今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生

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5、優しくって、ひどいひと

そんな顔しなくていいのに

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 瞬は小さな声で「エアコンつけて」と伸幸に頼んだ。

 伸幸は長い腕を伸ばして、部屋の端へ寄せたテーブルの上からリモコンを取った。

 スイッチを押したあと、伸幸は傍らに寝そべる瞬の髪を撫でた。

「伸幸さんさあ……」

 けだるい午後の陽射しが、カーテンの向こうにゆれている。

「ん?」

 伸幸は瞬の髪を撫でる手を止めない。

 瞬は唇をとがらせた。

「どんだけ経験あるのって感じ」

「ええ?」

 伸幸の声は笑いを含んで甘い。

「だってさぁ……」

 瞬は恥ずかしくてかけぶとんを頭までかぶり、伸幸の膝に頬をよせた。

「ムチャムチャ手際よかったじゃんか。俺の身体は初めてのくせに、あんなに」

 瞬はそこで言葉を切った。

 伸幸は瞬のかぶったふとんをめくり、照れて赤くなった瞬をあらわにした。

「『あんなに』……何?」

 伸幸はからかうようにまた問うた。

「気持ちよかった?」

 瞬はふとんごと伸幸を押しのけた。

「……そうだよ」

 瞬はその勢いで起きあがり、ふとんの上で膝を抱えた。

 何ヶ月抱かれつづけても、痛いばかりでなかなか快楽へ導いてもらえなかった、瞬の数少ない男性経験と比べると。

 手際がよすぎる。

 伸幸は、もしかして、ものすごい遊び人なのかもしれない。

 前の住人である「誠さん」とだって、連絡を取らないうちに音信不通になってるし。その後に同じ部屋に住んだ瞬と、こういうことになっている。

 相手の性別にもとくにこだわりはないというし。

 手慣れた遊び人。

 瞬にこんなに優しいのも、コミュ強だってだけかもしれない。

 快楽の余韻に、マーブル模様のように不安が混じる。

 そんな瞬の頬を、伸幸は指の背でそっと撫でた。猫をあやすように静かに。

「瞬こそ」

「何だよ」

「『初めて』みたいだった」

 伸幸は瞬をぎゅっと抱きしめた。

「かわいかったよ」

(く、悔しーーー!)

「しかたねえだろ」

「ん?」

「初めてだったんだから、あんなに……」

 瞬は悔しさに抱えた膝の先をかんだ。伸幸が瞬の言葉の続きを待っている。

「あんなに気持ちよかったセックスは」

 悔しさと照れで、吐きすてるように瞬は言った。

「それはさあ……こんな言い方していいか分からないけど……」

 伸幸は気づかわしげに呟いた。

「よっぽど男運悪かったんじゃないの」

「ははっ。それな。そりゃ確かにそのとおりだ。あはは」

 もう、笑うしかない。瞬は力なく笑ってしまった。

 伸幸は少し悲しい顔をした。まるで痛ましいものを見るように。

 そして、もう一度、瞬の身体をぎゅっと抱いた。
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