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七、五月十三日 水曜日 十五時
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サヤカのウエイトレス姿はみんなから好評だった。
「あらぁ。新しいバイトさんを入れたの? いい子でない」
「可愛いね! これからずっとこの店にいたらいいっしょ」
「マスターも隅に置けないんでないかい? どこでこんなキレイな子見つけたのさぁ?」
いい歳をしたおっさん、おばさんに口々にほめられ、サヤカはそのたびに嬉しそうに頬を染めた。その感じが初々しくて、またほめられる。そのたびに、高広はうっとうしい当てこすりをされる。
ブラウスのフリルがエプロンからのぞいて、顔周りの空気感がなんというか、華やかというか、……甘い。
トレイを持って店内を移動するときも、スカートの襞がゆらめいて、きびきびとしたお仕事スタイルなのに、ついその下の脚の動きに目が行ってしまう。
一挙手一投足が、ひと目を惹く。
美しいフォームだった。
こんなキレイな子に、自分と共通する遺伝子が、本当に何分の一かでも入っているのだろうか。高広は疑問に思った。
だが、虎之介は、写真を見た限りだが、新劇俳優を目指しただけあってそこそこ美形と言えなくもない。さらに言えば、サヤカとは生物学的つながりの一切ない、祖母の麗子は美人だった。
自分の容姿は、誰に似たんだろう。もう少し美しく生まれてもよかったのではないか。ちょっと不満だ。実際のところはどうなんだろう。自分のことは低く見積もりがちだ。今晩良平に聞いてみよう。
ひとから見て美しくあるというのは、どんな心もちがするものだろうか。
サヤカは、自分の器量を最大限に活用して生きている。それは間違いない。この店に来てからの図々しい態度がそれを物語っている。そう。客観的に見れば「かなり図々しい」ことを言ったりやったりしているのに、不思議と憎めない。自分は愛され、許されることを、一瞬たりとも疑ったことのない……。
(「一瞬たりとも」……?)
そんな人間、いるか?
少なくとも、自然ではないような。
(自然……)
何かが引っかかる。
「いらっしゃいませー!」
サヤカがカランと鳴った鐘の音に反応して笑顔を向けた。入ってきたお客さんにお冷やを出そうと、カウンターにタンブラーを取りに来た。
トレイを持って客席へ向かうサヤカの姿は、背筋がスッと伸びて爽やかだった。
書籍の類いがあるとしたら、店内の書棚しかない。
高広がいくらそう言っても、サヤカは納得しなかった。建物中、自分の目で見て回らなければ気が済まないかもしれない。
「ほかにおじいさまのものが残っている可能性のある場所は、ありませんか?」
「可能性ね……」
高広は車庫の鍵をサヤカに手渡した。
「俺がここを引き継いだときに片付けたし、そもそもよく整理されてたから、ないと思うけど」
誰かひとが亡くなったら、そのひとの所有していた動産・不動産を整理して、残されたひとで分け、その取り決めを裁判所に報告しなければならない。それが遺産分割協議書だ。そのとき、財産の金額によって相続税を納める。
だから、祖父が亡くなったとき、高広も祖父の持っていたものをすべて確認し、書面を作成した。相続税を支払う最低額に達しない、つつましやかな相続だった。痛くもない腹を、いつまでも探られ続けるのは面白くない。
ただ、センセエの言うように、分からないひとが見ても金目のものだと判別できないこともある。昔の台本なら紙質だってよくないだろうし、そのときの高広がガラクタと思ったのなら、処分したことが記憶にも残っていないかもしれない。
