあげたのだが、水に溶けるようにして消えていった。
 

少し先の砂浜のところにヒトデのようなものがいたので近づいてみる。
すると、あぶない!という声が聞こえたと同時に、ヒトデがいきなり大きくなり、大きな口をこちらに向けている。

ヒトデは強力な吸引力で吸い込もうとしているようで、距離が縮んでいく。

そもそも、食べられたらどうなるのだ。

ヒトデのサイズから見て、人ひとりが入るとは到底思えない。
そんなことを考えていると、ヒトデはひっくり返り、おとなしくなった。

高田さんが人での後ろに回り込み、ひっくり返してくれたようだ。
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