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7、就活

東京

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 分かってたことだけどと、良平は呟いた。

「分かってたことだけど、札幌は職が少ないなあ」

 少ないだろうか。貴広も実家のある千葉と、東京と、札幌くらいしか知らないが。貴広は膝に拡げた新聞を眺めたまま言った。

「そんなに少ないか? 結構ある方じゃないのか。営業所も多いし、全国企業の現地採用もあるだろ」
「そりゃあね」

 良平はPCの画面から目を離し、床にごろんと寝転がった。

「選ばなきゃ、それこそいろいろあるよ。だけどさ」

 良平は顔の上で指を組み合わせ、電灯の光に目を細める。

「俺の代わりに、バイト雇わなきゃでしょ」
「ええ?」

 貴広は新聞をたたんだ。良平は何を考えているのだろうか。

「今回は冷蔵庫だけど、今後も設備に金はかかるだろ」
「良……」

 貴広は苦笑した。

「そんなに稼がなくていいんだよ。喫茶店は喫茶店で、独立採算で行くから。お前に苦労かける積もりは」

 貴広はそこで口をつぐんだ。

 良平は、素直で純粋な良平は、貴広のために生きようとしていて、貴広が生活するためのトラジャをどうしたら生き延びさせられるかを考えていて、そして――。

「良、お前、東京行くか」

 良平は身体を起こした。

「行かない」

 良平は大きく首を振った。

「行かないよ。貴広さんと離れてどこにも行かない」

 良平は貴広の腕をつかみ、揺さぶった。

「貴広さん、俺を棄てるの? そしてあいつとヨリを戻す?」
「はぁあ? 何言ってるんだお前」

「俺、どこにも行かないからね。せっかくおじいさんの残した店、数字上向いて来たじゃんか。俺、就職したらバリバリ稼いで来るからさ。あんたの足引っ張ったりしないから……だから……」

 良平は貴広の腕を握り締め、そこへ額を乗せた。

「俺を棄てたりなんかしないで」
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