エキゾチックアニマル【本編完結】

霧京

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第六十六話【サブチャン】後

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とりあえず将人に言われるままに、氷室と孝仁に連絡すると、ずれた反応を返し続けている力也の様子に笑みが浮かぶ。

「馬鹿」

 普段は年上らしい反応も多い力也だが、こういうところは抜けているというかずれている。きっとこれに誘ったマコもその反応にペースを崩されているのだろう。
 マコの他の配信を見たことないからわからないが、今回のこのが普段と違うのは予想がついた。

「将人さん! 確認お願いします!」
「今行きます!」

 そうしてみている間に、将人はチェックの為に呼ばて行ってしまった。将人と違い、脇役の冬真は呼び出されることもなく、逆にもう用はないとばかりにメイクスタッフに呼ばれた。

「冬真さん、メイク落としますね」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「え?」
「すみません、俺は一番最後でお願いします!」

 どうやら一番最初に声をかけてくれたらしいメイクスタッフにそうお願いすると、今度はスマホに着信がかかってきた。
表示された名を確かめると、そこには孝仁の名前があり、冬真は映像が気になりながらもとりあえず通話に出た。

「冬真君! ちょっとあれどういうこと!?」
「すんません! 彼に誘われたんだと思うんすけど、俺もよくわかんなくて」

 憤る孝仁にとりあえず詫びながら、画面を戻し力也の様子を確認する。力也は、連絡をするかと尋ねられるも不安じゃないからと断っていた。

「力也~」
「もう、力也君! 可愛い、可愛いんだけどね!」

 おそらくこの映像を見ているほとんどのDom達が同じ反応をしているだろう。それが証拠に、コメントにも突っ込みがあふれている。
 そんなとき、マコがまるで見えているかのように、画面の向こうにいた冬真を呼んだ。

 “みてる”と一言だけ書かれたコメントに、一瞬遅れて力也は慌てだした。

「え? 冬真? なんで仕事中じゃ」
【ちょうど終わったとこだよ。お前なにしてんだよ】

 呆れたような冬真らしいコメントに、力也はなんて答えるべきか考え込んだ。何をしているのかと言われても見たとおりなのだが、果たしてそう返していいのだろうか。

「えっと、なにって・・・・・・これなんていうんですっけ?」
「【サブチャン】だけど」
「サブチャンだって」
【知ってる!】

 またも返ってきたずれた返事に、画面のコメントは笑いに包まれた。空気を読んで他のコメントを流さないようにしてくれるかと思いきや、流れてきた大量の突っ込みに力也は首を傾げた。

「冬真どれ?」
「どれって・・・・・・わかんないね。りっくんのご主人様はコメントは青で」
【了解です】

 一つだけ青くなったコメントに、力也はこれならわかると頷いた。しかし、その瞬間もう一つ赤い色が付いたコメントが流れた。

【りっくん、僕もみてるんだけど】
「・・・・・・これも知り合い?」

 これだけでは誰かわからないコメントだが、力也はなんとなく予想ができた。まさかと思いながら口を開く。

「もしかして孝仁さん?」

 ご主人様はコメントに色をつけてとお願いしているのに、まるで自分も主人だと示すような事をするのは孝仁しかいなかった。

【うん、もう力也君のお馬鹿】
「すみません」

 孝仁にまで怒られてしまい、これはまずいことをしてしまったらしいとようやく気づいた力也は落ち込むように謝った。

【りっくん、後でちゃんと説明して貰うからね】
「はい、すみません」
【俺からもお説教あるから】
「わかった」

 怒ってはいるが、今すぐやめろと言わないということはこのまま続けていいのだろうと判断し、力也は息を吐いた。

「大丈夫そうです。これってまだ続くんすよね?」
「切り替え早いね」

 一瞬落ち込んだものの、許してくれそうな二人の反応に、止めなくていいならと話を切り替えた。

「俺の所為で時間取っちゃったんで」
「面白かったからいいけど・・・・・・うん、じゃあ当初の予定通りこの前のコンサートのことについて振り返ろうか」
「はい」

 そうして話始めた二人だが、その五分後“バク転みせて”というコメントをマコが拾い、実行した力也がどこかにぶつけた音が響き、慌ただしい間に配信は終わった。

 力也のベッドに我が物顔で座った冬真の前に正座した力也は、片手に持ったスマホに向かって昨日の失態の内容を説明していた。

「はい、大丈夫です」
「冬真君、ほんと?」
「ぶつけたとこ見た感じは怪我とかないっす」
「ならいいけど、もうほんと気をつけてよ」
「はい」

 配信に勝手に参加したことについて怒られるのだと思っていたら、冬真も孝仁も真っ先に怪我をしていないかの確認だった。十分、広さはあるものだと思ったのに、ちょっと目測を誤ってぶつかってしまった力也としては恥ずかしい。
 あの直後、画面は心配するコメントで埋め尽くされ、怪我はないから大丈夫だと答えたのに、冬真にも孝仁にも信じてはもらえなかった。