根負けした高広は、「そこまで言うなら」とサヤカに、店の裏についている小さな車庫の鍵を渡した。車が一台入るささやかなものだが、一応少しはものが置ける。そこにだって書類の類いは置いてないが、店内で食い下がられるのも煩わしい。いくら接客に支障を出してないとは言え、だ。
店からは、車庫の出入り口は見えない。防犯のため、くれぐれも鍵のかけ忘れのないようにとサヤカには言って聞かせた。盗まれるようなものはないが、他人に忍び込まれたり、火を付けられたりしては困る。犯罪はなるべく防ぐべきだ。
サヤカはぴょこんとおじぎをして、高広に礼を言った。
「ありがとうございます! 行ってきます」
軽々とした足取りで扉に向かうサヤカの背に、高広は、
「お礼を言われても……そこにだって何もないよ」
と念を押した。サヤカは「はーい」と明るく答え、軽やかな足取りで出ていった。
サヤカの出ていった扉を見やり、常連のゆうこさんが高広の方を振り返った。
「マスター、大丈夫? いくら従妹さんとは言え、物をしまってある場所の鍵を渡しちゃうなんて」
ゆうこさんは心配してくれているのだった。さすがは経営者。サヤカの愛らしい見た目や仕草に、簡単にはダマされない。
この辺、闇属性の会社役員とはいえ、根っこはやっぱりおっさんな栗田さんなどと違うところだと高広は思った。
「ご心配、ありがとうございます。いえ、本当に何もないんですよ。洗車用のバケツとブラシくらいで。あと冬タイヤと」
ゆうこさんはみなから「ゆうこママ」と呼ばれている、近所でスナックを経営しているママさんだ。歳の頃は四十代の中盤くらい。ごいんきょから聞いたところによると、若い頃虎之介に憧れて、ずいぶんと熱を上げていたらしい。
ただ、祖父の方は祖母麗子にぞっこんだったので、ゆうこの憧れは憧れのままで終わったとのこと。
だからごいんきょは、
「麗さんと出会われる前のことだとしましても、あの虎之介さんに『隠し子』だなんて、信じられませんですねえ……」
と首を捻るのだ。イケメン役者だった割に、遊び歩くタイプではなかったらしい。案外真面目だったのか、それともそんな余裕なく貧乏だったのか。ただ常連さんたちの反応を見ていると、前者だったような気がしてくる。
高広はゆうこママに笑いかけた。
「金目のものなんて一切ありませんよ。キレイなもんですから。あの子も開けてみて、拍子抜けするんじゃないですかね、何もなくて」
「そう? ならいいけど。って、それって『いい』ことなのかしら」
高広とサヤカのやり取りを聞くともなしに聞いていた顔見知り客のみなさんは、ゆうこママの言葉にクスクスと笑った。店内には、ゆうこさんのほかに、月に何度か来てくれる三、四十代の女性客が三人。
朝からのんびりくつろいでいたごいんきょは、息子さんから電話で呼ばれて先ほど帰った。
センセエとジョージは大学へ仕事しに戻った。
代わりに、名前までは知らないがちょいちょい寄ってくれる近所の主婦のみなさんが三人ほど、優雅に紅茶を楽しんでいた。彼女らは、買い物ついでにこの時間に来ることが多い。ケーキやアイスクリームの注文も入るので単価が高くなる。ありがたいお客さまだ。
ひとりでゆっくりしたそうなときは、そっとしておく。友達どうしのときには、話を振られたら入る。常連さんたちの話に反応しているときは、巻き込んで会話の輪に引き入れる。
高広は押しつけがましくならないよう気をつけながら、常連さんたちの緩い輪を緩いままに拡げようとした。
本来社交的でない自分にも、ひと恋しいときはあった。ひとりになりたいときも、誰かと話したいときも、どちらのときも居心地よい店でありたい。
多分虎之介もそうだったのではないか。バランスを取るのはとても難しいことだけれども。
「どういう素性のコなのかしらね」
三人のうち、ちょっとスレンダーな美人タイプの奥さまが言った。
「じいさんの『隠し子』だなんて言ってますからね。僕なんかより、みなさんの方がお詳しいんじゃないでしょうか」
