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7、就活
ネクタイの結び目
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貴広はニコと笑って良平の襟許に指を伸ばした。
「どうも何も。留めてみないとサイズ感なんて分からんだろう」
開きっぱなしの襟のボタンを止めてやり、店員さんが提案しようと持ってきていたネクタイからベビーピンクのチェックを選んだ。
「ちょっと顎上げて。そう」
上を向かせた良平のシャツの襟を立たせ、シュルシュルと首にネクタイを結んでやる。良平の指が貴広の手に触れた。近付いた体温。甘い吐息。
「ほら、できた」
ここで抱き締める訳にはいかない。貴広は衝動に身を任せることなく、良平から離れた。貴広に促されて姿見を振り返った良平は、自分の姿を数秒眺めたのち、呟いた。
「……へえ。こうなるんだ」
そばに控えていた店員さんが「お似合いですよ」と微笑んだ。
体型が美しいと吊しでも美しく映えるものだ。だが。
「カッコいいけど、無難だよな。就活スーツだもんな」
貴広は残念そうにそう言った。
貴広はさっき見てきたような、明るい布地を良平に着せてみたかった。良平の親が出した予算に少し足し増しして、自分が着ていたような上物で、しまい込んだ小物で、良平の身体を飾り立ててみたい。
王子さまのように、可愛らしくなるに違いない。
スーツもシャツも、靴も、何もかも、とてつもなく贅沢に飾り立てたい。そうして、その姿を充分に堪能したい。充分に眺め尽くしたあとは、飾り立てた品々を、ひとつひとつ剥ぎ取っていく。一枚、また一枚と。そのたびに良平の咽が鳴らす甘い吐息を、なにひとつ聞き漏らさずに。
「どうも何も。留めてみないとサイズ感なんて分からんだろう」
開きっぱなしの襟のボタンを止めてやり、店員さんが提案しようと持ってきていたネクタイからベビーピンクのチェックを選んだ。
「ちょっと顎上げて。そう」
上を向かせた良平のシャツの襟を立たせ、シュルシュルと首にネクタイを結んでやる。良平の指が貴広の手に触れた。近付いた体温。甘い吐息。
「ほら、できた」
ここで抱き締める訳にはいかない。貴広は衝動に身を任せることなく、良平から離れた。貴広に促されて姿見を振り返った良平は、自分の姿を数秒眺めたのち、呟いた。
「……へえ。こうなるんだ」
そばに控えていた店員さんが「お似合いですよ」と微笑んだ。
体型が美しいと吊しでも美しく映えるものだ。だが。
「カッコいいけど、無難だよな。就活スーツだもんな」
貴広は残念そうにそう言った。
貴広はさっき見てきたような、明るい布地を良平に着せてみたかった。良平の親が出した予算に少し足し増しして、自分が着ていたような上物で、しまい込んだ小物で、良平の身体を飾り立ててみたい。
王子さまのように、可愛らしくなるに違いない。
スーツもシャツも、靴も、何もかも、とてつもなく贅沢に飾り立てたい。そうして、その姿を充分に堪能したい。充分に眺め尽くしたあとは、飾り立てた品々を、ひとつひとつ剥ぎ取っていく。一枚、また一枚と。そのたびに良平の咽が鳴らす甘い吐息を、なにひとつ聞き漏らさずに。
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