「もう、配信もすごくびっくりしたんだからね」
「すみません。よくわかんなくて」
「まぁ、あのぐらいなら力也君だし事務所的にはセーフだけど、あんまり可愛いとこ沢山のDomに見せちゃダメだからね」
「はい?」

 失態しか見せてはいない気がするが、どこを可愛いと言われたのだろうと首を傾げた。コメントにも沢山かいてあったが、あれはマコに対してかSubに対してのお決まりの台詞のようなものだと思っていた。

「後は冬真君よろしく」
「わかりました」
「じゃあ、力也君また撮影でね」
「はい」

 そうして通話が切れると、力也は冬真を見上げた。お仕置きではなくお説教と言っていたからには、長いお叱りをうけるのだろうと身構える。

「力也」
「はい」
「ネット配信、楽しかった?」

 身構えた力也に冬真は、怒っているとは思えない落ち着いた声で尋ねた。楽しかったか、楽しくなかったかと言われれば楽しかったのだが、そう返していいのか迷っていると冬真はもう一度繰り返した。

「楽しかった?」
「・・・・・・はい」
「そっか」

 そのため息交じりの返事に、もしかしてかなり悪いことをしてしまったのかもしれないと、今更ながらに冷や汗が浮かぶ。

「連絡しなくてごめんなさい」
「ああ」
「冬真、なんでわかったんだ?」
「ダチが教えてくれたんだよ。危うく見逃すとこだったんだからな」

 さすが、王華学校の連絡網、すぐにご主人様に連絡が行くと少し感心してしまう。友達がたまたま見ていたからともも言えるが、もしかしたら友達以外でもなんらかの連絡方法があるのかもしれない。

(タグとCollar把握されてるとか・・・・・・)
「力也? なに考えてる?」
「あ・・・・・・」

 ちょっと別のことを考えていたらすぐに気づいたらしく、視線を合わせるように冬真に至近距離でのぞき込まれてしまう。

「まったく、今回のでまたお前のファン増えんだろ」
「ファン?」
「隙みせんなっていってんのに」

 厳密に言えば、隙があるようにみえる事はなかった。力也はCollarもタグもつけており、冬真が見ていることも明かされていた。不安はないと言いきり、怒られるとわかっていてもおびえる様子のない力也に、他のDomたちも手出しをしようとは思わない。
 ペットが飼い主にじゃれつくのを見るように微笑ましく思うだけだ。

「俺モテねぇよ?」
「その価値下げ教え込んだやつの名前言え、二度とそんなことできないように突き落としてやるから」
「Subの出来損ないとかも言われたけど」
「そいつも、教えろ。てめぇのほうが出来損ないだって教えてやる」
「ビッチ」
「そいつの自慢の物二度と使えないぐらいにしてやる」
「性欲処理」
「外を歩くのが怖いって思わせてやるよ」

 過激になっていく言葉と共に、攻撃的なグレアが冬真からあふれ出す。Subであれば恐怖を感じるだろうそれを力也は笑いながら見ていた。

「こら、喜んでんだろ」
「だって、俺の為に怒ってんだろ?」
「俺が気に入らないから怒ってんだよ」

 世の中には自分の身近な人を下げて優越感に浸り喜ぶ奴らがいる。その多くの矛先はSubや女性や子供、そいつよりも弱く優しい人に向かう。
 支配欲の強いDomでありながら、冬真は支配に一番早いだろうその方法を用いようとは思えない。
 だいたい、傍に置きたいほどの人を下げてどうするのか、本当に自分にとって価値がなければ何故傍に置くのか、そう思ってしまう。
 自分を優位に立たせてくれると言うことで価値があるのかもしれないが、そんな風に優位に立っていてもむなしいだけだろう。
 それに冬真の知るSub達はわざわざ下げなくとも、ちゃんとDomを立ててくれる。

「さっき孝仁さんも言ってただろ、あんまり可愛いとこみせんなって」
「もうでるなってこと?」
「お前まさか・・・・・・」
「約束はしてねぇけど、今度は結衣出すって言ってたし、面白かったし・・・・・・」

 終わってから見せて貰った他の収録はゲームをしたり、どこかへ出かけたり、楽しそうだった。中には力也がしたことのないゲームや行ったことのないところもあった。

「それだけじゃないだろ?」
「・・・・・・ちょっと嬉しかった」

 画面上に流れていたのはどれもこれも好意的な感想ばかりで、Domに褒められたいと思うSubならばそれを心地よく思わないはずがない。無論、ご主人様である冬真が最優先で、冬真がそんな物はいらないと言えばその心地よさもいらないと思える。

「まったく、欲張りものめ」
「ごめん」
「しっかたないな、可愛くお願いできたらこれからもでていい」
「やった!」
「ただし、カメラに寄りすぎたり、無防備に肌晒したりすんなよ?」
「はーい、気をつけます」

 元気よくそう言うと、力也は近くにあった冬真の唇へ、お願いと感謝を込めたキスをした。

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