高広はゆうこママに助けを求めた。ゆうこママは首を振った。
「隠し子疑惑は、あの子じゃなくて、あの子のお父さまなんでしょ? だったら全然分かんないわよ、世代的に。もし仮にそうでも、新劇俳優時代のことじゃない? 麗さんに出会う前の話でしょ」
あのふたり、誰がどうやっても割って入ったりはできなかったもの。
ゆうこママは優しくそう言った。ゆうこママが優しくなれたのは、苦い恋が彼女を大人にしたからかもしれない。
「ほかに何か手がかりはないの?」
明るいグリーンのブルゾンに、明るい髪を結い上げた女性が心配そうな顔で高広に尋ねた。
「……そういえば、夕べ七時に『もう列車がないから帰れない』って言ってましたね」
高広は「口実かもしれませんけど」と付け加えた。
ショートカットでアクティブな感じの最後のひとりが、目をくるくるさせて言った。
「あら、じゃあ、少なくとも札幌近郊ではないってことね」
三人は推理を進めていく。
「特急とかで行かないと、辿りつけない場所だわね」
「ここが七時ってことは、札幌駅が七時半でしょ? 岩見沢、旭川、小樽は消えるわね、全然間に合うもの」
「じゃあ、それより遠い、名寄以北? 道東だったら、旭川から向こう、北見、網走。もしくは帯広より向こう、釧路、根室。南だったら」
「そういえば、今って『夜行』ってないんだったかしら」
「函館まで行って新幹線なら……」
「駅から離れた郡部だってことも……」
お客さま同士で話を弾ませてくれる間、高広はひと息ついてスマホを操作した。数行打って送信すると、すぐに返信が返ってきた。短いやり取りを数回繰り返し、フッとひと息ついて高広はスマホを置いた。
ゆうこママが目ざとく気付いた。
「マスター、どうしたの? 忙しいの?」
高広は首を振った。
「ああ、いえいえ。良平くんですよ、バイトの。講義終わってこれから来るっていうんで、買い出し頼んだんです」
高広の言葉に、ゆうこママは優しく微笑んだ。
「あらぁ。新しいバイトさんを入れたの? いい子でない」
「可愛いね! これからずっとこの店にいたらいいっしょ」
「マスターも隅に置けないんでないかい? どこでこんなキレイな子見つけたのさぁ?」
いい歳をしたおっさん、おばさんに口々にほめられ、サヤカはそのたびに嬉しそうに頬を染めた。その感じが初々しくて、またほめられる。そのたびに、高広はうっとうしい当てこすりをされる。
ブラウスのフリルがエプロンからのぞいて、顔周りの空気感がなんというか、華やかというか、……甘い。
トレイを持って店内を移動するときも、スカートの襞がゆらめいて、きびきびとしたお仕事スタイルなのに、ついその下の脚の動きに目が行ってしまう。
一挙手一投足が、ひと目を惹く。
美しいフォームだった。
こんなキレイな子に、自分と共通する遺伝子が、本当に何分の一かでも入っているのだろうか。高広は疑問に思った。
だが、虎之介は、写真を見た限りだが、新劇俳優を目指しただけあってそこそこ美形と言えなくもない。さらに言えば、サヤカとは生物学的つながりの一切ない、祖母の麗子は美人だった。
自分の容姿は、誰に似たんだろう。もう少し美しく生まれてもよかったのではないか。ちょっと不満だ。実際のところはどうなんだろう。自分のことは低く見積もりがちだ。今晩良平に聞いてみよう。
ひとから見て美しくあるというのは、どんな心もちがするものだろうか。
サヤカは、自分の器量を最大限に活用して生きている。それは間違いない。この店に来てからの図々しい態度がそれを物語っている。そう。客観的に見れば「かなり図々しい」ことを言ったりやったりしているのに、不思議と憎めない。自分は愛され、許されることを、一瞬たりとも疑ったことのない……。
(「一瞬たりとも」……?)
そんな人間、いるか?
