今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生

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1、ある日バイト終わりに熊男が現れた!

「会いたかった、誠~~~~‼って、お前ダレ!?」

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 瞬はカギをかけ忘れたのだと思った。

 弁当屋から戻って、建てつけの悪い木造アパートの渋いドアが、ほんのわずかだけ浮いていた。

 盗られるようなものは何もないからいいようなものの。

 首をひねりながら部屋に入った瞬の視界を、大きな黒いものがおおった。

「会いたかった、誠~~~~‼」

「うわああぁっ!」

 熊のような何かに飛びかかられ、瞬は開いたドアに背中を打ちつけた。

 ドアは勢いよく外へ開き、瞬は三和土に尻もちをついた。

 熊のような何かが叫んだ。

「って、お前ダレ!?」

「こっちのセリフだっ」

 瞬は自分にのしかかった熊にすかさず怒鳴り返した。

「あんたこそ誰だよ! どうやって入った。警察呼ぶぞ」

 誠って誰だとか、三和土に思い切りすったズボンの尻は破けてないかとか、この界隈は治安がよくないと聞いていたがここまでだったのかとか、いくつもの考えが瞬の脳内をピカピカと駆けめぐるが、そんなあれこれがすべて吹き飛ぶような、男の外見。

「ってかあんた、キタネエなあ。そんな格好でひとん家に上がりこんで何してんだ」

 熊は辛うじて人間だった。

 多分、下はデニム、上はチェックのシャツをこれも多分予想だがもとは白かっただろうTシャツの上に羽織っている。

「多分」というのは、服のあちこちが泥まみれで、元の色合いがよく分からなくなっているからだ。

 泥は乾いて粉が吹いている。この扮装で室内に上がりこまれたなんて。

 冗談じゃない。瞬は掃除をめったにしないのだ。

 泥汚れを持ち込まれたら、次の掃除日程を繰り上げなければならないではないか。

 衣服だけではない。クセのある髪はこてこてと脂で固まり、ヒゲがボーボー伸びて、職務質問をかわして街中を移動してきたことが信じられない。

(アヤシすぎる……)

「ここの住人は? 誠はどこへ行ったんだ」

「だから、誠って何だよ。ここに住んでんのはオレ! ひとり暮らし! いいから退けよ!」

 誠とやらがここにいないことを悟ったあたりから、熊男の腕から力が脱けた。

 瞬はようやっと熊男を押しのけて立ち上がった。

 ポケットからスマホを出した瞬に気づいて、熊男が再び瞬の腕に取りすがった。

「警察だけはカンベンしてくれ! 俺は犯罪者じゃない。説明するから。全部、全部説明するから」

 いい歳をした男が、痴情のもつれ的な何かでトラブって警察を呼ばれたら立つ瀬がなかろう。

 瞬はまず話だけは聞いてやって、110するかどうかその後決めることにした。
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