少なくとも、自然ではないような。
(自然……)
何かが引っかかる。
「いらっしゃいませー!」
サヤカがカランと鳴った鐘の音に反応して笑顔を向けた。入ってきたお客さんにお冷やを出そうと、カウンターにタンブラーを取りに来た。
トレイを持って客席へ向かうサヤカの姿は、背筋がスッと伸びて爽やかだった。
書籍の類いがあるとしたら、店内の書棚しかない。
高広がいくらそう言っても、サヤカは納得しなかった。建物中、自分の目で見て回らなければ気が済まないかもしれない。
「ほかにおじいさまのものが残っている可能性のある場所は、ありませんか?」
「可能性ね……」
高広は車庫の鍵をサヤカに手渡した。
「俺がここを引き継いだときに片付けたし、そもそもよく整理されてたから、ないと思うけど」
誰かひとが亡くなったら、そのひとの所有していた動産・不動産を整理して、残されたひとで分け、その取り決めを裁判所に報告しなければならない。それが遺産分割協議書だ。そのとき、財産の金額によって相続税を納める。
だから、祖父が亡くなったとき、高広も祖父の持っていたものをすべて確認し、書面を作成した。相続税を支払う最低額に達しない、つつましやかな相続だった。痛くもない腹を、いつまでも探られ続けるのは面白くない。
ただ、センセエの言うように、分からないひとが見ても金目のものだと判別できないこともある。昔の台本なら紙質だってよくないだろうし、そのときの高広がガラクタと思ったのなら、処分したことが記憶にも残っていないかもしれない。
根負けした高広は、「そこまで言うなら」とサヤカに、店の裏についている小さな車庫の鍵を渡した。車が一台入るささやかなものだが、一応少しはものが置ける。そこにだって書類の類いは置いてないが、店内で食い下がられるのも煩わしい。いくら接客に支障を出してないとは言え、だ。
店からは、車庫の出入り口は見えない。防犯のため、くれぐれも鍵のかけ忘れのないようにとサヤカには言って聞かせた。盗まれるようなものはないが、他人に忍び込まれたり、火を付けられたりしては困る。犯罪はなるべく防ぐべきだ。
サヤカはぴょこんとおじぎをして、高広に礼を言った。
「ありがとうございます! 行ってきます」
軽々とした足取りで扉に向かうサヤカの背に、高広は、
「お礼を言われても……そこにだって何もないよ」
と念を押した。サヤカは「はーい」と明るく答え、軽やかな足取りで出ていった。
サヤカの出ていった扉を見やり、常連のゆうこさんが高広の方を振り返った。
「マスター、大丈夫? いくら従妹さんとは言え、物をしまってある場所の鍵を渡しちゃうなんて」
ゆうこさんは心配してくれているのだった。さすがは経営者。サヤカの愛らしい見た目や仕草に、簡単にはダマされない。
この辺、闇属性の会社役員とはいえ、根っこはやっぱりおっさんな栗田さんなどと違うところだと高広は思った。
「ご心配、ありがとうございます。いえ、本当に何もないんですよ。洗車用のバケツとブラシくらいで。あと冬タイヤと」
ゆうこさんはみなから「ゆうこママ」と呼ばれている、近所でスナックを経営しているママさんだ。歳の頃は四十代の中盤くらい。ごいんきょから聞いたところによると、若い頃虎之介に憧れて、ずいぶんと熱を上げていたらしい。
ただ、祖父の方は祖母麗子にぞっこんだったので、ゆうこの憧れは憧れのままで終わったとのこと。
だからごいんきょは、
「麗さんと出会われる前のことだとしましても、あの虎之介さんに『隠し子』だなんて、信じられませんですねえ……」
と首を捻るのだ。イケメン役者だった割に、遊び歩くタイプではなかったらしい。案外真面目だったのか、それともそんな余裕なく貧乏だったのか。ただ常連さんたちの反応を見ていると、前者だったような気がしてくる。
高広はゆうこママに笑いかけた。
「金目のものなんて一切ありませんよ。キレイなもんですから。あの子も開けてみて、拍子抜けするんじゃないですかね、何もなくて」
「そう? ならいいけど。って、それって『いい』ことなのかしら」
高広とサヤカのやり取りを聞くともなしに聞いていた顔見知り客のみなさんは、ゆうこママの言葉にクスクスと笑った。店内には、ゆうこさんのほかに、月に何度か来てくれる三、四十代の女性客が三人。
朝からのんびりくつろいでいたごいんきょは、息子さんから電話で呼ばれて先ほど帰った。
センセエとジョージは大学へ仕事しに戻った。
代わりに、名前までは知らないがちょいちょい寄ってくれる近所の主婦のみなさんが三人ほど、優雅に紅茶を楽しんでいた。彼女らは、買い物ついでにこの時間に来ることが多い。ケーキやアイスクリームの注文も入るので単価が高くなる。ありがたいお客さまだ。
ひとりでゆっくりしたそうなときは、そっとしておく。友達どうしのときには、話を振られたら入る。常連さんたちの話に反応しているときは、巻き込んで会話の輪に引き入れる。
高広は押しつけがましくならないよう気をつけながら、常連さんたちの緩い輪を緩いままに拡げようとした。
本来社交的でない自分にも、ひと恋しいときはあった。ひとりになりたいときも、誰かと話したいときも、どちらのときも居心地よい店でありたい。
多分虎之介もそうだったのではないか。バランスを取るのはとても難しいことだけれども。
「どういう素性のコなのかしらね」
三人のうち、ちょっとスレンダーな美人タイプの奥さまが言った。
「じいさんの『隠し子』だなんて言ってますからね。僕なんかより、みなさんの方がお詳しいんじゃないでしょうか」
高広はゆうこママに助けを求めた。ゆうこママは首を振った。
「隠し子疑惑は、あの子じゃなくて、あの子のお父さまなんでしょ? だったら全然分かんないわよ、世代的に。もし仮にそうでも、新劇俳優時代のことじゃない? 麗さんに出会う前の話でしょ」
あのふたり、誰がどうやっても割って入ったりはできなかったもの。
ゆうこママは優しくそう言った。ゆうこママが優しくなれたのは、苦い恋が彼女を大人にしたからかもしれない。
「ほかに何か手がかりはないの?」
明るいグリーンのブルゾンに、明るい髪を結い上げた女性が心配そうな顔で高広に尋ねた。
「……そういえば、夕べ七時に『もう列車がないから帰れない』って言ってましたね」
高広は「口実かもしれませんけど」と付け加えた。
ショートカットでアクティブな感じの最後のひとりが、目をくるくるさせて言った。
「あら、じゃあ、少なくとも札幌近郊ではないってことね」
三人は推理を進めていく。
「特急とかで行かないと、辿りつけない場所だわね」
「ここが七時ってことは、札幌駅が七時半でしょ? 岩見沢、旭川、小樽は消えるわね、全然間に合うもの」
「じゃあ、それより遠い、名寄以北? 道東だったら、旭川から向こう、北見、網走。もしくは帯広より向こう、釧路、根室。南だったら」
「そういえば、今って『夜行』ってないんだったかしら」
「函館まで行って新幹線なら……」
「駅から離れた郡部だってことも……」
お客さま同士で話を弾ませてくれる間、高広はひと息ついてスマホを操作した。数行打って送信すると、すぐに返信が返ってきた。短いやり取りを数回繰り返し、フッとひと息ついて高広はスマホを置いた。
ゆうこママが目ざとく気付いた。
「マスター、どうしたの? 忙しいの?」
高広は首を振った。
「ああ、いえいえ。良平くんですよ、バイトの。講義終わってこれから来るっていうんで、買い出し頼んだんです」
高広の言葉に、ゆうこママは優しく微笑んだ。
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